第95話

「賢者の初御目見えより、ドラゴンの方が大きな話題になっているようですな。まあ一番は〈ゲート〉のことですが」

「目に見えて利益に繋がりそうな〈ゲート〉が関心を集めるのは仕方あるまい」


「魔法の装置を、どう利益に繋げられるのか教えて欲しいところですがね」

「ああいうやつらは細かい所など見ておらんよ。飛び付いてみて駄目でも資金力があればから何とかなるからな」


「中には諦めの悪いヤツもいますがね」

「損切りができんヤツは、そう長くは持ちはせんよ」


外務省に寄せられる様様な国からの要望と言う名の強迫めいた資料のコピーに目を通して会話をする二人は勿論、総理と麻生田大臣である。


何故そんな資料を見ているか?と言えば、外務大臣からの直々の要請だったりする。



外務省の外交を司るアジア大洋州局、北米局、中南米局、欧州局、中東アフリカ局、国際協力局は、先日行われた総理の記者会見後、誰も家に帰ること無く世界各国とのやり取りに追われていた。

その内容は勿論〈ゲート〉の設置であり、自国を一番にして欲しいと言う要望である。

事前情報として、賢者の意向で「発展途上国から」と言っているのにも係わらず先進国からの圧力が強く、対応に苦慮していたのだ。


そんな状況を鑑みた外務大臣が総理と麻生田大臣に助けを求めた訳である。


「しかし、本当に人の言うことに耳を貸さない連中ですな」

「欲の皮が突っ張っているんだろう。後先考えずにご苦労なことだな」


「それにしても、例の脅しを聞いても引かないとは」

「今の日本は押されても下がらんと理解できていないんだろうな。だから「無理難題を言う国には賢者が〈ゲート〉を設置しませんが良いんですね?」と言われても鼻で笑っていられるんだよ」


「実際に設置拒否を告げられた時に、どんな反応をするのか見物ですな」

「そこは「何とかする」と言って、見返りに色々と譲歩してもらわないといけないから見物はできないだろうな」


「そうですな。そろそろ色々と、ふっふっふっふっふっ・・・」

「・・・色々とな、ふっふっふっふっふっ・・・」


何やら黒いモヤが渦巻いてそうな、そんな何とも言い難い二人の笑い声が響いていた。



*** *** *** *** *** ***



「結構思い切って公表したんだな」


総理の記者会見の記事を読みつつ呟いた俺の感想に、師匠は駄目出しをしてきた。


「肝心の話が出ておらんじゃないか!」


「アレはインパクトが強いからなぁ」

「この星の存亡に係わることじゃろうに!」


師匠はちょっと興奮し過ぎだろ。


「まあまあちょっと落ち着いて!」


そんな風に宥めつつ状況を考える。


たぶん一般市民に伝えるには、事が重大過ぎるって判断したんじゃないかな?

確実に一部ではパニックになるだろうし・・・


俺としては、どっちにしろ既にブン投げてしまった以上口出しする気は無い。


トップだけで情報を共有しようが、パニックになっても公表しようが、それは彼等が考えることだ。

こっちは魔石を沢山収集して早くエネルギーを切り換えてくれれば、それで良いんだからな。


「やっぱり丸ごとブン投げた以上、途中で口出しするのは不味いと思うな。最終的にどういう方法をとるか分からないし、下手に俺達が騒ぐと混乱を招く可能性もあるからなぁ」

「・・・そうじゃったな、混乱を招くのは本意じゃないのう」


「政府も、民衆に混乱を招かない方法を考えてるんだと思うよ。極端な話しだけど、俺は民衆が「地球が滅亡する」って知らなくても良いかもしれないと思ってるしね」

「民衆には知る権利があるじゃろう?」


「う~ん、知る権利って言うけど、それって民衆に判断させるってこと?それって無理じゃないか?」

「何故じゃ?地球が滅亡するんじゃぞ。滅亡しても良いと思う者などおらんじゃろう?」


「そうかなぁ?俺が思うに、人間って結構短絡的な思考をしてると思うんだけど。例えば、自分が良ければ、それで良いとか、数十年後は生きてないから関係無いとか」

「子や孫が困るじゃろう?」


「例えば、俺達が魔石の利用方法を教える前を考えてみると分かると思うんだ。実際に化石燃料を使って二酸化炭素を排出し続けてる今の生活基準を「環境破壊で地球が危ないから電気の無い時代に戻します」ってなっても誰も「電気はいらない」って言わないと思うんだよな。師匠になら、電気を魔法に置き換えれば分かり易くなるかな?」

「それはつまり、もし「魔法を使えば地球が滅びるから魔法を使うな」と儂が言われて、魔法を使わずにいられるか?と言うことじゃな?」


「そうそう、そう言うこと!」

「・・・無理・・・じゃろうな」


「だろ?」

「確かにを抑えるのは難しいじゃろうな」


欲か・・・そうだよな、快適さや便利さを求めるのも欲だもんなぁ。

そんなの捨てれる訳が無いって。


まあ、それが分かってるから魔石によるエネルギーの代替えを提案したんだしね。

社会基盤が根底から崩れちゃあ、地球が滅亡する前に世界が崩壊するだろうし・・・


「まあ、事の成り行きを見るしかないだろ?」

「そうじゃな、焦っても碌なことにはならんじゃろうな」


よしっ!師匠は落ち着いたな。

後は、何とか形になってきた俺の幻影魔法の精度を上げるだけだな。


これで師匠の身代わりができないと、本当に面倒なことになるし。

何とか〈ゲート〉の設置中に、最低でも幻影魔法を使いながら常時四つは魔法を使えないと困るからな。

幻影魔法、設置時の魔法、探知魔法、防御魔法・・・やっぱり四つは必要だもんな。

これが同じ魔法の同時使用とかなら、二十くらいは余裕なんだけど。

高度な系統違いの魔法を二つ同時に使うのが、これほど難しいとは思って無かったからなぁ。

そこに更に簡単とは言え二種類追加するのは、今の俺の実力だとかなり厳しいんだよね。


「やるしかないっ!」

「どうしたんじゃ?突然」


「いや、幻影魔法の練習を頑張ろうと思って」

「おぉう、それじゃ!こっちがどうのと言っても、それができてないと不味いんじゃ!」


「分かってるって、だから気合を入れたんだ」


俺は師匠に返事を返しながら、部屋を出て練習場に向かったんだ。

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