第29話 橋上の攻防(後編)

 ふてぶてしい笑顔を浮かべ、カーラが一歩前へ踏み出す。

 一体の竜牙兵が、それに合わせるようにカーラの正面から切りかかって来た。


「おっと」


 それをカーラは、危なげなく大剣で受け止める。

 だが竜牙兵の攻撃は、囮だった。


 衝撃を受け止める為に動きが止まったカーラの死角から、別の一体が新たに切りかかってくる。

 カーラが一人であれば、その攻撃は命中していただろう。


 ゴンッ!


 だが、その剣がカーラへ届く前に、鈍い音と共に竜牙兵の頭蓋骨へ矢が当たった。

 矢は竜牙兵の頭蓋骨を砕き、その衝撃でバランスを崩した竜牙兵の剣が止まる。


 普通の矢であれば湾曲した頭蓋骨で滑り、傷すら付かなかったかもしれない。

 だが、そのやじりの後部に付いている特殊な筒仕掛けがそれを許さなかった。


「オラッ!」


 中が見えるほど砕けた頭蓋へカーラの横殴りの大剣がぶち込まれ、頭部のおよそ上半分を消失させて竜牙兵が吹き飛ぶ。


「……ま、こんなもんか」


 立ち止って周囲を見回したカーラは、大剣を肩に担いでフゥッと息を吐いた。

 橋の上は残骸ばかりで、剣を取って襲い掛かってくる竜牙兵の姿は、もうない。


「男の捕縛も完了した」


 マリアが、ローブの首根っこをつかんでローブ姿の男を引きずりながらやって来る。

 手足を拘束されている男はジタバタと足掻あがこうとしているが、マリアに対する抵抗にもなっていない。


「ごくろーさん、マリア」

「ルックアの魔法に巻き込まれてぶっ倒れてたのを縛り上げただけだ。おまえカーラに労ってもらうほど苦労はしてないな」


 声をかけてきたカーラに苦笑いで応え、橋を渡りきったところでマリアはふと立ち止まった。

 その視線は、見張り櫓の上に立つルックアに向けられている。


「……了解した。アルテアの班を向かわせる」


 視線の先に小さく見えているルックアに返答すると、マリアは視線を周りの隊員たちに向けた。

 それ視線を受けたカーラが、感心したようにマリアへ笑みを返す。


「ルックア経由で離れた場所から指示を出すってか……あのルックアを決戦兵器ってだけじゃなく、見張りと伝令でもき使うなんて、うちの隊長は人使いがあれぇな」

「その隊長から次の命令だ。アルテア以下四名は裏手へ急行し、隊長に従え。残りはここで門の警護だ」

一仕事戦闘終わったばっかだってのに、あの隊長ホント容赦ねーな。そもそも隊長たちがなにやってんのか知らねーけど、どっか他に敵でも湧いたのかよ?」

「いや、そういう情報はなさそうだ――だが、わたしも隊長と同意見だな」

「どういうこった?」

「まだ敵が潜んでいると見ておいた方がいいということだ。こっち正門はおそらく陽動だ」

「あんな非常識な数の竜牙兵を出しといて、あれが陽動だってのかよ!? 詰めてたのがいつもの留守番兵だけの時なら、ここは潰されてたぜ?」

「飛行する魔獣でなく徒歩の竜牙兵で攻め寄せても、橋を渡らねばならない以上、数の利は生かせん。数でこっちを脅しておいて、戦力を引き付けたいだけという可能性が高い」


 それを、正面の敵男と竜牙兵を見てすぐに陽動と判断して裏手へ走ったというところに、マリアとしては感心を通り越して苦笑いが出てしまう。


(どれだけ机上で頭に知識を詰め込んでも、本物の敵を目の前にしてんなそんな判断なんか冷静にできんぞ、普通――ったく、いったいどういう人生送って来たんだ、あの隊長殿は?)


 その頃レオナは、マリアのそんな心中の感嘆などに気付くわけもなく、懸命に裏門に向かって走っていた。(メイド服で)

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