第98話

自衛隊の富士演習場に〈ゲート〉を設置して試験運用を始めてから二ヶ月後。

試験運用で問題が無かったことで、日本政府と世界各国との間で紆余曲折を経て、翌週からから様々な国で〈ゲート〉の設置が行われた。


最初に〈ゲート〉の設置許可が出たのは、アフリカ大陸の中央部からだった。

アフリカ大陸で選ばれた国は約四十、一日平均で三カ国、一日置きに設置が行われ、一ヶ月ほどで終了。


その次が中南米大陸で、選ばれた国は約二十、二週間ほどで終了。


その次が東南アジアと中央アジアで、選ばれた国は約十五、十日ほどで終了。


以上が現在までに〈ゲート〉が設置できた状況だ。


ちなみにこれから二ヶ月の休暇に入る。

理由?

〈ゲート〉の製造が間に合わないからだ、ってことになってる。

レティーは色んな所を飛べて楽しいようだが、俺は流石に少し疲れたのだ。

だって、二ヶ月ほどで七十以上の国に行き来してるんだぞ。

そりゃあ疲れもするだろう?


そうそう、総理は色々と上手くやったらしい。


先進国の〈ゲート〉の設置を後回しにしたのは俺達なんだけど、やっぱりそれに文句を言ってきて揉めたらしいのだ。

その時に、俺の提案通り「文句を言う国には〈ゲート〉を設置しないって賢者が言ってる」と伝えたみたいなのだが、それを信じなかった国が多かったみたい。

一ヶ月ほどしてから、正式に「通告通り、貴国への〈ゲート〉の設置はしません」と通達したところ、大混乱になったそうだ。

そこで空かさず総理が「日本政府として賢者と交渉して何とか〈ゲート〉の設置をお願いしてみよう」と提案し、それの見返りに色々と便宜を図らせたらしい。

流石にこのことがあってからは「日本政府は弱腰だ」と言う国が減ってきているそうだ。

今後の外交がやり易くなったと喜んでいるみたい。


まあ、こっちに直接被害が無ければ好きにしてくれれば良いんだけど、やり過ぎは恨まれそうだから気を付けて欲しいところだ。


難しい話しは棚上げしといて、今は休暇だしのんびりしたい。


そう言えば、この二ヶ月で〈ゲート〉関係以外にも色々とあったんだ。

まずは、我等が三人娘。


一度、外に出掛けた時に彼女達の専属護衛をしてもらった女性警察官達と仲良くなったみたいで、あれ以降もたまに連絡をとったりしてたらしい。

まあ、服や下着の改造をしてもらったりしてたから、仲良くなったことに疑問は無かったね。


ただ、まさかの要望を聞かされた時は驚いた!

俺抜きで六人だけで外出したいって言うんだぞ。

そりゃあ驚くってもんだろ?


慌てて確認したんだけど、女性だけで行きたい場所があるから、俺はダメ!って断られてしまったんだ。

で、仕方無く御戸部さんに相談して、極秘で県警から私服警官を配置してもらって警護してもらうことにしたんだ。


何だかんだと楽しんだようで、三人ともがとても良い笑顔で帰って来た。

後で御戸部さんから報告を受けたんだけど、可愛い小物の店やスイーツを食べたり、服や下着を買ったり、ゲーセンでプリクラを撮ったりと散々遊びまわったらしい。


で、その間中私服警官が護衛してくれたんだが、何も問題は起きなかったみたい。

・・・俺達が心配し過ぎなのか?


まあ、何だかんだと塔に閉じ篭りっきりってのは良く無いだろうし、気晴らしができたんなら良かったのかもしれないな。



他には、とうとう〈ポーション〉が発見されたんだ。

最前線で攻略をしている自衛隊のチームが〈ポーション〉複数ゲットして、それで怪我人を回復させて生還したって話が、何処からか拡がったんだ。

たぶん政府が意図的に広めたんだと思うけど、案の定、ダンジョン周辺が大騒ぎになった。


で、一番うるさかったのは製薬関係や医療関係、かと思いきや全く別の所だった。

勿論、製薬関係も医療関係も充分に煩かったし面倒臭い相手だったが、もっと厄介だったのは軍関係で、特に現在戦争をしてるところとお隣の三国は執拗かったらしい。

でも、一番はスポーツ関係!

