第94話 緊急記者会見、再び
「首相官邸から中継です。本日急遽日本政府から記者会見をを開くと通達がありました。異世界からの移住者である賢者がやって来てきてから緊急での記者会見が増えましたが、今回もどうやら賢者に関係する内容であるようです。官邸記者会見場内は、またとんでもない発表があるのではないかと騒然として・・・どうやら、総理がいらしたようです。現場と中継を繋ぎます!」
テレビにはタイミング良くテロップが表示されている。
**** 総理大臣緊急記者会見中継 ****
・・・総理は会見開始予告時間4分前に姿を現した。
総理は壇上に上がると、演壇の手前で国旗の方を向いて敬礼し演壇へ。
その姿を捉えるカメラマン達から、フラッシュがパシバシと光り、それが収まるのを待った。
そして進行係がいつも通り会見の開始を告げた。
「えー、それではただ今から内閣総理大臣の記者会見を行います。本日会見内容は異世界人である賢者関係の政府からの重要な発表でございます。よろしくお願い申し上げます・・・では、総理から発言がございます。マスコミ各社の質疑応答は御話が全て終わったあとになりますので、よろしくお願い致します・・・では、総理、どうぞ」
総理は軽く頷くと、懐から原稿を取り出して演壇に据えた。
「本日は異世界人である賢者からの重要かつ緊急な案件に関して、国民の皆様、そしてメディアを通して御覧になっている世界各国の皆様に発表がございます。・・・御伝えする内容は・・・またもや世界全体に影響のある重要な事案であります」
テレビでは総理の言葉に合わせてテロップが表示された。
**** 賢者に関する世界全体に影響のある重要な事案 ****
「現在、我が国でダンジョンより新たなエネルギー資源として魔石を収集していますが、今までの数ヶ月で収集された魔石は単純換算で世界で一日に必要とされる電力の凡そ0・032%と、その量はけして満足のいく量ではありません。この状況に対して魔石の収集効率を上げるために賢者から提案がありました」
ここで総理が一拍置いた。
「それは〈ゲート〉と呼ばれる特殊な魔法装置によって移動距離を限りなくゼロにし、現在金銭的な理由等で訪日が難しい人々にも魔石収集に参加してもらおうと言う内容でした」
総理の言葉に一瞬何を言ってるのか分からず静まり返る会見会場。
何拍か置いて正常な思考ができるようになった者達が騒ぎ始める。
そして、その後は大騒ぎである。
進行役が「静粛に!」と叫ぶが、そんな声も聞こえないぐらいの騒ぎになったため、始まったばかりの会見が一時的に中断される事態になってしまった。
「総理!やはり大騒ぎになってしまいましたね」
「予想通りと言えば、そうなのだが、やはりインパクトがあったようだ」
中断した会見場の控え室では会場内の様子をモニターで確認しながら、そんな会話がされていた。
同時に設置されていたテレビ画面にはテロップが表示される。
**** 魔法装置〈ゲート〉で移動距離がゼロに!
運輸系に大きなダメージか? ****
そんな馬鹿げた内容に総理達が溜息を吐いていた。
「まだ詳しい説明もしていないんだがな」
「先走りし過ぎですね。これでは世間に混乱を招きますよ」
「想定はしているが、最近のマスコミと言うのは、どうしてこう物事を煽りたがるのだろうかねぇ?」
「それこそインパクトを重視しているのでしょうが、そんなことぐらい考えていないと思われているのでしょうか?」
そんな会話をしている間に会場も落ち着きを取り戻したようだった。
「・・・それでは中断していた会見を再開いたします。しかし、次に同じような騒ぎになった場合、会見は中止となることもございますので、充分な注意をお願いいたします。では、総理お願いいたします」
進行役の厳しい表情を見た記者達は心の中で『不味い!騒ぎ過ぎた!』と冷汗を流しまくっていた。
「え~、中途半端に中断してしまいましたが、会見を続けます。先ほど報告しましたが〈ゲート〉と呼ばれる魔法装置で移動距離を限りなくゼロにできるのですが、それが設置できるのは賢者のみです。これは勿論〈魔法〉と言う技術が扱える者が賢者しかいないためであります。そして〈ゲート〉を設置する場所も賢者が選ぶことになります。これには魔法的に設置できる場所とできない場所があるそうで、それは私達地球人には判断ができないためであります」
ここで一拍置く総理。
この説明には、後々の説明のための布石になる内容が含まれているが、それは初めて聞いている記者達には理解できないだろう。
「では〈ゲート〉の設置についてですが、それは目的としてダンジョンから魔石を収集するためであります。そのため設置場所や使用目的はダンジョンに限定されます。それ以外での目的で使用することを賢者が許可していません。理由は、政府側からの要望を汲み取っていただけたからであります。まあ、簡単に言いますと既存の産業にダメージを与えないための措置と御考え下さい」
この辺はテレビにテロップで出ていた「運輸系に大ダメージか?」を否定しているだけである。
