第101話

「涼木さん、見ましたか?」

「御戸部さん、例のアレですか?」


ニュースで話題になっていた〈地球滅亡〉のことだろう。


「アレ、が滅亡関係なら」

「ちなみに何処の国だったんです?」


ニュースでは、国名は伏せられていたしな。


「ITAみたいですね。証拠として出た音声データの名前が現役ITA議員でしたから」

「国が分かっていると言うなら、情報を出した人物は特定できているんですか?」


あぁ、ネットで検索したら普通に出てきそうな情報だったか。


「ITA政府は、公式には情報漏洩を認めていませんが、捜査は開始しているみたいです。ただ、どうやらハッキングされていた方法が特殊らしくて名うてのハッカーの仕業だろうとか。国籍、性別、年齢など、何も分かっていないらしいです」

「と言うことは、捜査自体が難航しそうだと?」


・・・面倒なヤツが絡んできたんだな。

これは情報がダダ漏れになりそうだぞ。


「捜査どころか、ハッカーの正体すら分からない可能性が高いですね。世界中で手配されていても捕まっていないみたいですし」


・・・俺が捕まえちゃえば、上手く利用できないかな?

凄く便利?って道具じゃないんだし便利って言い方は不味いか。

でも、世界中で手配されてて捕まってないのは素直に凄いことだと思う。

現代社会、何処にカメラがあって、何処で見られているか分からないのに、それでも捕まらないって言うんだから、まるでアニメの三代目な大泥棒みたいだな。


「原因を排除するのは難しそうですね。となると、後は何時どうやって本当の情報を開示するかって議論になりそうですが?」

「それは、私では何も言えませんね」


だろうな。

公務員としては、下手なことは口にはできないだろう。


それにしても、これはアチコチでボヤ騒ぎが起きそうな予感がする。

一度漏れた情報を完全に無かったことにはできないだろうし、そうなると疑惑はどこかで燻り続けるだろう。

それは、意図しない時に再燃するってのがお決まりだからな。


はぁ~、参ったな。

まだ〈ゲート〉の設置が残ってるし、折角の休暇がこんな騒動で潰れるなんて勘弁して欲しいよ。



*** *** *** *** *** ***



「おいっ!どうなっているっ!」

「まだ、犯人の特定には至っておらず・・・」


「馬鹿者っ!そんなことでは、世界中から非難を浴びることになるのだぞっ!」

「しかし、現在の調査で分かっているのは・・・」


「世界中で手配されていようが、そんなことはどうでも良いっ!お前がやるのは犯人の特定と捕縛だっ!」


世界中が指名手配していて捕まらなかった人物を、捕まえろとは・・・何とも酷なことを命令するものである。

そんな命令をするくらいなら「自分で捕まえれば良いだろ!」と言いたそうな表情を一瞬だけ見せた部下が「分かりました」と短く返事をして部屋を出て行った。

今頃、何かに当り散らしているかもしれない。


だが実の所、切羽詰って逃げ場が無いのは指示をした上司の方だった。


「クソッ!何がセキュリティーで問題があるから情報が漏洩しただっ!」


どうやら更に上の方から厳しいことを言われている様子である。


「だいたい、サイバー対策には費用が掛かると言っているのに充分な予算を出さずに対策だけはしろとか、あり得ないだろうがっ!サイバー対策部の部長などなるんじゃなかった!」


色々と鬱憤が溜まっている様子であるが、どんな事情があろうと問題が起きれば誰かが責任を取らなければならないのは、何処でも同じなのだ。

まあ、今回のハッキングによる情報漏洩は彼が責任を取ることになりそうではある。


「世界中で手配されている超凄腕のハッカー、道化師クラウンがそんな簡単に尻尾を出すはずが無いだろうに・・・どうすれば良いって言うんだ!」


机に額を押し付け、頭を抱えて悩んでいるようだが、そんなことで良い方法が浮かぶなら誰も苦労はしないのだろう。



*** *** *** *** *** ***



「どのくらいで日本として〈地球滅亡〉に対して公式な見解を出せそうだ?」

「魔素をみとめることで格段に進んではいますが、まだ数週間は時間が必要かと・・・」


「それでは困る。何とか今月中にならないか?」

「残り三週間弱ですか?それは何とも・・・」


本来であれば、長い時間を掛けてやることを短時間であら無くこなすなど不可能だろう。

そんなことは総理も理解しているのだが、現状では一部とは言え情報が漏れてしまったと言う事実がある以上、如何に早く対処可能な体制を整えるかが問題だった。

そのためには、無理を言っていると分かっていても、それを強要するしか無かった。


「頼む。他国からの追求が始まる前に体制を整えねばならんのだ」

「それは理解していますが・・・何処までできるかは分かりませんが、担当者達には今月中に何とかできないかプッシュしてみます」


今までは他国に対して「賢者がこんなことを言ってるよ。マジだったらヤバイから、日本でも検証してみるね」と言っていた。

だが、それは情報を上層部で留めていたからできたことで、一度世に出てしまえば、そんな悠長なことは言っていられない。

何時国民が騒ぎ出すか分からないからである。


何処かの国で騒ぎが起きれば、必ず「それは最初に情報を提供した日本の責任問題だ」と言い出すだろう。

そこである程度纏まった公式見解を出さねば、誰も彼もが日本を攻め立てるだろうことは分かり切っているのだ。


折角〈ゲート〉の設置で色々な譲歩を引き出したと言うのに、それが御破算になるのだけは避けたかった総理には他に選択肢が無いと分かるだろう。


ただ、この時点で総理の心中では「他国が原因の情報漏洩の責任を日本が負う」ことへの不満が渦巻いていた。



*** *** *** *** *** ***



「俺の技量で凄腕のハッカーを探し出すのは難しいだろうな」


この言葉は勿論「魔法を使わない場合」はってことだけど、実は魔法をデジタル情報に対して使ったことが無かったんだ。

だから、今後のことも考えて・・・


「デジタル情報に魔法が、どう影響を及ぼすか?実験がてら色々テストしてみるか!」


そんなことを考え付いた訳である。


まあ、考えてみれば分かるのだが、あっちの世界には電化製品やパソコンなんて物は無かったし、こっちに帰って来てからは他にやることが沢山あって頭も手も回らなかったんだ。

だから、魔法の新たな可能性を知るって意味では有効なテストになりそう。


ついでに凄腕のハッカーを探し出せれば完璧だが・・・それはやる前から期待し過ぎかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る