第83話
その日に、レティーとの対面は許可されなかった。
と言うのも、連日の俺の(地球の常識を教える)講義で疲れ切ったレティーがストライキを起こしたのだ。
まあ要望は簡単で「最低でも三日に一度の休日を要求する!」ってことだった。
それを聞いて俺も師匠も少し反省して素直に「すまなかった。少々焦っていたようだ」と謝罪し、三日に一度の休日を認めたのだ。
だがまあ、そんな話を彼等に聞かせる訳にもいかず、別の理由を捻り出して、今回は無理としたのだ。
どんな理由か?って。興味があるのか?
まあ大したことじゃ無いんだが「ドラゴンには定期的に眠りが必要で、丁度さっき眠ってしまった」と言っただけである。
本当か?って勿論、嘘である。
ドラゴンの生態なんて誰も知らないんだから、適当に言っても嘘だとバレることは無いからな!
結局は、後日時間を作って総理を含めた四人でレティーと師匠に会うことになったのだが、それまでにはレティーの教育を何とかしないとな・・・
そんな自分で増やしてしまった仕事を終え、これも自分で提案した話し合いの内容を資料にし、それを御戸部さん経由で渡し終わったのが今日。
やっとこれで一息吐けると思ったら、武器の状態確認(新しい武器で素材も違うために彼らでは損耗状態が判断できない)の連絡が入った。
連絡してきたのは天道組の六人で、全員の武器の確認を依頼されたのだ。
俺でも確認はできるのだが、表向きは俺は連絡係ってことになってるから、武器を預かるだけで「修理が必要なければ半日で返せるよ」と伝えて終わりのはずだった。
「なあ、涼木さん。昨日フラワーガーデンのヤツが、ここに麻生田大臣と服部センター長が来るのを見たって言ってたんだが、何かあったのか?」
武器を預けたら帰るはずの天道さんに、そんな質問をされて言葉に詰まってしまった。
『何やってるんだよ!見られてるじゃん!』ってのが正直な気持ちだったが、それは口にはできない。
なので・・・
「皆さんが購入した武器の具合が気になったみたいですよ。まだここに持ち込まれたのは京極さんだけだったので、そう説明しましたけど」
そんな風に咄嗟に答えたのだった。
天道さんは、それで納得したようで「そうか、大変だな」と言って帰っていったのだが、本当に心臓に悪かった。
さて、明日からまたレティーの講義をしないとな!
*** *** *** *** *** ***
「麻生田大臣、呼び出してすまないね」
「いえ、必要なことですから」
ここは総理官邸の一室。
完全防音の上、電波遮断された特別な部屋だった。
「さて、報告を聞きたいのだが、ここを指定したと言うことは、重大な内容なのだろう?」
「総理は心臓は丈夫でしたかな?」
「・・・話を始める前から脅さないでくれないか?それじゃあ、まるでショックで心臓発作が起きると言ってるようなものだろう」
「その可能性は充分にあると思っとります。実際に私も危なかったですからな」
途端に総理の顔色が悪くなった。
だが麻生田大臣は総理の顔色には気を配らずに告げる。
「今考えている最悪の想定の十倍は覚悟して下さい」
そう言って報告を始めた。
それから五時間ほど・・・
「・・・十倍でも生易しかった、百倍はきつかったよ」
「それは最初の想定が甘かったのでは無いですかな?」
「かもしれないな。しかし、地球滅亡とは・・・」
「検証も何もできない予測ですが、賢者が我々に嘘を言う理由がありませんからな」
そう言われながらも、総理は何かしらの嘘の可能性を検討するのは止めなかった。
総理の中で、可能性として上がったのは「魔石に依存させることで、何かの権力を得たい」と言うくらいの物だった。
この可能性にしても、急いで広めると言うことは既存のエネルギー形態が残っていることになるため「依存」という状態になり辛い欠点があった。
『他に思い付けることは・・・何かないか?』と悩むが、何も思い付けなかった。
「しかし、検証も証明もできない予測を、どう世界に伝えれば良いのだか?」
