第87話

「「「「「「うぉおおおお!」」」」」」


俺達が転移した真正面に、ドラゴン形態のレティーの顔がどアップで見えた。

まあそれで、俺以外の全員が「ドヒャーッ!」って感じで驚いてる訳である。


「皆さん落ち着いて下さい!スカラフォーディウム殿も少し離れて下さい。皆さんが驚いていますから!」

「何じゃ?この程度で驚いておって、私と話しなぞできるのか?」


いや、確かにレティーの言う通りだけど、インパクトが強過ぎるんだって!


「レティーよ。モリトがさがれと言っておるのじゃ!」

「賢者が言うなら仕方あるまい」


姿は見えないが、師匠がレティーに言ってくれたことで距離を置いてくれた。

ちなみに、コレ、ほぼ打ち合わせ通りだったりする。

レティーのどアップだけは、ここまでやるって話じゃ無かったけどな。

予定では、もう少し離れた所にいる予定だったはずなのだ。


「皆さん落ち着きましたか?」


三人ほど腰が抜けたように尻餅を搗いているが大丈夫か?


「総理、服部センター長、御戸部さん大丈夫ですか?」


流石に《閣下》!麻生田大臣は普通に立っているか。

あっ、でも口は開きっ放しだな。


「え~、突然で驚かれたとは思いますが、あちらがドラゴンのレティリシア・ロンドバルムス・ベルクリア・フィレンバルム・スカラフォーディウム殿です。それと先ほど聞こえた声が賢者の声ですね」

「お、お、大きいとは聞いていましたが、実際に目するまで実感が伴っていないことが分かりました」

「本当にこれほど美しいとは思いませんでしたぞ!」

「私は一瞬丸飲みにされるかと思いました」

「これは世界の反応が凄いことになると確信できました。心して掛からねば」


服部センター長を皮切りに、麻生田、御戸部、総理とそれぞれがそれぞれの立場でその感想を漏らしていた。


「では、話し合いを始めましょうか。まずはこちらの紹介からですね」


俺は総理、麻生田大臣、服部センター長、御戸部さん、総理の付き人二人以外の紹介をする。

勿論、話し合いはその後だ。


その後の話し合いってのは、俺が講義したのがどんな内容なのか?本当に攻撃されない限り手は出さないと約束できるか?飛行中に周囲に影響を与えないようにできると聞いたが、間違い無いか?そんな感じの多数の確認事項を聞いたのがほとんどだった。

じゃあ、そのに含まれない話は何か?と言えば、麻生田大臣の個人的な興味から出たっぽい質問だろう。


レッド・ドラゴンなどと言う色に関する呼び名は無いと聞いたが本当か?

ドラゴンの鱗は硬いと聞くがどの程度か?

ドラゴンの寿命とはどのくらいか?

ドラゴンの血に特殊な効果があると聞くが、どんな効果か?

ドラゴンはブレスを使うと言うが、どの程度の威力なのか?

ドラゴンが人を背に乗せるのは特殊なことなのか?

ドラゴンの食事とはどんな物を食べるのか?

雌雄による大きな違いはあるのか?


