6章 激動する世界

第99話

〈ゲート〉設置申請をした国々の内、約七割が設置を終了した頃。

未だ〈ゲート〉が設置されていない国は「早く設置して欲しい」と懇願していた。


一方で、設置を拒否された国がいくつか存在する。

それらの国には明確に拒否する理由があるのだが、そう言う国は、それを聞かされて「はいそうですか」と返事をするような国では無い。


理由の一つは、極端な独裁政権であり、国民に圧政を強いている国。

そんな国が「圧政を強いているから〈ゲート〉は設置しません」と言われて納得するはずが無い訳だ。


次の理由は、戦争中の国。

戦争に魔石による新エネルギーを利用される可能性を排除するためだ。


ちなみに、モリトによって軍事利用はでき無いようにされているのは知らされていないので〈ゲート〉の設置が終わった国では既に開始されているが、何故だかトラブルだらけで上手くいっていない。

で、上手くいかない理由が不明と言う状況だった。


これは日本国内でも同様で、最初におかしいことに気付いたのは公安だったりする。

まあ気付いたのは御戸部であり、それは彼が拳銃を携帯している時だった。

拳銃を携帯した御戸部が装置を動かそうとしても動作しなかったのだ。

彼が来るまでにテストした時は正常に動作していたこともあり「御戸部、お前変な電波を出してないか?」と揶揄われたくらいだった。


その後に、色々と動作不良の原因を究明するための実験が行われ、結果、爆発物(火薬を含む)が近くにあると装置が不具合を起こすことが判明するのだが、それはまだまだ先の話である。


最後の理由が、人には言え無い理由で拒否してる分である。

これは、例の二十文字限定で送信されてくるメールの内容によって、拒否せざるを得ない状況になっている。


対象は主に産油国で、攻略を名目にダンジョンの破壊を目論んでいたり、ダンジョン内でテロを画策していたりと、国が裏で糸を引いて過激な行動に出ようとしているからである。


流石に情報元を明らかにできない理由なので「賢者が・・・」と言って設置を拒否しているが、結構執拗く追求されていたりする。



「・・・で、魔石の普及率はどのくらいだ?」

「日本国内で二割ほど、世界で見るとやっと1%を越えたところですね」


「そんなものか。まだ先は長いのだな」

「ええ、主要国との調整はまだまだ必要でしょう」


「一番動きが速かったのが電化製品だと言うのは分かるのだが、EVの方の動きが悪く無いか?」

「自動車関係は規制が厳しいですから、検討を始めてから五年は時間が必要かと」


「それは長過ぎる。滅亡の情報を共有している主要国の手前、我が国が遅れる訳にはいかないんだぞ」

「そう言われましても、今から法律に口を挟むのは悪手だと思われますし」


実際に自動車関連は、耐久試験や安全性試験など複数の試験が必要で、新技術を導入できるまでに随分と時間が掛かるのだ。

人を乗せて走り、人の命に係わる物である以上、それは避けては通れない問題なのである。


「せめて国内の電化製品の置き換えをもっと進めねば」

「それに関して、次の閣議で提出される補助金の内容が・・・」


「それを出してきたのは野党だろう?ヤツラは国庫の資金状況を考えずに、こんな馬鹿げた案を出してきたのか?何処から金を出す気なんだ!」

「それはいつものやつでしょう」


「財団法人か?政治家が官僚に反旗を翻して何ができると思っておるんだか・・・」

「完全な財政破綻でもしなければ、官僚の体制にメスは入れれないでしょうな」


「全く、嫌になるな」

「ところで総理。昨日のネット会談は?」


お互いに悪態を吐くことになりそうで、話題を変えたようだ。


「例の如く、ダンジョンに軍を入れたいが強力な武器の持込を許可しろと、な」

「またですか。持ち込む武器の詳細と、こちらの確認作業に同意しない限り無理だと書面で通達してるはずですが」


「軍事機密だからの一点張りだよ」

「懲りませんねぇ」


どうやら海を挟んだ隣国の面子が服を着たヤツラが無茶苦茶を言ってきているようである。


「ヤツラの面子ってのは、国内に向けた物で国外は関係無いからな。平気で国内に反日プロパガンダを流しながら、こっちには隣国として友好的な関係を、とか口にする」

「攻略に必要な武器と言うのも、小型核兵器である可能性は否定できませんからな」


やはりアノ国に信用なんて物は無い様子である。

まあ、それも仕方無いことなのだろう。

現代のネット環境であれば、情報速度にタイムラグなどほとんどありはしないのだ。

なのに国内でやってる反日運動を知らない顔をして友好などと言われて、誰が信用するのかって話である。


「どっちにしても、非核三原則がある我が国に核兵器の持ち込みはさせられん。条件の変更は無しだ」

「流石にこればかりは曲げようがありませんからな。しかし〈ゲート〉設置を許可してるのに、何故こうも強引に進めようとするのでしょうか?」


「その理由が分かっていれば他の対処法もあるのだろうが、それは全く分からないんだ」

「ふむ、何かありそうですが・・・」



*** *** *** *** *** ***



「やっと我々の順番が見えてきましたね」

「確かに順番は近付いてきたが、遅過ぎる!」

「確かに我々欧州連合を馬鹿にしていると思わないか!」


「まあまあ落ち着いて下さい。米国ですらまだ〈ゲート〉を設置できてないのですから」

「それだけは評価できる所だな!」

「確かに、あんな若輩国家より我々を優先する所だけはな!」


散々賢者に文句を言っていた者達の矛先が別に向かい始めていた。

だが、本題は別にあるようだった。


「で、本題ですが・・・」

「例の〈ゲート〉の通行許可か?」

「あれは流石に問題になるのでは?」


どうやら他国から「自国民に〈ゲート〉を使用させて欲しい」と言うような依頼をされているようだった。


「確かに問題になりそうですが、明確に禁止されている訳では無いでしょう?」

「とは言え、原油の価格と引き換えにするには危険が大きいだろう?」

「現在の流れで行けば、原油の需要は減り、魔石の需要が増えるのは必然だからな」


話の流れから、どうも相手は産油国のようである。


「ですが現状、充分な魔石が確保できていない以上エネルギーを原油に頼らざるを得ないでしょう?」

「そこが問題ではあるのだが・・・今の一時の利益を得るために未来の大きな利益を無視する訳にはいかないだろう?」

「本当に面倒な申し出をしてきたものだな」


現状で必要なエネルギー源である原油と、未来のエネルギー源である魔石の間で揺れているようである。


「明確な違反行為では無い以上、それを止めたり非難することはできないでしょう?」

「そうは言うが、中東の国々は〈ゲート〉の設置許可が無いのだろう?それには何かしらの理由があるのでは無いのか?」

「そうだな。その意向を無視すれば我々にもとばっちりがあるかもしれないだろう?」


「〈ゲート〉の設置順であれほど文句を言っていた方々とは思えない言葉です。逆の立場で納得できるのですか?」

「それは確かに納得できはしないだろうが、それを言う意味は無いだろう?」

「そうですね。そのような例えに意味は無いでしょう」


散々と文句を言っていた人々も、こと自分達に不利になる可能性があると思うと小心者になるようだ。


「では、この申し出は断ると?」

「致し方あるまい」

「未来を棒に振る訳にもいかないでしょう」




何かと産油国を擁護していた人物は、周囲から見えない位置で顔を顰めていた。


『・・・ちっ!誘導に失敗したか。不味いな。メジャーから資金援助を受けているのに、ここで成果が出せないなんてな。何とか他の方法を考えないと・・・』

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