第100話

「なあ、とんでもない情報が入ってきたんだが、コレ、本当だと思うか?」


とある新聞社の記者が同僚に話し掛けていた。


「何がとんでもないんだ?」


聞かれた同僚は、その記者に詳しい話を聞こうとしていた。


「コレなんだが、俺の使ってる情報屋が手に入れてきたネタなんだが、地球が滅亡するって言うんだよ」

「はぁああ?滅亡だって。ホラ話にしても行き過ぎだろう」


「だよな。俺も、そう思ったんだが・・・その情報屋が言うには、かなり危ないルートで国の上層部の通信をハッキングした内容だって言うんだよ。そこまで言われると、流石にホラだと言い切るのも、なぁ」

「・・・マジか?それ」


一瞬二人の会話が途切れた。


「・・・証拠がある訳じゃ無いから、100%自信があるとは言え無いが、情報屋は信用できるヤツだな」

「・・・じゃあ、お前はそれで記事が書けるか?」


「・・・無茶を言うなよ。世界中がパニックになるのが分かってて書ける訳が無いだろ」

「だろうな。なら本当かどうかは関係無い。すっぱりと忘れろっ!それしか無い」


同僚に言い切られた記者は、それでも諦めると言う決断ができずにいた。


「だけどよぉ。記事にはできないけど、知りたくないか?本当かどうか・・・」

「・・・止めろ!俺を誘惑するんじゃねぇ!そんなヤバイ橋渡れるかよっ!最悪、命の危険が付き纏うじゃねぇか」


同僚は、状況から推測される未来を記者に突き付けた。


「っ!そこまでか・・・もしれないな、確かにあり得ないとは言い切れないか」

「分かったか?お前が個人的に追及したいって言うなら勝手にすれば良いが、俺や他のヤツラを巻き込むなよ!」


「命を懸ける価値があるか?どうか?・・・いや、命あってのモノダネか・・・」


どうやら、やっと諦めて忘れることにしたようだった。



だが・・・

元の情報を流した情報屋は、そこまで考えなかったのか?それとも命を懸けるに値すると判断したのか?この情報を隠すことは無かった。

記者に情報を流してから二週間。

いっこうに記事にならない情報を、自身が匿名でネット上にブチ撒けたのだ。


最初は誰もが「馬鹿げたジョークだ」と笑っていた。

そこに追加で出されたのが、音声データだった。


その中には、良く聞く大物政治家の名前と〈地球滅亡〉と言う言葉が確かに出てきていたのだ。


ネットでは、合成だとか、上手く切り抜いただけだとか、そんな感じで余り騒がれなかった。

これはもっと大々的に騒ぎになると思っていたであろう情報屋にとっても誤算だったのかもしれない。


しかし、一部では蜂の巣を突いたような騒ぎになっていた。


この情報屋の投稿、発見したのは日本の〈分室〉だった。

日本国内で情報を封鎖していた彼等は、この手の情報を発見するのが上手かったのだ。

ただ、今回は話題になる前に抑えることはできていなかった。


まあ理由は簡単で、情報の発信源が国外だったのと人員不足である。


流石に24時間国内外問わずネットの情報を全て監視するとなれば〈分室〉程度の人員でできる訳が無いのだ。

それこそ有名所のCIA、FBI、MI6、モサド等々のような大きな組織で、資金と人員に余裕がなければ無理である。


そこで疑問が一つ、そんな〈分室〉が情報を封鎖できたのは何故か?


彼等は、文明の利器を一部排除したのだ。


例えば、電話。

建物外に繋がっている電話は三台だけで、それも電話会社を通さない直通のみ。

つまり決まった所以外には電話ができないようになっている、所謂ホットラインってやつだ。


他にも内部のコンピュータ関係もネットに接続されているのはネットの情報を調査する部署だけで、他の物は全部ネットから切り離されて独立している。

じゃあ、データのやり取りは?と言えば、全てメモリーで受け渡しをしている。

内部回線(イントラネット)なども存在していない。


建物外に持ち出せるデータは基本的に紙媒体が主体で、メモリーなどは特殊な条件をクリアしなければ許可されない。

その運搬に使用されるケースも特殊で、鍵を正規の方法以外で開けると中の紙が焼却されるようになっていた。


まあ、一度もケースを奪われたりしなかったのだけど。


外部での重要な会話などは、特定の場所以外出は基本的に通信機能の無いタブレットを使った筆談のみ。

終了後には必ずデータが全て消去される徹底振りだった。



で、話が元に戻るが、情報屋が情報を得たのは勿論そんな対処がされていない他国でのことである。

いくらセキュリティーを強化しているとは言え、完璧だとは思えない通話回線での会話をハッキングされて盗聴された訳である。


それも秘匿されるべき〈地球滅亡〉と言う特大級の爆弾情報を知られると言う失態に、世界中の各国首脳部は騒然としたは当たり前だろう。


ただ、世界各国は賢者がもたらした〈地球滅亡〉と言う情報を完全には信じ切れておらず、何処か危機感が薄いのである。

その対応が今回の情報漏洩の原因の要因になっているのかもしれない。


とは言っても、完全に信じていない訳では無いので、各国が秘密裏に独自の検証チームを作って〈地球滅亡〉に関する調査や検討をしている。

結果は・・・まだどの国でも出ていないが・・・


日本の環境省も魔素や魔力を考慮しないで〈地球滅亡〉を説明する方法を探していたが、それを断念していた。

現在は、調査で得られた数値などと予測されていた数値の間でズレている部分に、新しい概念である魔素が影響しているのでは無いか?として、そのズレが〈地球滅亡〉に繋がるか?を検証しているところである。

この考えは割りと的を射ていたようで、なかなか良い感じの報告が上がってきていると各所に経過報告がされているそうだ。


ただ、一度出てしまった情報と言うのは無くなりはしない。

いつか、何かの拍子に再燃する可能性がある。

それまでに、世界中の人々に説明できる報告を作り上げなければ、情報屋の目論んだ通りの混乱や騒動、果ては暴動などが発生することになるだろう。


ってか、早く元凶である情報屋を捕まえてくれれば、問題が拡がらずにすみそうなのだが?


後は、何処にでもいる人とは違うことをしたり、意見を言ったりする天邪鬼なお騒がせ者が騒ぎを大きくしないことを祈るばかりである。

この手のお騒がせ者は、口が上手かったり、人を上手く誘導したりするので、被害が大きくなる傾向がある。

そんな風に煽るだけ煽っておいて、大問題に発展したら知らぬ存ぜぬを決め込もうとするから性質が悪いのだ。



予期せぬ段階で漏れてしまった特大級の爆弾情報は、こんな状況を抱えながら静かに燻り続けている。

いつか、ゴウゴウと音を立てながら再燃するチャンスを待っているかのように・・・

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