「本当に、総理の言われる通りなのですが、言わないという選択肢は「滅亡」に直結してしまいますからなぁ・・・」
「何か良い説明方法は無いのかね?」
「そこは例の彼に資料を作成してもらっていますが、その・・・私の様な特殊な知識が無いと理解し辛い物になるかと・・・」
「それじゃあ、世界に説明できないだろう?」
「そこは私も含め、分室の者を総動員してでも、一般人に通用する資料に変換したいとは思っております」
「なるほど、分室があったな」
「ええ。彼等も日夜、そちら方面の知識を集めて検討してくれていますので」
そう分室である。
まさか国家公務員である分室職員の業務内容に「マンガ」「アニメ」「ラノベ」などからの情報収集や検討、体系化や資料整理が必要になるとは誰も考えてはいなかっただろう。
「そうだね。緊急記者会見の時の資料を思い出したよ。あの時も彼等は良くやってくれたからねぇ」
「総理も会見後に褒めておられましたなぁ」
総理にしてみれば、あれらの知識が必要だとは思ってはいるのだが、今更あれらを「学ぶ」と言うことに躊躇していたのだ。
だから、麻生田大臣と話しながらも、視線は微かに上に向いて遠くを見ているような感じになっていた。
なので、あれらを普通に理解できる麻生田大臣が少し遠くの存在に思えていたりするのだった。
「となれば、その資料を待ってから、再度検討するしかないな」
「ええ。それが良いとは思いますが、それとは別に賢者とドラゴンに会う日程の調整は急ぎませんと」
「それもあったんだったな。そのドラゴンの眠りと言うのは、どのくらい続くんだね?」
「例の彼が確認したところ、三日~四日程度だとか。どうやら空気中の魔素が少ない影響らしいと言っていましたね」
「それにしても、地球滅亡、大災害の発生、〈ゲート〉、賢者の国外訪問、ドラゴン、何でこんなに一度に出てくるのかね?」
「そう言われましても、原因は一つですからなぁ。地球滅亡を防ぐために賢者が知恵を絞ったと言われれば反論のしようはありませんし」
「いやいや、分かっているとも。だがね、もう少し穏便にならないものかとね」
「そこはこの世界の知識や常識が無い賢者が相手ですからなぁ。一般人である例の彼に、そこまで求めるのも酷でしょうし、我々で多少でも軌道修正できないか検討するぐらいしか方法は無いでしょうな」
「つまり、また分室に頑張ってもらうしかない。と言うことか」
「ですな。それしか無いでしょうな・・・」
*** *** *** *** *** ***
「室長!超・極秘文書到着しました!」
「来たか・・・見たくないな」
「室長が見ないと、何も始められませんよ」
「俺が許可するから、お前が先に見ても良いぞ」
「嫌です!俺の心臓、室長ほど強くないですから」
「お前、俺が室長だと知ってて何て言い草だ!」
「何でも良いですから、早く目を通して指示を出してくださいよっ!」
「俺の心臓が止まったら、お前の所に化けて出てやるからな」
良く分からないコントの様な会話を終えて、鍵付きのジュラルミンケースを開ける室長。
中には、もうワンサイズ小さなジュラルミンケースが入っており、それにはダイヤル錠が付いていた。
事前に特殊なルートで連絡されていた番号で鍵を開けると、中にはA4の封筒が一つ。
中身は・・・二十枚ほどの書類のようである。
眉間に皺を寄せ、嫌々封筒の中身を出す室長。
表紙の表題を見た瞬間、机に額を「ガンッ!」と打ち付けた。
そこには・・・「地球滅亡回避のために必要なこと」・・・と書かれていた。
それは・・・
涼木さんは、何故こんな表題にしたのか?
もう少しマイルドにならなかったのだろうか?
余りにストレート過ぎるのでは?
そう思った御戸部だったが、手を加える訳にもいかず、結局そのまま提出した資料そのものだった。
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