第92話

取り敢えず、作業用のゴーレムについては今後は改善しそうだが、新たな問題が発生って感じだな。

〈核〉の件は成長が落ち着くまで、できることが少ないんで保留しかできないな。


ただ、今直ぐにゴーレムが用意できる訳では無いので、ポーションのビンの製造は少量からのスタートになる。

こればっかりは、どうにもならないので諦めるしか無いんだけど、怪我人とか少々心配なところだ。


「さてと、これで現状やらなければならない案件は全部日本政府にブン投げたから、後は返事待ちかな」


俺の呟きを聞く者はいないが、仮に御戸部さん辺りに聞かれたとしたら相当恨まれるんだろうな。


まあ、ブン投げた内容が内容だし、それなりに時間が必要だろうってことだけは分かってる。

この情報が拡がれば、それが切欠で俺達への攻撃が始まる可能性もあるだろう。

特に原油、石油関係は、その可能性が高いと思ってる。

向こうからしたら、ピンポイントで狙い撃ちされてるって感じるくらいには大打撃だろうし、それは俺も予測してる。


問題は原油、石油関係の国や企業には過激な勢力がいるってことだ。

その過激なやつらが核兵器を持ってる可能性があることと、人の命を軽く見ていることが不味いんだけど。


「そろそろ本格的な防衛準備を始めないとな」


俺は無意識に、そんな言葉を呟いていた。

チマチマと準備はしていたが、今後はそれでは間に合わない可能性があるだろう。

今でも定期的に〈神様メール〉で、とんでもない情報が入ってくるんだけど、現状では俺達に被害は出てない。

これは日本政府が頑張ってるのか同盟国が手を貸してるのだろうけど、それも完璧じゃないからなぁ。

ある程度は何が必要か?って予想はしてるんだけど、それは所詮素人考えなので、ちょっと専門家の意見も聞きたいところなんだが・・・誰か良い相談相手がいないかな?


御戸部さんは、日本政府としてソッチ関係の警戒はしてると思うし指示も協力もされてるだろうし、してもいるだろう。

俺がそれを聞くのは不味いと思うし、たぶん全部は聞かせてもらえないだろう。

あくまでも日本政府にとって俺は一般人の協力者って立場だから、そうなるのも理解できる。


じゃあ、他にその手のことに詳しそうな人物って言うと・・・唯一俺の本当の立場を知ってる京極君はまだ大学生だから無理だろう。

となると、全員が元自衛隊員の天道組ぐらいか?


「俺の話を聞いてくれるかな?」


ってか、俺って彼等にとっては、ただの武器屋の店員って感じだよな?

そんな俺がするような話じゃ無いよな?

信じる、信じない以前に、上手く説明できる自信が無いぞ、これ。



*** *** *** *** *** ***



「総理、各政党の代表が集りました」

「そうか。じゃあ始めましょうか」


総理官邸の一室に集められた各政党の代表。

彼等に最初の爆弾を見せるために、総理が召集したのだ。


連日の極秘会議で導き出した方法、それは「政府内に情報を段階的に出す」ことだった。

一度に情報を出してしまえば、絶対にパニックになり統率が執れなくなると判断した結果だった。

勿論、その中には情報漏洩の危険も考慮されている。


では、最初は何か?


