春田明佳の場合
雨は小降りになってきて、教室の停電も復旧したようだ。蛍光灯がともりだし、教室に明かりが戻ってきた。普段の教室の風景にもどりつつある。
***
「ハルはそう言い切るけど、根拠があるん?」
まだ、勘違いと認めたくない美麗が口をとがらせる。
「それは……」と明佳は、コホンと咳ばらいをした。
「惚れた場合の立ち位置が違うからです!」
明佳は、勝ち誇ったかのように、片方の手を腰に当て、もう片方の手でビシっと指差した。
「へ?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした美麗を無視して明佳が話を続ける。
「聞いて驚くなかれ! 私、春田明佳は、この前、クラスの
「如月って、ダンス部の? ちょーモテモテのモテ子じゃん。でも、如月なら、K大のテニス部に彼氏がいるって話きいたけど?」と綾音。
「ちゃうちゃう。あの子の彼氏は、現役T大医学部の大学院生、家庭教師って聞いたで」と美麗。
「ちっちっち」と明佳が人差し指を振る。
「どちらも情報が古い。今は、市立荻が丘高校の生徒会長を狙ってるのよ」
「「さすが、肉食系女子!」」
パチパチパチ
美麗と綾音が拍手をする。
「せやけど……。それやったら、ハルはあの子の単なる引き立て役やろ? それに、立ち位置がっていうのがさっぱりわからん」
「そこが甘いっていうんですねー。これだから、恋愛初心者は……」
明佳が、訳知り顔でわざとらしくため息をつく。
「「はい?」」と美麗と綾音の声が重なる。
コホンと明佳が咳払いをする。
「えー。われら聖ベリル女子生三人と、男子高生三人の六人のパーティが向かった先は、映画『魔界からの大脱出』。駅前の映画館でMX4D上映しているからって如月隊長のセレクトであります!」
「何、その言い方。ウケる。……せやけど、その映画、めっちゃ揺れるやつやん」
「それな! 風も揺れも音もやばかった」
「で、何があったん?」
「その映画館で、パーティーメンバーの中の一人の男子高生に惚れられてしまったのです!」
話の展開についていけない美麗のかわりに、綾音が「具体的に何があった?」と聞いた。
「右隣に座ったんだよ!。右隣!! 右隣といえば、惚れた男子が立つ立ち位置でしょ? ほら、彼女を守りたいと思う男性は右側に立って、彼女の右手を握るっていうじゃない?」
「映画の時、手を握ったん?」
「まさかぁ……。そんな、高校生が不純なことできないわ。妊娠しても困るし。……、でも、あいつは絶対に私のことが好きになったんだと思うの」
「へ?」と美麗が気の抜けた声をだした。
綾音は「やっぱり……」とあきれ顔。
「ほ、ほら、私ってドリンクを飲むとき、少しだけ右側を向くでしょ? その男子、私の顔を見たくて、右側に座ったに違いないのよ。惚れてしまったから、視線を絡ませたい?っていうやつ? うふふふふ」
一人顔を赤らめてうふふっと言っている明佳。
「あのさぁ。明佳。ひとり盛り上がっているところ悪いんだけど、何人で行ったんだっけ?」
「女子三人、男子三人の計六人」
「男子三人、女子三人で映画に行ったとなれば、男女交互で座ろうという話になり……、この場合、特定の人が隣に座るという事象は、確率の問題。ここで、男女交互に座るとして……、この二人を固定して考えると……2/9の確率になる? ……というより、如月には狙いの男子がいるのだから、ほぼ1/2の確率だな」
「へ?」と今度は明佳が気の抜けた声を出す。
「明佳、相手とアドレス交換した?」
「ううん。その男子、スマホに登録できる件数が決まっているとかで、如月さんしか知らない」
「名前は?」
「『ヒロ』って呼んでくれって、如月さんに言ってた」
「フルネームは知らないまま? 自己紹介もなし?」
「まあ……」
「じゃ、二人で、次、会う約束とかした?」
「…………」
綾音は、明佳の肩をぽんぽんと叩いた。
「その男子は、たまたま、明佳の右隣に座っただけ。仮に、気になったのなら、名前くらい名乗るはずだ。さらに言わせてもらえば、スマホに登録できる件数が決まっているだなんて、小学生にしか通じないいいわけでアドレス交換しないのは脈なしの証拠」
「そんなぁぁぁぁぁ……」
明佳はがっくりと肩を落とした ――――。
さんにんよれば……コイバナだよね? 一帆 @kazuho21
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