第97話

はっきり言って、レティーの背に乗って見る日本って国は、なかなか面白かった。


俺だって飛行機ぐらいは乗ったことがあるが、あれでは地上をこれほど見ることはでき無い。

ってのも、今俺達が飛んでいるのは地上から1000mぐらいの低空なのだ。

通常の飛行高度は10000mで、今の十倍である。


じゃあ、何でこんな低い位置で飛んでるか?って言うと、海外からの飛行機の進路を妨害しないためと、日本国民にドラゴンを見せるためらしい。


日本には異世界からの賢者とドラゴンがいることをアピールしたいってことだろうと思う。

まあ、半分ぐらいは他国への牽制じゃないかな?


そんな政府の思惑は、俺には正直言って関係無い。

それよりもヘリでもチャーターしないと見れないような景色が見れたことが楽しかった。


その感覚はレティーも同じだったようで、念話で散々質問されまくったよ。

あれは何じゃ?あっちは何じゃ?って騒がしかったな。


「あっ!富士山」

『何じゃ、知り合いでもいたのか?何処じゃ』


フジさん、と勘違いしたかな。


「違う、違う。あの前方に見える山、あれが日本で一番有名な山で富士山って言うんだよ」

『フジさんじゃなくて富士山じゃったか、全く日本語と言うのは紛らわしいものじゃ』


世界で最も難しい言葉って言われる日本語だからなぁ、その感想は聞き飽きたよ。

知り合いの外国人が、いつも同じこと言ってるし、仕事上の付き合いがある他の外国人も全員が同じこと言ってるからな。


「あの山の麓が目的地だぞ」

『そうじゃったか?』


「ほら、先導してた二機の戦闘機が左右に分かれただろ?あそこで降下するってことだよ」

『なるほど、確かにそんな決まりじゃったな』


俺の言葉でレティーは降下を始めた。

場所は、陸上自衛隊北富士演習場である。

下を見れば、そこには自衛隊員達が整列しており、綺麗な白い円が書かれた場所がある。


「あの円の中に下りるんだぞ」

『それぐらい覚えておるから、心配無いのじゃ』


下ではドラゴンの巨体に驚いているのか、少々騒がしい様子だ。


流石に長くドラゴンとして生きているレティーの着陸は危な気が無く、使用しているであろう風の魔法にも一切の乱れが無い。

実際に地面に降り立つ時も、この巨体ではありえないほど静かだった。


『流石に飛行に関してはドラゴンには敵わないな。完璧だったよ』

『当たり前じゃ!ここからはモリトの番じゃぞ、しっかりするのじゃぞ』


『ああ、分かってる』


そう返事をしてから、自身に幻影魔法を掛け、レティーの背から下りるための浮遊魔法も使う。

俺の体がフワリと浮き上がり、地面に向かって降下し始める。


それを見ていた自衛隊員達が少しだけザワついていた。


地面に降り立った俺の所へ、一人の男性が近付いて来た。


「賢者殿、本日は御足労いただきありがとうございます。私は・・・」

「挨拶は必要無いのじゃ。人払いを」


「・・・分かりました。ただ政府の記録として映像を撮りますので、遠巻きに数名の者達が同行しますが・・・」

「聞いておる」


ぶっきらぼうな会話だが、これはできるだけ粗を出さないための対策だ。

あとはモリト以外とは、まともな会話をしないと言う念押しでもある。


そこからは、自衛隊員を全く無視して作業を進めることにした。


まずは地脈の確認だけど・・・流石は日本の霊峰である富士山だな。

いくらでも使えそうな地脈がある。


たぶん富士山は地脈が交差するスポットなのだろう。

これなら選び放題だが、できるだけ安定した地脈を選ばないとな。


少しだけ浮遊しながらアチコチに杖を突き刺して地脈の確認をしていくこと凡そ一時間。

やっと良い地脈と〈ゲート〉を設置するのに良さそうな場所を発見できた。

場所は都合が良いのか、演習場の北の端の方だった。

ここなら、余り邪魔にはならないだろう。


さてと、さっさと終わらせて早く帰ろう!


