第28話 橋上の攻防(前編)

「オラッ! ここを通れると思うなよ!!」


 大剣を片手で振り回し、カーラは最前列の竜牙兵ドラゴントゥースウォリアーをまとめて橋から叩き落としていった。


 大剣は、その重量をも武器としている。だが、その重量を振り抜き、引き戻すまでの硬直を突いて襲い掛かってくるのが、竜牙兵の技量だ。

 そんな竜牙兵の剣撃を、大剣を持たないもう一方の拳で叩き払い、勢いを殺せずつんのめってきた竜牙兵の頭蓋骨に頭突きを喰らわせるのが、女戦士アマゾネスカーラだった。


「こんな狭い橋の上、数の差なんて関係ねぇ! 全部オレが橋から叩き落してやるから、まとめてかかってきやがれ!!」

「格好つけるのはいいが、すでに結構取りこぼしてるぞ、カーラ」


 カーラの脇をすり抜けた竜牙兵たちを相手取りながら、マリアが揶揄からかうように声をかける。


 ローブの男の命令を受けている上、戦士と駆け引きできる技量を持つ竜牙兵は、当たり前のようにカーラを避け、目的である奥へと進もうとすることくらいは平気でやる。

 そうなると、身体がひとつしかないカーラには、物理的にカバーなどしきれるものではない。

 なにしろ、元々軍という規模が出入りする跳ね橋だけに、カーラの守備範囲より幅が広いのだ。


「……おまえらの仕事も残しておいてやってるんだよっ」


 ひとつ前のセリフとの矛盾をあえて指摘することはせず、マリアは笑みを消し、カーラにだけ聞こえる声で伝える。


「無理せず、時間稼ぎに徹しろ。お前が全部片づける必要はない――隊長が、をいい場所ところへ配置してくれている」

「……なるほど。りょーかい」


 マリアの言葉の意味を理解したカーラは、一度チラリと見張り台へ目をやると、正門近くまで下がった。


 その後は、襲い掛かって来た竜牙兵を大剣の大振りで一気に始末するのではなく、敢えて切り結び、その場での戦闘を長引かせる方針に転換。

 マリアとカーラを前衛に、他の隊員が槍や飛び道具で援護を続ける。


 それによって倒れる数は減った代わりに、竜牙兵たちは守りを固めたマリアたちの前に釘付けとなり、後続が橋の手前で動けなくなっていた。


「ははははははっ! どうした、動きが止まったんじゃないか? ほれ、必死で抵抗しないとこやつらの餌食になるぞ、はは、は……えっ!?」


 橋の向こうから嘲笑を飛ばしてきていた魔術師の言葉は、最後に驚愕の声で途切れる。

 視線も、マリアたちではなく少し上方へ移っていた。

 そこへ急速に迫り、魔術師の視界一杯に広がって――。


 ドンッ!!


 爆発が、魔術師を襲った。


「さっすがルックア」


 飛びかかってくる竜牙兵を大剣で押し返しながら、カーラは口笛を吹いて称賛する。

 爆発によってもうもうと立ち上っていた土煙が晴れると、対岸の様子が見えてきた。


「相変わらず、とんでもない威力と正確さだな」


 ルックアの魔法の火球ファイアーボールにより、対岸の竜牙兵の大半が吹き飛んでいるのを確認し、マリアも思わず感嘆の声を上げる。

 残っているのは、十体前後の竜牙兵、そして無防備に爆風を受け、地面に叩きつけられて倒れ伏す男のみとなっていた。


『隊長から伝令』


 マリアの耳に、風の精霊によってルックアの声が運ばれてくる。


『竜牙兵を殲滅して、男を捕縛』

「了解。竜牙兵を一匹残らず殲滅し、男を取り押さえる――カーラ、ここは任せた」

「おっしゃ、いくぜ!」


 カーラは目の前の竜牙兵を盾ごと蹴り飛ばして間合いをあけると、気合と共に大剣を大きく横薙ぎに払い、最前列の数体をまとめて吹き飛ばす。

 間髪入れず、マリアがカーラの横をすり抜けた。


<<デアタイラ分かつもの>>


 武技アーツ発動の呟きと共に、中央の竜牙兵の頭を目掛けてその剣を振るう。


 常人の目には追いきれない速度で切りつけられたそれを、だが竜牙兵は盾を掲げて防ごうとした。熟練の戦士に匹敵するとの竜牙兵の評価に偽りはない。

 だが、剣はその盾ごと、竜牙兵をまるで紙でも断つかのように両断した。


 マリアはまさに崩れようとするその竜牙兵に肩からぶち当たって砕き飛ばし、続けてその後ろにいる竜牙兵へ狙いを定める。

 その時、両脇にいてその剣から逃れた竜牙兵たちが、自分たちの脇をすり抜けたマリアの背中に剣を向けた。

 そこへ。

 

 ガッ!


 その頭部と背骨が鈍い音を立て、竜牙兵がバランスを崩してよろめく。

 それは金平糖のような突起に覆われた、金属の礫がぶつかった音だ。


 竜牙兵は、見た目に近いものがあろうとも、アンデッドの骨人スケルトンなどよりずっと硬い。

 後衛の隊員が振るうスリングから放たれた金属の塊――それも突起付き――を受けても、わずかに罅割ひびわれる程度だ。


 しかし、それで十分。


「お前の相手はこっちだっ!」


 カーラが、上段から力任せに大剣を振り下ろす。

 竜牙兵は、それを盾と大剣を交差させて受け流そうとした。


 それは成功したかに思えた――が、大剣が盾にぶち当たった瞬間、盾に受けて逃がしきれなかった衝撃によって、先ほどひびの入った背骨の亀裂が広がり、砕けてしまう。

 竜牙兵の背骨が真っ二つに折れ、骨の体はそのまま大剣で叩き潰された。


「さあ、次はどいつだ?」


 舌なめずりしながら。

 カーラがゆっくりと一歩、前へと踏み出す。

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