第96話
「そろそろだぞ、レティー」
俺は準備万端整えたレティーに声を掛けた。
レティーは既にドラゴンの姿になって、今にも外に飛び出そうかと構えている。
ちょっと気が早いと思うけど・・・
「いつでも大丈夫じゃ!」
気が早いだけじゃなくて気合も入りまくってるな。
空回りしないと良いんだけど。
今日は宣言通り富士演習場に最初の〈ゲート〉を設置する日である。
総理の会見から二週間で実現したってのには驚いたけど。
あれから色々と打ち合わせがあったんだが、結局はドラゴンが飛ぶなんて前代未聞な事態なので経路上の飛行を禁止することになった。
プラス、自衛隊から空自の戦闘機が先導してくれると言うおまけ付きである。
これが他国に行く時の前例になるだろうし、そこは政府も色々と考えたみたいだな。
そろそろ空自の戦闘機が来る頃だし、レティーと賢者(俺の変装)の初御目見えと行こうか。
俺はレティーの背に飛び乗りる。
その目の前には、塔の外壁がスライドして開いており、空が見えていた。
遥か眼下に雲が浮かび、その更に下にはまだ出来上がっていない街の姿がある。
まずはあそこで姿を見せて置かないとね!
「じゃあ、行こうか!」
俺の声を聞いて、久しぶりに空を飛べるってことで昨日からテンションの高かったレティーが直ぐに塔の外に飛び出した。
そのまま俺達は地上に向かって落下していく。
地上の手前150mくらいで止まって姿を見せ、その後は空自の戦闘機と富士演習場を目指すのだ。
ってか、流石に自由落下は速いな。
もう地上が目の前だ。
「そろそろ体勢を整えようか」
『分かったのじゃ』
そうそう、ドラゴン形態で人前に出る時は、基本レティーは念話でしか話さないことになってるんだ。
あんまり人に群がられても困るからな。
地上150mくらいで止まる予定だったけど、120mかな?少し下にズレたな。
と、そこで俺の危機察知に反応が。
おいおい、誰だよ?こんな人ごみに爆発物を持ち込んで!
・・・犯行予告でもあったかな?
地上を動き回ってる警察関係者を見て、ある判断した。
これを、こうして。
こっちを、こうして。
これで・・・解除っと!
後は・・・背中が良いかな?
ちょっとした御節介をしていると、近くの基地から飛んできただろう戦闘機が視界に入ったのだ。
おっと、もう時間だったみたいだな。
「予定通り、あの戦闘機について行くぞ」
『随分とのんびり飛ぶんじゃのう』
「あれでもこの世界じゃあ速い方なんだぞ」
『まあ良かろう。その方が景色をゆっくり見られるからのう』
・・・完全に観光気分じゃないか?それ・・・
でもまあ、問題さえ起きなければ、それで良いや。
*** *** *** *** *** ***
「・・・こちらダンジョン前の友田が中継をお送りします。現在、賢者出発予定時間の十五分前ですが、既に〈賢者の塔ダンジョン入塔管理センター〉の前には多くの人々が集まり、賢者とドラゴンの登場を待っているようです。今まで一般には姿を現していなかった賢者がファンタジーの代名詞とも言えるドラゴンと共に登場するとあって、日本中、いえ、世界中が注目していることが・・・」
近くでニュース番組のレポーターが色々言っているのが聞こえるが、俺達はそれどころじゃない。
今まで聞いたこともなかった「反異世界人連合」って言う、頭のおかしいヤツラから爆破予告があったのだ。
涼木さんが塔に残される三人の子供達の世話のために不在だってことで、俺まで借り出されて実行犯か爆発物を見付けるために捜査に協力しているのだ。
「ザッ、ザッ、御戸部、そっちはどうだ?」
無線から声が聞こえた。
「こちら御戸部。どちらも発見できません。不審者も見当たりません」
「分かった。予告時間まで、もう時間が無い。ただのブラフの可能性が高そうだが、引き続き警戒と捜査を続行してくれ」
「了解しました」
ったく、ただの悪戯だってのか?
勘弁してくれよ!
時計を見ると予告時刻まで残り僅かだった。
そう思った瞬間、周囲の人々が五月蝿いほど騒ぎ出した。
思わず釣られて上を見ると、そこには真っ直ぐに地上に向かって落ちてくるドラゴンが見えたのだ。
『おいおい、あれって大丈夫なのか?』
そんな心配など必要無かったようで、そのまま地上に激突、とはならなかった。
上空に浮いた状態で、少し滞空しているドラゴンと、その背に小さく賢者の姿が見える。
顔までは見えないが、地上を見ているようだ。
そこに遠くから爆音が響いてきた。
しまった!予告時間が近い!
俺は慌てて周囲に目を向ける。
『怪しいヤツ、怪しいヤツはいないか!』
そんな俺の視界に妙な物が入ってきた。
『・・・私が犯人です!by賢者・・・』
そんな文字が書かれたパーカーを着た男が目の前を通ったのだ。
『冗談か?もしくは・・・犯人を見付けてくれたのか?』
どっちでも良い!
今はヤツが最重要容疑者だ。
だって、一番・・・怪しいし・・・
無線で応援を要請して四人で容疑者を囲み、直ぐに取り押さえた。
「時間は・・・既に予告時間を三分経過してる?不発か?愉快犯か?」
連行されていくヤツは騒いでるけど、まさか?
爆弾の解除までしてくれたとか?
結果としては、連行した容疑者は確かに犯人だった。
爆弾も本物だったが、何故か信管の起爆コードが切断されてて、爆発しなかったらしい。
「マジで、賢者が助けてくれたっぽいよな」
軽く頬を抓ってみたが、痛いので間違い無さそうだ。
『賢者って、割りと良いヤツかも?』
そんな風に思ったのだった。
*** *** *** *** *** ***
「どんな冗談かと思ったが、まさか本当に西洋型のドラゴンが出てくるとは・・・」
「主席、どうしますか?」
「逆に聞くが、何ができる?」
「それは・・・」
「ふぅ~、国内メディアに反日プロパガンダを流せ。生物兵器を造った日本を非難するのだ」
「主席は、アレを生物兵器だと?」
「他に何があるのだ?ドラゴンなど、幻想の生物だろう?実在する訳が無い!となると・・・アレは造られたと思うだろ?」
「・・・り、了解しました。早急に担当者を集めて指示しますっ!」
「海を挟んだ小さな島国が大きな顔をしていられるのも今だけだ。そのダンジョンは私が支配するのだからな!」
主席と呼ばれた男は、ふんだんに赤と金で彩られた部屋で一人そう言ってほくそ笑んでいた。
*** *** *** *** *** ***
「大統領!大変です」
「何事かね?」
「愛護団体がデモを始めました」
「いつものことだろう?何を慌てる必要があるんだ?」
「今回は対象が・・・ドラゴンです」
「はぁあ?」
「賢者が魔法で違法にドラゴンを強制的に使役している、と訴えています」
「馬鹿な!何を馬鹿なことを言っているのだ。一体何処の愛護団体が、そんな馬鹿なことを言っているのだね?」
「それが・・・我が国に存在する愛護団体総勢二百七十四団体の連名でして・・・」
「っ?全団体の連名?何がしたいんだ?」
「それが・・・ドラゴンを解放して、自分達が保護すると・・・」
「はあぁーーー」
大統領は大きな溜息を吐いて頭を抱えた。
言っていることは「保護」だが、要は世にも珍しいドラゴンと言う存在が金蔓になると思っているのが透けて見えたからだった。
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