実際には、そういう風に〈ゲート〉を使えれば輸出入の簡略化が可能になるため、政府内でも議論されてはいた。
だが、運輸系の企業に深刻なダメージがあることは明らかであり、それでは人々の生活にも大きな影響が出ると言うことで、早々に破棄された案だったのだ。
「さて、ここで問題になるのが未知の魔法装置であると言う点であります。地球上に存在しない技術によって物理法則を無視した〈ゲート〉と言う物の安全性を確認する必要がある訳であります。そこで時期はまだ確定しておりませんが、自衛隊富士演習場に最初の〈ゲート〉を設置して試験運用をすることにいたしました」
この試験運用ウンヌンで会場内がざわめくが、先ほどの騒動ほどでは無かった。
進行役の刺した釘が効いているのだろう。
そのざわめきが収まるのと同時にテレビではまたもやテロップが表示されていた。
**** 日本政府は〈ゲート〉の試験運用を決定! ****
だが、総理の情報爆弾攻撃は、まだまだ始まったばかりだった。
「その試験運用には勿論〈ゲート〉が必要な訳ですが、先ほども言った通りそれを設置できるのは賢者のみです。ゆえに設置作業のため賢者が初めてダンジョンの外に出て来ることになります。我が国にとって賢者の存在は極めて重要であり、その賢者の移動等でどんな些細な問題も発生させる訳にはいきません。そこで厳重な警備体制をとろうと考えたのですが、賢者側から拒否されました。理由は「自分で守った方が確実だ」と言うことで、その内容を確認したところ友人に協力を仰ぐそうなのです」
**** 賢者の初めての外出先は〈ゲート〉の設置 ****
ここで表示されたテロップはお茶の間で笑いをとることになった。
視聴者曰く「まるで、初めてのお遣いみたいな言い回しだった」らしい。
「ダンジョンの外に出たことが無い賢者に友人がいるのか?と疑問に思われるかもしれませんが、〈異世界人〉は賢者だけではありません。現在我が国で保護し国民として受け入れた〈異世界人〉全部で五名。その内の御一人が賢者の友人と言うことであります。その友人の方ですが、本当に警護が可能なのか?と御聞きしたところ「彼女を傷付けられるモノは、この世界には存在しない」とのことで、確認のために私も御会いさせていただきました。彼女は、非常に立派な体躯をした美しいドラゴンであり、私も、この世界のモノでは傷付けられるとは思えませんでした」
総理が、サラッととんでも無い情報を垂れ流した。
それに瞬時に反応できる者はおらず、数秒遅れで会場内が爆発したような喧騒に包まれた。
「ドラゴンって言ったか?」とか「彼女ってのはドラゴンだとっ!」といった具合である。
それはお茶の間でも同様であり、中継を見ているであろう世界中で同じことが起きていた。
勿論、テレビにはテロップも表示されている。
**** 賢者の友人の彼女は非常に立派な体躯をした美しいドラゴン ****
完全に総理の言葉の引用である。
この会場内の反応に対しては流石に進行役も何も言わず、喧騒が収まるのを待つようだった。
「さて、そう言う訳で、賢者の外出には友人であるドラゴンが付き添うことになるのですが、その体躯は非常に大きく凡そ100mほどもあります。勿論移動はドラゴンによる飛行となりますので、当日は日本上空で飛行制限等が行われることになります。詳しい日時等は決定次第公表させていただきますので、国民の皆様におかれましてはよろしく対応のほどをお願いいたします」
先ほど程では無いが、ざわめく会場内。
それもそうであろう、100mもあるドラゴンが日本国内を飛行すると言うのだから無理はない。
「この〈ゲート〉の試験運用が問題無かった場合ですが・・・」
そんなざわめきは関係無いと言わんばかりに総理は会見を続行していた。
「・・・世界各国に〈ゲート〉を設置する予定でおります。その設置順ですが、賢者の意向で発展途上国が優先されることになります。これは訪日のための金銭的な負担が大きいためであるとのことであります。詳しい設置順などは、試験運用が終わってからの話し合いになると考えますが、最終的には外務省が賢者の意向を汲んで取り纏めを行うことになります。以上で会見を終わります」
総理が会見の終了を告げるが、勿論終わりでは無い。
これからは質疑応答の時間である。
記者達は色々と聞きたくてウズウズしているのだから、我先にと手を挙げる。
しかしそれは、まだ進行役が質疑応答の説明をしている最中だった。
それから二十分ほどの質疑応答を終えて総理が退出するのだが、記者達は不完全燃焼であった。
前代未聞の話題、〈ゲート〉に〈ドラゴン〉である。
そりゃあ聞きたいことなど、いくらでもあるってもんだろう。
だが総理にしてみれば、それに付き合っていては大変どころの話では無いのだ。
会見場をあとにする総理の背中には記者達から「総理!」「総理!」と未だに声が掛けられていた。
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