第82話
「ち、ち、地球を破壊する気ですかっ!」
青褪めた顔色のままで本日初めて服部センター長が発したのは、そんな叫び声だった。
「どうしてそんな話になるんですか?」
後で気付かされるのだが、この時の俺の自然な疑問だった。
「時速四万km以上で空を飛ぶなんて、戦闘機のソニックブームどころの話じゃ無いでしょうっ!衝撃波だけで地上の建物とか吹き飛ぶレベルですよっ!環境破壊なんてもんじゃありません、完全な戦争行為と取られてもおかしく無いでしょう!」
「えっ!あぁあ~」
これは俺の完全なミスだ!
魔法で空気抵抗を無くせるとか、色々な説明をしてなかった!
「すいませんでした!私のミスです!そのドラゴンの飛行方法なのですが・・・魔法を使うようでして、空気抵抗とかは無くなるって言ってたんです。説明するのを完全に忘れてました!」
俺は素直に自分のミスを認めて頭を下げた。
その俺の謝罪で理解ができたのだろうが、あからさまに三人が「「「ほっ!」」」安心したようだった。
「そう言うことでしたか。そう言うことならば、私も突然大きな声を出して申し訳なかった」
「や、止めて下さい。センター長!」
俺と同じように頭を下げる服部センター長を必死で止めた。
「しかし・・・今日だけで何度心臓が止まりそうになったか?・・・まさかと思いますが、まだあったりしませんよね?」
「話ですか?取り敢えず、賢者から話すように言われたのは以上ですよ」
「良かった。これ以上は本当に心臓が止まりそうでしたから」
「麻生田大臣、既に私は瀕死の状態です」
「御戸部君は打たれ弱いな」
「私は一公務員でしかないのですが」
「麻生田、御戸部君を揶揄うな。しかし、御戸部君の仕事に対して立場が弱いのは確かだな。少し上に進言した方が良いんじゃないか?」
「昇格か?」
「いや、状況的に言って、別枠で役付きとかだろう」
「少し待っていただけませんか?私の目の前で、そう言う話は・・・」
「これは失礼した。まあ悪いようにはせんから、安心したまえ」
・・・何やら盛大に話が逸れてるな。現実逃避か?それとも落ち着くために態とやってる?
まあ、俺はどっちでも良いんだけど、時間は大丈夫なのかな?
俺は気分転換も兼ねているだろう会話を邪魔しないようにコーヒーのお代わりを取りに席を立った。
全員にコーヒーを注ぎ足して席に戻ると、服部センター長が口を開いた。
「色々と説明をして欲しいのだが、良いかな?」
「構いませんが、私も聞いた以上のことは話せませんよ」
「それは分かっているよ」
「なら、どうぞ」
一応、知らない(答えられない)こともあると言って置かないと不味いからな。
「まず、その・・・地球が滅亡と言うのは、賢者の予測なんだよな?」
「予測ですね。確定ではありません。と言うか、実際に発生しない限り確定はしないでしょう?予測の精度と聞かれても私では答えられませんしね」
神様が言ったことなので確定事項だけど、流石にそれは言え無いからな。
「その、精度を確認することはできるだろう?」
「賢者から詳しく聞いてくることは可能ですが・・・魔法の話が分かりますか?私はさっぱり分かりませんけど」
そう、賢者=魔法って感じで、地球上では検証不可能な魔法の理論を聞いて、何を判断するのか?って話である。
「その魔法の話を、地球の人間にも分かり易くイメージし易いようにできないか?」
・・・それって、俺が圧力に例えた感じか?
魔法のことは魔法として認識してもらおうと思ってたけど、科学的な見方に置き換えた方が理解し易いってことだろうな。
でも、それでは本当の魔法は理解でき無いんだけど・・・良いのか、それで?
「とても難しいと思います。と言うのも、私自身が魔法を理解できているとは言え無いので、正しく例えられるのか自信がありません」
魔法を知らない(はずの)俺が答えるなら、これ以上の答えは無いだろう。
「しかし、賢者の話を聞いてそれについてやり取りをし、内容を纏めて私達に伝えられているのだから、もう少し何とかなるんじゃないか?」
あぁ~、そう言う観点か。
でも視点が違うと思うんだよな。
「その、話の内容を理解してお伝えするのと、噛み砕いて分かり易くするのはレベルが違うと思うんですが・・・私がある程度話を理解できているのは日本文化の御陰ですし・・・」
「日本文化?それが関係あるのか?」
服部センター長は、そっちに興味は無いんだろうな。
なら・・・
「麻生田大臣はお分かりになりますよね?」
「なるほど。そっちの話か。それは服部には理解できまい。しかし、そうなると閣僚や高官にオタク文化を必修させなくてはならんか?」
ちょい待ち!それはやり過ぎだろ!
