第20話 これが隊員(前編)

「マリアは副隊長、サイカがお前の副官となる」

「副隊長のマリアです」

「副官を拝命しましたサイカです。よろしくお願いいたします、隊長」

「ちょおーっと待ってください!」


 レオナに向かって見事な姿勢で敬礼までして見せる真面目な顔つきのマリアやサイカと、面白そうにニヤニヤしているティアの間に慌てて割って入る。


「マリア様もサイカ様も、官位で言えば州の評定会議に出席できるくらいの偉い武官様ですよね!?」


 太守のそばはべる為の箔として与えられる官位なので、実際に評定に出てくることはないのだが、それでも使用人と比べれば、とても偉いことには変わりがない。


「そうだが?」

「この間、使者に立ったマリア様とサイカ様にとして付いていってお世話させていただいたのは自分の方なんですけど!? それがなぜ今度は自分のなんてことになるんですか!」

「太守である私の決定だからだ」

「ぐっ……」


 正論で返されてしまうと、勢いで詰め寄っていったレオナとしては、言葉に詰まって返す言葉もない。

 とはいえ目の前の状況を、はいそーですかと受け入れるのも難しい。


「だ、だいたい、お二人は近衛隊所属でしょう? 新しい部隊に……なん……て…………」

「言ってる途中で気づいたようだが、一応言っておこう。マリアとサイカは、任務として、お前の部隊に配属になる――期限はないから、実態としてはお前の私兵だな」

「し、私兵って……」

「今回創設した部隊は、軍からは独立している。上は太守のみ。正規の組織ではないから、隊員は部隊を離れてもどこにも行くところ異動先はない。隊員全員、死ぬまでお前が面倒を見ることになる」

「あのー……そーゆーことは、先に説明しておいてください」

「お前がずっと駄々をねてたからことを説明する時間がなくなったんだろうが」

「ぐ……っ」

「それより、独立部隊という点には、あまり驚いていないな?」

「まあ、去年まで未成年こどもだった使用人メイドの女に隊長やれって言ってる時点で、正規の組織に組み込まれてないとは思ってましたから。引っかかってるのは、部下がこのお二人のような立派な方だということです。一体わたしに何やらせるつもりなんですか」


 近衛隊の、それも裏で太守ティア直々の命を受けて動くような人物が必要になること任務って何!? そんなところの隊長に自分って何考えてんの!? というのが、今のレオナの正直なところである。


「お前は、何をやらされると思ってたんだ?」

「街の孤児や職にあぶれた若者を連れて、街の外で群れからはぐれたモンスター退治でもやらされるのかと思ってましたよ」


 食べていけない住人が増えれば、街の治安というものは簡単に悪化する。

 なので、そんな彼らに所謂いわゆる『冒険者』をやらせ、食い扶持を与えようという程度のことだろうと考えていたのだ。


 正直、それですらなんの冗談かと思っていた。

 なにしろ自分レオナは女で、ただの使用人メイドなのだ。

 それが蓋を開けてみれば、近衛隊に属する戦闘のプロマリアとサイカが部下だという。


「まあ、やることは大差ないかもしれん。表向きも近いところはあるがな――ただ、相手は街の外のはぐれモンスターだけではない。というか、そんなものはだ」

「ついで、ですか」

「ああ。軍や冒険者ギルドが動かないような事件に対応するための部隊だ。そういった組織が、しがらみや、場合によってはどこからか身動きがとれんようなヤツだな」


とか、とってもキナ臭い匂いしかしないんですけどー)


「……やっぱり、隊長を辞退してもいいですか?」

「お前の母親に言いつけるぞ?」

「うぐっ……!!」

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