第15話 部屋に帰るまでが、お仕事です
ティアの執務室。
レオナたち三人はなんとか閉まる前に
「なるほど。ご苦労だった」
執務机を挟んで三人からの報告を受け、
「…………」
ジトー、っと。
レオナが、そんなティアに視線を向けている。
馬車の中で、サイカとマリアに全身隈なくマッサージを受けたレオナは、なんとか自分で歩けるほどに回復していた。
「ん? どうした、レオナ?」
ティアは表情一つ変えず、レオナに声をかける。
レオナの方は、ジト目をやめない。
「……騙しましたね」
馬車の中では、マリアとサイカに猫かぬいぐるみの如く(いやそれ以上に)可愛がりに可愛がられてスキンシップ塗れにされた。
しかも、それがマリアとサイカが今回の任務を引き受ける条件として、レオナの与り知らぬところで密約が結ばれていたという事実。
おかげで、大人(の男である前世)のプライドが微妙に傷つくやらマリアとサイカは
「ははっ、まあ許せ」
それを事前の想像通り、ティアは明るく笑って済ませようとする。
レオナのジト目が消えるはずもなかった。
「ダメです。ここで許したら、また……」
「そう言うな。この二人が、道中レオナを可愛がれないなら、今回の任務を引き受けないと言い張ったんだ。立場の弱い私にはどうしようもなかったんだよ」
「あなた、ここで一番偉い人でしょうがっ」
こんなことで許すものかとレオナが決意して机越しに詰め寄ると、ティアが仕方ないといった表情で不意に立ち上がった。
執務机を回り込み、つかつかとレオナに近づいてくる。
そして。
「全てを明かせずにいたことは詫びよう。だから許せ」
レオナの頭を引き寄せ、自分の胸に抱え込むと、そう囁いた。
「~~~~~~~~~っ!!!」
胸の谷間に埋もれて真っ赤な顔でジタバタするレオナだったが、ティアは離そうとはしない。
マリアとサイカも、楽しそうに見ているだけで、助ける気はないらしかった。
当然だろう。
ティアは、レオナが逃げようとするのを無理矢理抑え込むほどには、力を入れていないのだから。
「さて」
レオナがジト目に戻らない(戻る気力を奪われた)ことを確認してから、ようやくティアはレオナを離した。
「三人とも、大儀だった。今日はもう休むがいい」
■■■
(つ、疲れた……)
ティアの私室へ戻って着替えさせた後、レオナはフラフラと疲労困憊のまま、自分の部屋へと戻る。
「おかえり、レオナ」
部屋に入ると、いつもなら寝ているはずの
「ただいま……待っててくれたんだ」
「そりゃ、レオナが強いのは知ってるけど、女の子がゴブリン討伐に行くなんて言って出ていったら、心配で寝てられないでしょ」
「ありがと。別に自分でゴブリンを退治してたわけじゃないから、大丈夫。使者の人に付いていってお世話しろって言われただけだから」
ギリギリ嘘は言ってない。
言ってない部分が言えない部分というだけだ。
「怪我とかなさそうで安心したけど――なんだかすっごく疲れてない? 大丈夫?」
「うん。ほんっとーっ、に疲れた……もう、寝る」
「ダメだよ!」
メイド服のままベッドへ倒れこもうとするレオナを、アイシャは後ろから抱き着いて止める。
「え~……」
小柄なレオナをギュッと抱え込み、レオナが倒れこむのを諦めて自分の足で立つことを確認してから、やっと離した。
「ちゃんと着替えてからでしょ。もうちょっと我慢しなさい!」
アイシャは、勝手知ったるレオナの収納箱からあらかじめ取り出しておいた、きちんと畳まれた
「う~~……
「ダメ」
ホワイトブリムを外され、メイド服を半ば強制的に脱がされ、寝間着に着替えさせられる。
「も……だめ……」
半ば意識を飛ばした状態で、自分のベッドに倒れこむレオナ。
そのベッドがちゃんと整えられていることに、気づいてもいない。
「明日は自分で起きられる? 起こそうか?」
「うん。お願い……明日はさすがに自信ない…………」
「はいはい。じゃあ明かり消すよ」
「うん……おやすみアイシャ…………」
「おやすみ、レオナ」
髪をそっと撫でられ、額に優しく口づけされたことに気づくことなく、レオナは深い眠りに落ちていった――。
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