第93話

天道組のリーダーである天道さんの前にコーヒーを出してから話を始める。


「実は元自衛隊員である天道さんに聞きたいことがあるんですが」

「自衛隊員だったことが関係してるんですか?」


「ええ、少々特殊な事情がありまして」

「我々は自衛隊を辞めたとは言え、守秘義務と言う物があるので自衛隊関係のことは話せない方が多いですよ」


さてさて、ここからは色々捻じ曲げて誤魔化しつつ説明をしないと。


「いえ、そう言うことでは無くて。実は、皆さんの持っている武器類の製造元である鍛冶師の工房の警備を見直した方が良いんじゃないかと思っているんです」

「警備?それはスパイとかに対してってことで?」


工房って、要は賢者の塔のことなんだけどね、

あと、スパイって言うより暗殺者の可能性の方が数倍高いって言う感じだな。


「それも込みで、もっと特殊な者達からも・・・って思ってます」

「・・・なるほど。しかしそれは完全に政府の管轄になるでしょう?現役の自衛隊員などに聞けばすむ話だと思うんですが?」


ああ、やっぱり想定通りの質問をされたな。

今の俺はセンターの関係者だと思われているから、当然の質問だと思う。

だが実際は全く違う訳だから、俺から御戸部さんや服部センター長に聞く訳にはいかないから、こんな面倒なことをしてるんだよな。


まあ、これに対しての答えは少々苦しいが考えてはある。


「特殊な事情に関係するんだが、武器を作ってる鍛冶師が人見知りだって言っただろ、それの影響なんだよ。実は・・・警備とかの人員を増やすのも難しいくらい人見知りでな、人員は現状維持で対策の強化だけをしたいってことなんだ」


つまり俺が少々捻じ曲げてこじつけた理由の大元は、俺の存在を隠すために政府側が用意したバックストーリーだったのだ。

人見知りな鍛冶師、それと唯一交渉できる職員、それを上手く使った形である。


「あっ!そう言えば、そんな話をしてましたね」

「そうなんだ。面倒臭い人なんだが、現状、指示を聞かない訳にもいかなくてね。それと、政府側に知られると強制的に人員を増やされたりするだろうし・・・」


「それで政府に内緒で情報を集めてるってことですか?」

「そうなんだ。先に対応できる体勢を作れれば人員の増強を断れるかな?とか思って」


「理由は分かるんですが・・・正直言って、人員を増やさずに世界中のスパイに対応するのは無理ってもんですよ」

「やっぱりですか。少しでも増える人員を減らせたりしないですかね?」


「かなりの金額を投資できるなら方法が無い訳じゃ無いでしょうが・・・」

「ちなみに、どのくらい?」


「数十億単位でしょうか」

「・・・それは無理っ!」


「でしょう?素直に政府に指示内容込みで相談した方が良いですよ」


駄目かっ!

そうだよなぁ、普通ならそう言うんだろう。

だけど俺の本当の立場的には、そう言う訳にはいかないんだけど・・・それはこの場では言え無いからなぁ。


あれ?ちょっと待てよ。

現代の機器を使って数十億単位って言っても、魔法で同様の内容が再現できれば問題無くね?


そう思い付いてしまったら、それ以外の方法を考えることが難しく感じてしまった。

となると、天道さんに参考までにどんな機器を使って、どんな監視網を構築するのか聞いてみるしかない!


「参考までに、その数十億の方法って、どんな方法か聞いても?」

「聞きたいんですか?金額的に絶対に無駄になりますよ」


「ほとんど興味本位ですけど、聞いてみたいです」

「そうですか・・・じゃあ、参考までに・・・」


そこから結構な時間、天道さんが話をしてくれた。

俺にしてみれば色々と知らない専門用語なども交えながら、かなり面白い話を聞かせてもらうことになった。


「・・・とまあ、こんな感じですかね」

「・・・凄いんですね。でも、そんなの頻繁に起きることじゃないんでしょ?」


「どうでしょう?自衛隊の諜報部門は私の専門では無かったので、詳細な作戦行動を把握できてないですし」

「そうですよね。しかし、参考までにとか言いましたが、とても興味深い話でした。本当にありがとうございます」


「いえいえ、実際の相談には役に立てなかったので」

「本当に長い時間引き止めてしまって・・・ところで話は変わりますけど、次のダンジョン入りは何時なんです?」


今日の相談事には対価があるので、そのための質問をした。


「次ですか?四日後ですけど、何か?」


丁度良いタイミングだな。

一応、日本政府からは日本人にのみ〈ポーション〉の情報を流すように指示が出てるのだ。

これは〈ポーション〉の影響がダンジョン内に限定されているからってことらしい。

本当他国にも情報を流す必要があると思うが、その辺の判断は政府にブン投げたし、俺は言われたようにするつもり。

政府としては、上位の収集者が怪我などで行動できなくなるのを防ぎたいって気持ちと、正式に情報を出すのは時間が必要ってことの間に挟まれて、限定的な情報漏洩を意図的に仕掛けた訳だ。


「実は、まだ正式発表されるまでに時間があるんですけど、ここに来たことがある方達には無事に帰ってきて欲しいので内密に伝えて置きます。ダンジョンで傷や怪我を治す薬品が出るらしいです」

「はあぁ?それはどう言うことです?」


まあ、普通の人ならそんな反応になるんだろうな。


「ゲームなどに出てくる所謂〈ポーション〉って呼ばれる薬品が見付かるようになると、賢者が政府に連絡してきたらしいんです。それを使えば単純骨折程度なら数分で治るとか・・・」


俺の説明に天道さんは口をパクパクさせて声にならない驚きを見せていた。


「驚かれるのも理解できますけど、嘘じゃないですからね」

「・・・涼木さんが嘘を吐くとは思いませんが、俄かには信じ難い内容で・・・」


「色々と取り扱いの注意点があるみたいですけど、賢者が「魔法的な薬品で効果は保証する」らしいですよ」

「その取り扱い上の注意と言うのは?」


「私も詳しくは知らないんですが、何でもダンジョン内でしか使えないとか、ダンジョンの外に持ち出すと水に変わるとか、そんな話でしたね」

「そんな事が可能なんですかっ?」


「それは賢者に直接聞くしか無いでしょうね」

「すいません。涼木さんに言うことではありませんでした」


「良いですよ。それで、他の方々にも情報を共有してもらえますか?ダンジョン内に〈ポーション〉が出ると」

「・・・分かりました。ただ、誰も信用してくれそうにありませんけど・・・」


かもなぁ~。



天道さんが帰って行った後、スマホで御戸部さんに連絡をする。


「あっ、御戸部さんですか?涼木です。天道さんに例の薬の件伝えておきましたよ」

「仕事が早いですね。それで、どんな反応でしたか?」


「一般的な人の反応、と言えば分かりますか?」

「涼木さんが嘘を言ってるとは思わないけど、信用し切れないって感じですね」


「ですね」

「想定通りですね。ありがとうございました」


「いえいえ、この程度なら」

「そう言えば、来週くらいには総理がドラゴンの件を公表するらしいですよ」


えっ!早くないか?


「本当ですか?政府の動きが早くないですか?」

「それだけ危機感があるってことでしょう」


そうなのか・・・ヤバイな、防衛の方も早く進めないと!

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