総理達が聞いたことは世界中の国の政府が知りたいことだろう。

麻生田大臣が聞いたことは、それ以外の大勢の一般人が聞きたいことだろう。

どっちも情報としては大切な物であるとは分かるが、ここまで内容が綺麗に分かれると流石に故意にやってる感を感じてしまうな。


ちなみに麻生田大臣の質問の答えは、こんな感じだった。


色について、色でドラゴンを呼び分けることは無く、レティーの父は青、母は黒、兄は金、妹は白だそうだ。


鱗の硬さは分からないらしい。

と言うのも、ドラゴン同士以外で鱗が割れたりしたことが無いからだって。

ちなみに、師匠の魔法でも鱗は剥がれても割れたりはしなかったそうだ。


血に関しては、向こうの世界で噂になっていたが、実際に効果があるかどうかは興味が無いので知らないらしい。

師匠曰く、高濃度の魔素が含まれているので、それだけで病気が治ったり、細胞が活性化されて若返ったように見えたりするらしい。


ブレスは、レティーが知る限りでは岩でも地面でも溶かせるってことだった。

レティーでは無いドラゴンの逸話として、城が跡形無く溶岩溜まりになったとか、人も魔物も骨どころか灰すら残らなかったとかって話があるんだとか。


人を背に乗せるのは、超特別だそうだ。

レティー以外だと、一人だけいたって話があるらしいが、詳しくは分からないらしい。


食事は基本的に魔素で、他に食べる場合は嗜好品に近いらしい。

レティーは料理された物が美味しいと知っているが、他のドラゴンは基本的に物を食べないそうだ。

ただし生まれたばかりの子供は別で、子供は魔素を含んだ鉱石を食べるらしい。

勿論、鉱石が栄養になったりはしないが、鉱石に含まれる魔素を栄養にするのだとか。

その鉱石に含まれる魔素の質によって、鱗の色が決まるらしい。


雌雄による違いは、体の大きさらしい。

基本的に雌のドラゴンの方が体が大きいそうだ。

地球上でも、雄と雌だと、雌の体の方が大きいってことがあったはずだから、不思議は無いだろう。


それにしても、俺も知らなかったことが多かった。

特に気にしていなかったってことではあるが、聞いてみると色々と疑問が解けた感じだ。

特に「兄や妹がいたんだな!」とか「それで親子や兄弟姉妹で色が違ったんだな」とかって感じだ。


そうそう、大きさは俺が簡易的に測った大きさとほぼ変わりが無かった。

2m大きいとか、1m小さいとかは誤差の範囲ってことらしい。


この時点で二時間ほどが経過したのだが、これから少しだけ師匠との話し合いも待っている。

ただし時間は短くて、三十分だけだ。

それも、俺を仲介すると言うスタンスに変更は無い。

つまり、目の前にいるが話すのは俺だけってことだ。


まあ、そんな状態で話をする時点で、師匠側が歓迎してはいないことが分かるだろう。

実際は歓迎うんぬんより、余り両者の距離感を縮めたくないって感じである。

距離感が縮まると、途端に色々と要望とかを言われそうだって気がしてるからだが、たぶん大きくは間違っていないだろう。

なので、何をするにも間に俺を仲介させるスタンスを貫くことで、距離感が縮まったと思われないようにしているって訳。


でも、これって割とこじ付けっぽいんだよね。

師匠がこの世界の人との係わりを持ちたくないだけなんじゃないかな?って思ったりもするんだ。

おれがそれを直接聞けるか?って言うと・・・聞いても、師匠が答えると思えないからなぁ・・・


「こちらが異世界から来られた賢者さんです。で、あちらが日本の代表である総理大臣です」


師匠は紹介を聞いてから俺を手招きした。

そして耳元で「予定通りに頼むのじゃ」とだけ言う。


「えーっと、よろしくとのことです。それで、何か話したいことはありますか?」

「聞きたいことは沢山あるのだが、今一番気になっているのは我が国で報告された一つの仮説についてなのだ」


「仮説ですか?それはどのような?」

「地球滅亡についての話の中で、空気中の魔素量が少ないのは二酸化炭素が影響している可能性があると指摘されていた。では今後、空気中の二酸化炭素が減った時に魔素が増える可能性があると言うことだと思う。その場合地球人にも〈魔法〉は使えるのだろうか?」


・・・おぉう、えらい所に切り込んできたな。

これは俺も考えたことがあるが、その可能性は低いと判断したんだが・・・師匠の意見は聞いてなかったな。

一応聞いてみるか?

俺は師匠の耳元で小さく確認してみた。


「師匠、どう思う?魔力器官ができると思うか?」

「無理じゃな。儂がモリトの時ように術式を組んで魔法陣を用意すれば別じゃが」


「それは直ぐにはってことだよな?」

「じゃよ。まあ千年後は分からんのじゃがな」


「でも、今の地球の状況を見ると魔力器官ができるとも思えないんだが・・・」

「うむ、状況的に見て地球の環境は魔力器官が発生し辛いのかもしれんのじゃ」


「そうか!元々地球には魔力があったんだから、過去に魔力器官があった可能性があるってことだ。それが無くなったってことは、別の理由があるってことだ。つまり魔力器官が復活する可能性よりも、しない可能性の方が高いのかもしれない」


おれはそのことを総理に伝えることにした。


「・・・つまり、遥か昔は魔法が使えたかもしれないと?」

「ええ、そう言うことらしいです。でも何かの原因で、それが無くなったと言うことです」


「それは原因が分からなければ〈魔法〉は無理と言うことですね」

「そうとも言えますし、そうじゃないかもしれません。それは「神のみぞ知る」ことでしょう」


「そうですか・・・」


実際問題、地球で魔法が使えなくなった理由なんて俺達が分かる訳が無いのだ。

それこそ神様達に聞けば簡単に分かるのだろうが、それを聞く訳にはいかないよな。


それから少しの間話を続け、その後塔を出て総理達と帰った。

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