「麻生田、それは・・・」
「服部、理解するために必要なことだぞ」
二人の関係が、優等生と悪友に見えるのは俺だけだろうか?
麻生田大臣が服部センター長を沼らせようとしている様にしか見えん。
「涼木さん、あれ、放っといて良いのか?」
「話が進みませんし、止めましょう。御二方、話を続けませんか?」
「「すみません」」
「それでは。私の方で今回の話の資料を作ります。しかしそれを理解するには、その、オタク文化と言われる物を知る必要があると思います。なので、そこは麻生田大臣にお願いしたいと思いますが?」
「そうだねぇ。君を会議に連れ出す訳にはいかないし、仕方無いだろうね」
良かった、閣下なら任せられるだろう。
「それで質問の続きなのだが、富士の演習場に最初の〈ゲート〉と言うのは、どう言うことなのだろう?」
「元の技術は、ダンジョン内の転移陣らしいので問題は無いと言っていましたが、私が頼みました。実験と言いますか、先行試験と言いますか、色々な国に設置する前に試験運用をするべきでは?と考えたんです」
「それは、良い判断ですな!」
「確かに!実績が無い物を設置するのはリスクがありますから」
「流石、涼木さんです」
そう褒められることでも無いんだけど、まあ、黙っておこう。
「後は、設置に賢者が必要なのは理解できるのですが、その前に我が国の者と会って頂く必要があると思うのです。主に総理とですが」
だよな、そう言う話になるだろうとは思ってたよ。
「それは賢者に聞いてみないと、何とも・・・」
これはマジな話だ。
たぶん、嫌だ!って言うだろうし、俺が幻影魔法で身代わりをすることになりそうだけど。
「では、それは確認して下さい。最後に、ドラゴンですが・・・」
「涼木さん、どんな感じですかな?西洋風ですか?東洋風ですか?それとも近未来風ですか?」
服部センター長の質問を遮って、麻生田大臣が捲くし立てた。
「えーっと、遠目にしか見てませんが、西洋風でした。鱗が金属っぽくて赤銅色をしてましたね」
「おぉお~!レッド・ドラゴンですな!」
「いえ、そう言う色での違いみたいな呼び方は無いようでした。とても長い名前が印象に残ってますね」
「名持ちですか!それは素晴らしい!」
「あっ!大臣が考えている名持ちでは無いと思います。あちらの世界のドラゴンは自分で名前を付けるそうで、名前が長ければ長いほど良いらしいです」
「ほうっ!で、そのドラゴンの名前は?」
この麻生田大臣の質問で、俺はポケットから手帳を取り出す。
長い名前を覚えていない振りである。
「えー、彼女の名前は、レティリシア・ロンドバルムス・ベルクリア・フィレンバルム・スカラフォーディウムと言うそうです。賢者はレティーと愛称で呼んでいましたが、それは許された者だけにしか呼ばせないとも言っていました。私はスカラフォーディウム殿と呼ばせてもらっています」
「では、私達が名前を呼ぶ時も涼木さんと同じで?」
「それは、分かりません。ドラゴンの知り合いは彼女だけですし、頻繁に会うことも無いので・・・」
「ドラゴンにもドラゴンの文化があるのですな」
やっと麻生田大臣の質問ラッシュが終わったかな?
「麻生田、そろそろ良いか?涼木さん、そのドラゴンの大きさはどの程度か分かりますか?」
「大きさですか?」
レティーがドラゴン形態の時の大きさ?
大きいとしか知らないな。
「遠目に見ただけなので、正確な大きさは知りませんね」
「では、大体で」
「大体ですか・・・大型バス五・六台を縦に並べたくらいでしょうか?本当に遠目でみただけなので・・・正確な大きさが必要なら聞いてみますけど?」
「お願いします。ドラゴンなど見たことが無いもので、感覚が分からないのです」
「会えるように手配しましょうか?」
「できるのですか?」
「確約は難しいですが、可能性はあるかと」
「「「お願いします!」」」
えっ!三人ともなのか?
「分かりました、でも、麻生田大臣がいることですし急ぎますよね?」
「できれば」
余計なこと言ったな、仕事が増えたじゃん!
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