第89話

レティーへの講義は思わぬ方法で劇的に改善した。

それが可能になったのは三人娘がレティーから聞き出してくれた「ドラゴンが大きさや長さの単位に興味が無い」と言う師匠でも知らなかった情報からだった。

興味が無い=単位と言う概念が無い、に近しい状態だと確認できたのも、その情報が元になっている。

じゃあ今まではどうしてたのか?って言うと、ドラゴンらしいと言うか何と言うか、自分の体の大きさを基準にしていたのだ。

それじゃあレティーにしか通用しないだろう?って思うだろうが、それで良かったらしい。

何せ文句を言ってくるとして同じドラゴンしかいないし、ドラゴンは体の大きさの違い程度のことは気にしないってことだった。


なので、急遽レティーが分かり易いように新たなレティー用の単位を用意した。

たまたま都合良くレティーの体が約100mだったので、100m=1ドラゴンと言う単位にしたのだ。

つまり10km=10000m=100Dである。

これが大当たりで、レティーの理解度が格段に上がって講義がガンガン進んだのだ。

ただ、問題が無い訳では無くて、1D=100mより小さなモノの大きさや長さの認識には使えなかった。

これについては今は急いでいないので、今後何かしらの方法を考えようと思ってるけど、今は未定って感じ。


そうそう!

レティーの件をやってて、一つ思い付いたことがあったんだ。

それは悩んでいたポーションの仕様。

俺としては、塔の中では使えて、塔の外では使えないって言う何とも面倒な仕様にしたかったんだけど、これがとんでも無く難しかった。

薬であるポーション自体に何かをすることはできないし、じゃあ容器に細工をするくらいしかできないのだが、それでは収集者も手持ちのポーションが使えなくなる。

俺が望むのは、あくまでもポーションを研究などに使われないようにしたいだけで、ダンジョンに入る人達に害を与えたい訳では無いのだ。

使わせたいけど人を選ぶって言うのが非常に難しくて、結局今まで解決方法が見付からなかったんだけど、レティーの件で問題を解決するには「自分だけの目線じゃなくて色々と見方を変える必要があるんだな」と思ったのだ。


そこで考えてみた、ポーションを使う人間と、ポーションを研究したい人間の違い。

そうすると、ある方法を思い付くことができた。

まずポーションの容器にダンジョンの外で発動する魔法陣を書き込む。

これはダンジョン外に出ると中のポーションを無力化して、ただのに変えてしまう。

つまりポーションをダンジョンの外に持ち出せないようにする訳だ。


でも、これだけでは普通に使いたい収集者達が困ってしまう。

だって持ち出せないってことは、折角手に入れても持ち帰れないからダンジョンの中に置いてこないとダメだからだ。


そこで、ダンジョンの外に持ち出せる専用のケースを考えた。

これに入れていればポーションの容器の魔法陣が発動しないってケースである。

これなら収集者達もポーションを持ち帰れるようになる。


で、ここで問題。

それじゃあポーションを研究したい人もポーションを持ち出せるじゃないか!

その問題を解決してるのがケースの存在だ。

これ、ケースを開けるとダメなのだ。

開けた瞬間にポーション容器の魔法陣が発動してしまい中身はになってしまうのだ。


ちなみに、ポーションてのは専用の容器に入っていないと魔素が抜けて効果が無くなる。

材料に使われる薬草が持つ魔素が抜けないように特殊な加工がされている、それが専用の容器なのだ。

結局はポーションって言うのは専用の容器に入っていなければ、ただの薬草汁になってしまうのだ。


そんなポーションを収集者はダンジョンで使いたいから、ダンジョンの外でケースを開けなくても問題無いが、研究したい人達は必ずケースを開けて中身を出さないと研究できない。

そこをターゲットにしたのだ。


じゃあケースを開けずに、穴でも開けてそこからポーションを取り出せば?