それは勿論、富士演習場に〈ゲート〉を設置する案件だ。

これを説明するだけで、賢者、ゲート、ドラゴンの三つの要素を話す必要がある。

これだけでも情報過多になりかねないが、それは諦めるしか無い。

どれを抜いても説明が中途半端になると分かっているからだった。


本当のところ、少し遅れて提供された情報であるポーションを先に処理したかったのだが「他国に対する影響」と言う点で優先度が低いと判断されたため後回しにされたのだ。

ただ、ダンジョンに入っている攻略者や収集者のトップ勢には、極秘に情報を流す指示はされている。

実際問題として、ダンジョンで活動していても下の階層にしか入っていない者には関係が薄いからである。


そして、超特大級の爆弾である「地球滅亡」は最後の最後に出される情報となっている。


まあ、その判断は無難なところだろう。

インパクトが強過ぎる情報は、それだけでパニックどころか暴動になりかねない。

それを緩和するためにも先に〈ゲート〉の設置と言う情報を出し、それによって更に魔石を収集できると言う印象を与えたい。

「エネルギー不足」と言う爆弾が爆発しないように制御するための方法である。


と言うのは、本音ではあるが実は真実では無い。

総理にも知らされてはいないが、環境省側で魔素や魔法を除いた状態で「地球滅亡」を説明するための理論構築が進んでいなかったのだ。

元々時間が掛かるだろうとは予測していたが「考えが甘かった」と言わざるを得ない状況であり、分室も交えた討論の末、段階的な情報開示と言う苦肉の策だった。


一部では「全部、賢者の情報ってことでゴリ押ししよう」と言う投げやりな意見もあったのだが、絶対に反発する者が出ることは明らかであり、賢者どころか日本政府に批判が集るのが目に見えている以上「はい、そうですか」とはならなかったのだ。


会議室に足を踏み入れた総理に室内の人々の視線が集る。

彼等は今日の招集の内容を知らされていない。

だからこそ、総理が何を口にするのか?それが気になっていたのだろう。


「まずは急な召集にも係わらず集ってくれて助かった。事前に召集の内容を伝えなかったのは色々と理由はあるのだが、守秘の観点が大きい。そのことを心に留め話を聞いてくれ」


総理の言葉に一瞬だけザワつきつつも静かに次の言葉を待つ人々。


「現在、ダンジョンの周囲を開発中ではあるが、それでも今後の魔石の需要を考えると規模が足りないことに気付いていると思う。そのことで賢者から一つ提案があった」


賢者から提案と言ったところで、また人々がザワついた。


「その提案を元に現在検討を始めてはいるが、今後の各所との調整などもあるため、その提案内容を周知したいと思い集ってもらったのだ」


先の緊急記者会見では、話を聞かされていなかった議員達がほとんどで、会見後に総理に事情説明を求める声が上がっていた。

だが、事の重大さと守秘関係で情報を共有する人間を少なくするためと言われると、それに正面から反論する者は減った。

何故なら、そこで厳しく追求すれば、反動で自分達の薄暗い所を追求されると感じたからだった。

あの時、情報を共有されなかった=総理の信用を得られていないと言うことだからである。


そう考えると、今回の件では情報を共有すると言うのは、それほど重要な機密では無いのでは?となり、少しだけ緊張が緩んだ結果ザワついたのである。


「では、詳しい話は彼から聞いてもらおう。私直属で異世界関連の調査研究をしている〈分室〉の担当者だ」

「御紹介にあずかりました私は、幕部まくべと申します。よろしくお願いいたします。早速ですが、賢者からの提案について説明させていただきます。まず最初に〈ゲート〉の設置について・・・」


議員達の反応がどうなるか?非常に興味深い会議が今始まった。



*** *** *** *** *** ***



「すいません。急に呼び出したりして」

「構いませんよ、涼木さん。いつも御世話になってますからね」


俺が呼び出したのは天道組のリーダーである天道さん本人だった。

少々情報を開示する必要はあるけど、上手く捻じ曲げて話せば、それほど問題にはならないはず。

そんな目算で、元自衛隊員の知識を頼らせてもらうことにしたのだ。


と言っても、これで上手く情報や知識を得ても、使えるかどうかは俺次第なんだけどな。

さて、どうなることか・・・



・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・


いつも読んでくださりありがとうございます。

実はリアルの方で、年度末につき多忙になるため二週間ほどお休みすることになりました。

待っていてくださる読者の皆さんには申し訳ありませんが、どうかお許し下さい。

投稿再開予定は4/9です。

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