第91話

俺が一度だけ見た〈核〉の大きさは、直径が15cmくらいだったはず。

それが・・・現在、目の前に見えるのは30cmはありそうだ。

直径だけでも単純に二倍か・・・ちょっと大きくなったな程度の話じゃないのは確かだな。


「モリト、確認できたのじゃ」

「で、結果は?」


「ここも、たぶん百倍になるじゃろうな」

「マジかっ!って、たぶん?」


「現在進行形で〈核〉が成長しておるのじゃ」

「まだ成長中?」


今が直径二倍程度ってことは、体積だと八倍程度か。

百倍ってことは・・・更に倍以上大きくなるってことか?


「それって、この台座じゃあ入りきらなくなるぞ!」

「じゃな。早々に仕様を変更せねばならんじゃろうな」


何てこった!

って、そっちも問題だけど、肝心の機能的な方はどうなってるんだ?


「で、機能は?」

「成長中じゃし正確なことは分からんが、ゴーレムの制御は現状でも倍以上に増えておったのじゃ」


「おぉ~、そっちは喜ぶべきことだな」

「そうでも無いじゃろうな。まず、制御できる数が増えたと言って、ゴーレムは直ぐには増やせんじゃろう?製造に時間が掛かるんじゃからな」


確かに、単純な作業用ゴーレムでも耐久性を持たせたり精密動作ができるようにするには製造に時間が掛かる。

一ヶ月で二~三体できるか?どうか?ってとこだろう。


「余り作り過ぎても困るし、〈核〉の成長具合を見ながら徐々に増やすのがベストか」

「そう言うことじゃな」


「何にしても、これからは定期的に〈核〉の確認をしないとダメだな」

「そうじゃな。今見た感じじゃが、新機能が追加されそうな感じがしておるし、要注意じゃな」


おいおい、新機能ってなんだよっ!

扱いに困るような、トンデモ機能じゃないよなっ?

・・・って、まだ確認はできないか・・・でも、何か嫌な予感が・・・



*** *** *** *** *** ***



「大使、どうかされましたか?」

「・・・ノーコメント」


「・・・緊急ですか?」

「明日、専用機を手配してくれ。一度本国に帰る」


「・・・直通電話ではダメ、と言うことですか。分かりました手配します」


補佐官が手配のために部屋を出て行く。

その背中を見送りながら大使は日本政府から届いた書類の内容を思い返す。


あれは余りに信じ難い情報だった。

普通に考えるなら、馬鹿な法螺ほら話だと切り捨てるところだが、今の日本にそれは悪手だろう。

御伽おとぎ話も真っ青な異世界人がダンジョンなどと言う物を持って来たのだからな。

それを基準に考えるなら、異世界の賢者がドラゴンを友人に持っていようが、それに乗って世界を旅しようが、あり得ない話では無いのだ。

他にも、ドラゴンに加えて〈ゲート〉や〈ポーション〉の話もある。

たった数枚の書類の中にどれだけの重要情報を仕込めるか試してでもいるのか?日本政府は!


ああ、思い出したら頭が痛くなってきた。


こんな話を厳重なセキュリティーを施しているとはいえ、軽々しく通信などで話すことなどできない。

本国に急ぎ戻って直接大統領に話さねばならないと判断した。


明日からの執務で重要な案件もあったが、それはこの内容に比べれば軽い、余りにも軽過ぎる。

現在の私と我が国にとって、現状でこれ以上の案件など存在し得ないと断言できる。


本当に、日本と言う国は変わってしまったな。

世界の国々の思惑に踊らされていた日本と言う国は、今では逆に世界を右往左往させて躍らせる国になったようだ。

異世界の情報の暴力には勝てんな。


本当に・・・この調子では私の体が持たない。

任期満了を待たずに大使の役を代ってもらえないかな?

・・・大統領に直訴してみるか?

良い案かもしれないな。

そうすれば、夜中に胃の痛みで目覚めることも無くなるだろうし・・・



*** *** *** *** *** ***



「アマ姉様、調査が終わりましたよ」

「まあ、流石はツキね。早かったわね。それで、どうだったかしら?」


以前に調査を頼んでいた結果が終わって報告に来たようだった。


「結果としては、無理ですね」

「無理なの?」


何だか良く無い報告だったようだった。


「ええ、迷宮ラビリンスの管理は元々各土地の神で管理されていたので、未だに管理権限が残っているのですよ。なので、再稼動させようと思えば世界を移ってしまった神々に管理権限の移譲をしてもらわないとならないのです」

「えぇえっ!管理権限持ったままなのぉ~」


どうやら大事な物を持ち逃げしてるみたいだ。

神様なのに、それで良いのだろうか?


「そうなんですよ。本当にあの馬鹿神共がいい加減な管理をして」


随分と辛辣な物言いだが、それほど立場が違うのだろうか?


「管理権限を移譲してくれるかどうかは分からないけど、一応使者を出して確認してみてくれる?」

「・・・アマ姉様の頼みですし、分かりましたわ」


渋々了承したのが丸分かりだった。


「お願いね!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る