まずは、一番良い位置に〈ゲート〉を出すのだが、驚くだろうな。

収納魔法ってのは、この世界だと反則だろうし、今回が初の魔法らしい魔法だからな。


今回俺は、態と一番面倒な方法で魔法を使うことにしている。

それは〈圧縮言語〉と呼ばれる、常人では何を言っているのか理解でき無い言語を使った呪文だ。


本来の俺の能力なら〈無詠唱〉で脳内で処理するだけでも魔法が使えるのだが、それだと映像を見た人は何をしているか全く分からないだろ?

だからサービスと言う名の欺瞞情報を提供しようと思ってる訳。


要は目線を魔法を使うための言語に向けてもらえば、時間が稼げるってことだ。

だいたい呪文を解析しようとしても、まず異世界の言語が分からないだろ、更に魔法言語は複雑だし、それを圧縮言語化してるから、まず解析なんてできるはずが無い。

俺達は異世界の言葉を教える気は無いし、全く情報が無い状態で二段階に変化させた言語を解析って、絶対に無理だろ。

俺から言わせると、指示を受けて解析させられる人が不憫でしかたない。


唱えた呪文が発動を始めたので杖で場所を指定してやると、何も無い空間から〈ゲート〉の本体が姿を現した。


出てきた〈ゲート〉は、一見ただの大理石のドア枠の様な物である。

勿論、扉も無くて、魔法が発動していない現状では反対側が完全に見えている状態だ。


この〈ゲート〉を、どれだけ調べても何も分からないと思う。

だって、必要な術式や魔法回路は全て大理石の中に書いてあるし、外から干渉を受けないように保護魔法も発動するようになっている。

それでも調査したいってことなら、結局〈ゲート〉自体を壊すしかないのだ。


『ほうっ!なかなか見事なできじゃな』

『だろ?対策も万全に施してるからな』


ちなみにレティーは待ってるだけだと暇だと言って、俺の後ろを付いて来ていた。


さてとじゃあ仕上げてしまうか!


まずは移動禁止の魔法を発動。

地脈から魔素を吸い上げる関係上、位置がズレるのはアウトだからな。


それから本題である地脈との接続だ。

これは〈無詠唱〉なら簡単なんだけど、呪文を唱えると長いのだ。

〈圧縮言語〉を使っても十分くらい掛かるシロモノで、その間集中する必要もある。

俺自身にも防御系の魔法は常時発動させているが、どうしても集中していると対処が遅れることになるので近くにレティーがいてくれるのは心強かった。


〈ゲート〉に左手を当て、右手で杖を持って地面に突き刺して長い呪文を唱える。

そして長い呪文の最後に「ゲート起動」と日本語で言う。


その瞬間、反対側が見えていた〈ゲート〉は、ぼんやりとした波打つ水面のよう変化した。


そのままで、俺は初期の確認を行う。


『地脈は正常に接続できているな。対になる〈ゲート〉とのリンクも問題無し。出入りの切替を知らせるランプも問題無さそうだ』

『終わりじゃな?』


『ああ、終わりだな。これで帰れるぞ』

『我はもう少し飛びたいところじゃが・・・』


『今回は最初だろ。次からは、もっと長距離を飛ぶことになるんだから、我慢してくれよ』

『じゃったな。うむ、我にとってはそう長い時でも無いじゃろうし、今は待てるのじゃ』


『なら、元の場所に戻って出発の合図を待つか』

『じゃな』


俺はレティーと元来た場所へと帰るために歩き出す。

そこへ一人の男性が近付いて来た。


「賢者殿、あれで〈ゲート〉の設置は終了でしょうか?」

「完了じゃ。帰るのじゃ」


「分かりました。直ぐに手配いたします」


それだけ言って走り出した。

帰りも戦闘機が先導するってことだから、それを連絡しに行ったのだろう。


これで塔に戻れば、レティーの初仕事も無事に終了だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る