第90話

「「「えぇえぇえーーーー!」」」


極秘回線の電話の向こうから響いた声の原因は、俺が伝えた内容によるものだろう。

突然の大声に驚きはしたが、その反応を責めたりはできない。

俺も少し前に涼木さんの前でやってきたところだし・・・


「何故待てないんだっ!」


その言い分も理解できる、俺も同じことを言ったからな。


「攻略階層の関係で、そろそろ必要になるそうです。そうでないと、死者が出る可能性があるそうで・・・」


まんま涼木さんから聞いた内容を伝える。


「御戸部、どうしても今なのか?ただでさえ面倒な舵切りの最中に、製薬系まで相手になんてしてられないぞ!」

「それは気にしなくて良いみたいです。その〈ポーション〉はダンジョン内でしか使えないってことなので」


俺は、その〈ポーション〉の仕様を説明した。


「そんな事が可能なのか?」

「魔法って何でもありですからねぇ」


俺にはそれしか答えようが無かった。


「それでも騒ぐ所は騒ぐでしょう?」

「それについては、自力でチュートリアルをクリアして自分で採りに行けば良いって言ってましたね」


「自力で?」

「そう自力で」


「ただの研究者に、それは無理だろう?」

「でしょうね。それが分かってて、言ってると思いますよ。現実問題として、外に出せばになるのに、依頼されて誰が持って帰ると思います?空のビンに水を入れても分からないのに・・・」


「・・・変な詐欺が流行しそうだな。注意が必要か?」

「それより、この〈ポーション〉に関しては、何も隠さず全部公にして、注意喚起とかした方がクレーム対策になりますよ。それと、大々的に日本国政府では何も対応できないと明言した方が得策でしょう」


「それを信じてくれれば、だろう?」

「でしょうが、実際に賢者がやることですし、我々が何かできますか?」


「「「できんな!」」」


ですよねぇ~。

俺でも、そう答えますよ。


「確かに物にインパクトがあったから驚いたが、冷静に考えればできることは無いって理解できるよな」

「だな。どう考えてもできることは無いって分かる」

「影響があるのは最前線で攻略をしてるヤツラだけだしな」


おっ、やっと落ち着いて考えられるようになったな。


「でしょう?だから飛び火しないように、関係無いことをアピールだけすれば、後は知らぬ存ぜぬで良いと思います」

「「「他に無いな」」」


後日、録音資料を別口で送る約束をして、今回のミッションは終了!

何もできることは無いって分かってもらえたから、すんなり終われたな。

たぶん、今までで一番楽な報告だったかも?



*** *** *** *** *** ***




「師匠、ポーションのビンの自動化の設定できたぞ」

「ふむ、ならば作業用ゴーレムを出さねばならんのじゃ」


ゴーレム足りるかな?

と言うのも、塔のサイズが大きくなったり階層が十倍も増えたりで、人手と言うかゴーレム手が必要になってほとんどフル稼働に近い状態になっているのだ。

その状況で現在のポーション生産のためにゴーレムを割くのはかなり厳しいところがあるのだ。


「ゴーレムを増やさないとダメかもなぁ~」

「どうしたんじゃ?いきなりゴーレムを増やすじゃと」


「今後のことを考えるとゴーレムが不足する可能性が高い、特に魔石の流通を増やすなら余計にゴーレムが必要になるだろ?」

「そうじゃったな。忘れておったのじゃ」


師匠、それ忘れちゃダメだろう?


「地球の魔素量なら、ゴーレムの追加は可能だろ?」

「制御の方が難しいじゃろうな」


あっ、そっちか!

それはちょっと確認不足だったな。

しかし、何か考えないと後々困るのは確実だからなぁ。


「師匠、何か方法は無いのか?」

「ふむ、こればかりはダンジョンの〈核〉次第じゃからなぁ」


核か、それは手出しができない確たる物だ。

ダンジョンがダンジョンであるために絶対に必要だが、唯一一切手を加えることができない物なのだ。


「それは確かに、手出しができないな。・・・ところで、核って地球の魔素で影響を受けたりしてないか?」

「・・・確認しておらなんだ・・・」


「えっ!嘘っ?冗談だよな?」

「・・・マジじゃ」


ダメだろ、それ。

ダンジョンを住処にしてるんだから、一番大事なことじゃないのかよっ!

って、俺も気付かなかったんだから余り師匠を追及できないんだけど・・・


「だ、だったら今から確認するしか無いだろう!核の状態は重要なんだからっ!」

「そ、そうじゃったな。急ぎ確認せねば!」


二人で大慌てで核のある隠し部屋に向かった。


この隠し部屋だけは、俺と師匠とレティーの三人だけしか知らないし、最低でも二人揃わないと入ることもできない。

まあ、それくらい重要な場所ってことだ。


「あれだっ!」

「久方振りに見たのじゃ。普通なら入る必要も無い場所じゃからな」


その場所は直径五メートルほどの円形の部屋で、中央に変わった形の台座があり、その上に深い青色の水晶の様な六角柱上の物体が浮いている。

その印象的な物は実はダミーで、本物は台座の中に隠されている。


変わった形の台座と言うのも、本物を隠すために変わった形状にする必要があったのだ。


台座に隠されている鍵穴に俺と師匠の鍵を差込みロックを解除する。

すると、台座が三等分に分かれて中が見えるように開いた。


そこにあったのはオニキスのように艶のある真っ黒な球体で、その中ではキラキラと夜空の星のように魔素が煌いて見えた。


「核に問題は無さそうじゃが・・・」

「いやいや、明らかに大きくなってるよな?コレ!」


「じゃろうか?」

「じゃろうか?じゃ無いだろ!直ぐに機能確認しろよ!」


俺の一度しか見たことの無い記憶と照らし合わせても明らかに大きくなってる核を見て、俺は師匠に指示を叫んでいた。

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