プロのスポーツ選手は怪我や故障がつきものだし、動く金額も大きい。

サッカー、野球、ラグビー、柔道、陸上・・・どんな競技でも怪我や故障で引退ってのは良く聞く話だし、それに人生が掛かってる。

一生懸命なのも、必死なのも理解できるってもんだ。


まあ、どんな相手でも答えは一緒で「必要なら自分で探してね!」ってだけだったんだけど。

それに対して、製薬関係や医療関係の言い分は「戦いなどできないから売ってくれ」の一点張り。

じゃあ戦いに慣れた軍関係はどうか?って言うと「少量では意味が無い、大量に必要なのだ!」だった。

で、一番煩かったスポーツ関係は、煩かった割りに聞き訳が良くて、自分達で〈ポーション〉を探すためのチームを作ってた。


この違いは、たぶん必要数の問題だったのだと思う。

製薬関係は研究用に、医療関係や軍関係は怪我人や患者用に必要であり、その母数が多かったのだ。

それに比べて、スポーツ関係は母数が少なかったってことだと予想した。


まあ、全てのスポーツ選手って考えれば何万、何十万って数が必要かもしれないが、各競技別に考えると、その母数がグッと小さくなるからな。


後は変わった問い合わせで、馬。

「動物には有効か?」って、競走馬サラブレットに使いたいってやつだった。

俺も聞いたことがあったけど、脚を怪我した競走馬サラブレットは殺されることが多いからだろう。

ただ、ダンジョンの〈ポーション〉は人間用で、動物用では無い。

全く効果が無いって訳では無いけど、完治できるか?と言われると難しいだろうな。


まあ馬主は金持ちが多いから、自分のところで〈ポーション〉回収チームを組むらしいけど、最大の問題点は「馬はダンジョンに入れない」って思うのは俺だけじゃ無いだろう。



ああそうだっ!一番のニュースがあった!

何と、レティーが自由に空を飛べるようになるかもしれないのだ。


ファンタジー生物の筆頭であるドラゴンは注目度も高くて、一目見ればその姿の虜になってしまう人々が多かったのだ。

俺も年単位で知っているが、確かにレティーのドラゴン形態は、格好良いし美しさすら感じる。

今まで行った国々ではレティーを拝んでる人々もいたし、新興宗教になりそうな感じではあったしな。


で、日本での初飛行の映像を手に入れた海外の旅行会社が、ドラゴンを見る旅を企画して成功したのが切欠で、まだ〈ゲート〉が設置されていない国々で爆発的にドラゴン人気が急上昇!

普通なら行かないであろう国に、ドラゴン見たさで観光に行く人が激増したんだ。


勿論、レティーが暴力的な行為を一切していなかったのも大きな原因だろうが、一般の人々が「ドラゴンに自由な空を!」って言い出した訳。

各国政府も「鳥が自由に飛べるのにドラゴンはダメなのか?」って言われると反論はし辛かったみたいだし、今後〈ゲート〉の故障などで再来する可能性がゼロでは無いとなると、それなりに自由な行動を許可する必要があるかもしれないと考えたようだ。


そんな流れで、近々レティーの飛行に関する自由についての議論がされるらしい、って御戸部さんが教えてくれた。


まあ自由って言っても「海の上だけ」ってことになるみたいだけど、地球の総面積の七割ぐらいを自由に飛べるなら文句は無いだろう。


まだ確定した訳じゃ無いし、レティーには内緒にしてるんだけどね。

変に期待させると、ダメだった時の反動が怖いし・・・

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