第38話 頑張れ。
「なるほど。大変だったようですね」
懸命に冷静さを装ってはいるが、グエンの頬は引き
それはそうだろう。
レオナたちが訓練所を使う間、部隊を引き連れて
でも現状は――
・正門:橋としては使えるが、壊れて巻き上げ不可(=いつでも侵入し放題)
・裏門:周辺に
――である。
動かなくなった
グエン配下の兵を訓練所の外に待機させたまま、グエン一人が裏門の方へ案内されたのも道理だった。
「んじゃ、後始末よろしく」
マリアがグエンの肩をポンと叩く。
戦闘の後、ティアは街へ戻っていった。
その護衛として、隊長のレオナ(と副官のサイカ、あとクレアとルックア)は、ティアの馬車に同乗して一緒に戻っている。
つまり、ここに残っている副隊長であるマリアの言葉は、隊長レオナ――ひいては
グエンに拒否権などなかった。
「やれやれ……了解しました。なんとかしましょう」
グエンから、諦めたように言葉が絞り出される。
グエンの立場では、これ以上押し付ける先がないのだ。
これは「できる」か「できない」かの問題ではない。
哀しき宮仕えのグエンにとっては、「できる」か「なんとかする」かの問題なのだ。
「ま、就任早々に大変だと思うが、頼んだよ」
「なんか、こんな時の為に昇進させられた気がしますよ」
先日のゴブリン討伐は
だが裏では、あの指揮官の下であの程度で状況を収めた手腕を、
それでグエンは、これまでの軍歴などを表向きの理由に、ここの常駐部隊を含む、後方支援の部隊を任されるに至ったのだ。
家柄も地位も低い武官であるグエンとしては、破格の昇進。
しかも、華々しい出世ルート上の
表向きは
のだが。
(一番の昇進理由は、俺にしかこういうことができないからな気がしてきたぞ)
前回マリアたちと行動を共にし、彼女たちの役割がまともでないことは、肌で感じている。
そんな彼女たちが所属する部隊が、表に出せないことに使われるのは明白だろう。
そんな彼女たちが今回のように暴れれば、今回のように表に出せない
これを重臣の一族などにやらせれば、逆にティアの足を引っ張る材料にされるだけだろう。
その点、ティアに否定的な重臣たちとはまったく
要は、公にしたくないことの尻拭い係に、グエンは任命されたわけだ。
■■■
「さて、と……」
マリアが他の隊員を引き連れて訓練所を後にするのを見送りながら、グエンは頭の中で具体的な対応の検討を開始する。
(正門は、まずなにより修理か)
修理は、軍の工兵を使うわけにはいかない。
跳ね橋を兼ねる正門が、明らかに外から魔法で攻撃されているのが見て取れてしまう。
この話が軍で広まったら、
ティアが街へ連れてきたドワーフたちにやらせれば、詳細が外へ伝わることもない。
ただ問題は、武官や文官がその地位を笠に着てドワーフに命令しても、あいつらは動かないという点だ。
なぜなら、人間の組織系統に組み込まないという条件をティアと交わしたうえで、彼らは街へ移住してきているからだ。
(その辺は、ドワーフ鍛冶ギルド
だがそれで、まあ何とかなるだろう。
あとは、目立たないように街からここまで、ドワーフの職人たちを連れてくる算段をつければ終わりだ。
(で、あとは裏門か)
州都の足元で、翼竜と怪しい装束の賊が死体になってたくさん転がってます――というのは、軍に伝わると色々面倒だ。
こちらこそ内密に進めなければ、ティアが政治的な足枷を受ける危険性がある。
(こっちは、冒険者ギルドの
先日のゴブリンの群れほどにもなれば軍が動くが、本来
魔獣の処分といった退治後の対応も、専門の部署を構えて行っている。
翼竜を引き取ってもらって解体し、市中へ流通させてしまえば、事件の痕跡など残らない。
ギルドも
賊の死体の処分をおまけで付けても、喜んで「討伐した盗賊団」だとか、いい感じに口裏を合わせてくれるだろう。
本来ならば、どちらも「知ったこっちゃない」で門前払いになるような案件だ。
だが、そこを「しょうがないな」で引き受けてもらえるだけの個人的なつながりが、グエンにはあるのだ。
一緒に仕事をすると、種族を問わず、なぜか年配の男からのウケがいいグエンであった。
これについては、グエン本人としては仕事がやり易いので悪いことだとは思ってないのだが。
ただ……。
「しっかし、なんで俺ってば、おっさんにしかウケないんだろうねぇ」
ただ、これが若い女性にはまったく
じつは、どちらかというと容姿性格含め、自他ともに認める「そこそこモテそう」なグエンなのだが、彼の人生において意外と縁がないのだ。
「さっきもマリアの姐さん以下、全員いい女だってのに、だーれも見向きもしてくれねーんだもんなー」
頑張れグエン。
本気で
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