穴を開けた時点で、外の純度の低い魔素に触れるのでアウトである。

つまり、魔素を扱えない地球人では、どうやっても誤魔化すことはできないので、ケースを開けたり穴を開けたり切ったりした時点でアウトな訳だ。


これならポーションをダンジョン内で使えるはずである。


そう思って師匠にも確認に行った。

結果「良い着眼点じゃ!」と褒められた。

やったね!


さて、残る問題はポーション容器に魔法陣を書かないとダメなこと。

作業用ゴーレムができるように、魔法陣の登録をしたり細々とやることがある。

だが逆を言えば、それさえ終わればポーションが使えるようになるから、攻略も進むかもってことだ。

そうなれば魔石の普及にも役立つって訳である。


ただ・・・また御戸部さんに叫ばれる未来が見える気がするんだよな・・・



「・・・涼木さん?今がどういう状況か分かってますよね?」

「ええ、まあ」


「分かってて、この話を持って来たんですか?巫山戯てるんですか?冗談じゃありませんよっ!今の状況で、こんな話を持ってこられて、どうしろって言うんですかっ!」

「どうもこうも、上に報告してもらうしか無いと思いますよ。だいたい、御戸部さんは騒いでますけど、これって関係あるのはダンジョンに入ってる人だけで、それ以外の人には関係無いでしょう?」


「そ、そ、それは・・・確かに、説明通りなら、そうかもしれませんが・・・絶対に研究者とか医者とか薬品関係の会社とかが絶対に騒ぐじゃないですか!」

「でも賢者が言う通りなら、ダンジョンの外に持ち出すための専用ケースから出したらになるんですよ。何を騒ぐことがあるんです?」


「それでも騒ぐんですよっ!」

「じゃあ、勝手に騒がせとけば良いんじゃないですか?事前に、取り扱いの注意だけすれば終わりでしょう」


だいたい騒いだって賢者が許さないことを、どうこうできる訳が無い。

実際にやってるのは俺だけど・・・


水になるって言ってるのに、それでも手に入れて研究するならすれば良いし、その結果がただのでも文句は言え無いだろう。


「・・・でも、塔の中なら使えるんですよね?」

「使えるみたいですね」


「怪我人とか病人とかを連れ込めば治療ができることになりませんか?」

「その状態でチュートリアルがクリアできるんでしたら、可能でしょうね」


「チュートリアル?えっ?それってチュートリアルを通過できないとダメってことですか?」

「そりゃあそうでしょう。チュートリアルに挑戦する人と、ダンジョンに普通に挑戦する人は転移陣も違いますし」


「でも、転移陣のある場所は、塔の一階入口部分ですよね。なら、そこで治療は可能なんじゃ?」

「あっ!そう言う意味ですか!それは無理ですよ。転移陣のある一階の入口はドアが解放されてますから。あそこは塔の外と同じです」


なるほどね、御戸部さんの言いたいことがやっと分かった。

そうか、確かに塔の中か外かと言われたら、あそこは塔の中ではあるもんな。

でも空気中の魔素って考えると、ドアが開放されている以上、あそこは外と変わらないんだよな。


「そうか!ドア開き放しでしたね・・・そりゃあ無理か」


やっと納得したかな?


「と言うことで、大きく騒ぐことでも無いと思いますし、騒いだとしても問題にはならないでしょう?」

「押し掛けてくる人は増えそうですが・・・」


「押し掛けてきたら、「チュートリアルから、どうぞ」って言えば良いんですよ。だって賢者が、それ以外を認めてませんから」

「・・・それでもセンターや政府に捻じ込もうとするんですよね」


それは俺が関与する所では無いかな。


「欲しければ、自分で採ってきてもらえば良いんですよ。個人の持ち物であるポーションに制限はしないですし」

「・・・それしか無いですか・・・」


頑張って!御戸部さん。

これがないとダンジョンで死人が続出することになるからね!

マジで、そろそろ到達階層がヤバイんだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る