第84話
余りに広過ぎて大きさの感覚すら無くなりそうな畳敷きの空間に四人用の炬燵が一つ、そのコタツに向かい合うように対面で座っている女性が二人いた。
片やみかんの皮を剥きつつ、片や湯飲みでお茶を飲みつつ、無言で向かい合っている。
片方がみかんの皮が剥き終わりそうなタイミングで、お茶を飲む女性に話し掛けた。
「ねぇ、ツキ。私一つ思い付いたのだけど」
「天姉様、何ですか?」
「彼等、魔素の関係で頑張ってくれてるじゃない?」
「色々と問題はあるようですが、概ね頑張っていることには賛成ですね」
「今の、ダンジョン?って、大昔の
「・・・まさかと思いますが・・・」
「似てるわよね?」
「・・・似てますね。と言うか、ほぼ同じ物でしょうね」
「やっぱりそうよね!じゃあ・・・」
「待ってください!それ以上は言わなくて良いです!絶対に言わないで下さいよ!もう残ってる他の宗教圏の神が少ないんですから、今更再起動なんて絶対に無理ですからねっ!」
「えぇ~、あのダンジョンと同じように調整すれば、世界中で魔素が消費できるでしょ」
「無理ですよっ!管理できる下級神の数が圧倒的に足りませんてばっ!だいたい何で今、そんなことを言い出すんです!」
「だって〈ゲート〉って言うのを認めたけど、ダンジョンがあれ一つだけじゃあ絶対に許容量が足りなくなると思わない?」
「許容量は確かに足りないかもしれませんね。それは分かります。
「う~ん、無理かぁ。良いアイデアだと思ったんだけどなぁ」
「天姉様のアイデアは確かに良いんですけど、圧倒的に他の諸事情を考えてませんよね?」
「それは、そういうのが得意なツキがいるから・・・」
「全部私に丸投げする心算だったんですか?もうっ!いくら天姉様の頼みでもできることとできないことがありますからね!」
「・・・やっぱりダメ?」
「ダメです!」
「本当に本当?」
「本当に本当に本当にダメです!」
「絶対に絶対?」
「絶対に絶対に絶対にダメです!」
「少しも考えてくれない?」
「少しも・・・考えるだけなら、やってみますけど・・・たぶん無理ですよ?それでも確認してみますか?」
「考えるだけでも考えてみて欲しいかな?」
「・・・分かりました!でも、無理だってなっても文句を言ったりしないでくださいね!」
「ありがとう、ツキ。やっぱりツキは頼りになるわ!」
「もうっ!本当に天姉様は・・・」
二人は仲がとても良い様子だった。
*** *** *** *** *** ***
ブルッ!何故か急に背中に寒気が走ったぞ。
室内はとても快適な温度になっているのに、変だな?
「どうかしたか?モリト」
「・・・いや、たぶん何でも無い。それより今日の講義を始めようか」
神様の指示によって始まった、レティーへの講義。
実の所はこの世界の常識を覚えさせるたののものである。
どんな常識か?って、例えば、レティーがドラゴン形態で空を飛ぶとする。
現在の地球の空は、各種飛行機が飛びまくっている。
その飛行機には明確なルールの中で飛んでいるのだが、そこに丸っきりルールを無視したレティーが飛び込んでくると、大事故に繋がる可能性があるのだ。
そういう事故を起こさないために、例えば大型旅客機の巡航高度は?とか、何処が飛行禁止区域なのか?とか、そう言う常識的なルールを知っておく必要があるのだ。
単純に師匠を世界各国に連れて行く(建前の理由)だけなら、ここまでする必要は無いのだが、神様が言った「空を飛びたいか?」と言う質問は、日常的に空を飛びたいか?と言うことだったのだ。
日常的に空を飛ぶとなれば、こういうルールは知っていないと絶対に事故になる!と考えて、俺にレティーの教育を指示したって訳だ。
まあ俺も、ドラゴンであるレティーをずっと塔に閉じ込めていることには、少なからず罪悪感があったので、快く、とまでは言え無いが引き受けたってことだ。
その辺りのことは最初にレティーにも話してあるので、日頃は面倒臭がりな彼女も割りと真剣に講義を聞いて憶えようと努力してくれている。
まあ、最終的に何が伝えたいか?と言えば、無暗矢鱈と手出しをするな!ってことだ。
神様も「故意に」って言ってたけど、手出しすると絶対に「故意」だからアウトってことになるのだ。
更に言えば、さっきの飛行高度とかもルールを覚えていなかったら、故意に憶えなかったって言われる可能性がある。
まあ事前に「手出しするな!」って言ってるのに攻撃してきたとかなら、防衛ってことになるだろうけどね。
ただ、日本政府が上手く世界の各国に「手出し厳禁」を了承させられるか?って問題もあるんだけど・・・もしもの時はレティーの自己防衛は止められないなぁ。
えっ?ドラゴンに現代兵器の攻撃が効くのか?って、そりゃあ全く効かないだろうけど・・・攻撃された時点で効果のあるないは関係無いだろ?
レティーも、この辺の自己防衛とか、その判断とかは割りと簡単に理解してくれた。
ちょっと不思議だったんだけど、聞いてみるとドラゴンへの考えが少々変わったね。
なんと!異世界にいた時にも、こういう取り決めはあったんだって。
まあ主にドラゴン同士の間で決められてたみたいだけど、攻撃されない限りは手出し無用ってのは同じだったみたい。
他には、戦いを挑む時の取り決めで、三度断られたら諦めるってのもあったんだって。
つまりドラゴンに挑まれても連続で三回断れば、そのドラゴンは二度と挑んでこないそうだ。
・・・知らなかった!
あっ!そうそう。
攻撃されない限りは手出し無用ってのにも例外がいくつかあって、ドラゴンの宝物を盗もうとしたり実際に盗んだら攻撃してもいいとか、ドラゴンの卵や子供に近付く者は問答無用とか、色々とドラゴン側の判断基準があったらしい。
こうして聞いてみると知らないことって多いんだなってつくづく思ったよ。
そんな講義をしながら、レティーに教えるために俺も勉強したりしていた。
だって、普通の一般人が領海だとか制空権だとか詳しく知る訳が無いでしょ?
他にも航路とか航空路とかも知らないし、無線なんてレティーには用意できないから知ってないと困るだろしって感じで教えるために学ぶことの多いこと!
大変だよ、まったく!
ちょこちょこと簡単なミニテストみたいなこともしながら進めてるけど、レティーって頭は悪く無いんだよ。
ただ単に面倒臭がりってだけで、教えると普通に覚えてくれるから、そこは良かったね。
ちなみにレティーが人型になれるのは秘密にした。
これはこれで爆弾になりそうだったから、ってのもあるんだけど、もしレティーが街とかに出れるようになった時に怖がられるかな?って心配になったんだ。
今は三人娘だけしか外出してないけど、将来的にはあるかもしれないからね。
さて、他にレティーに教えておかないといけないことってあるかな?
ミスは許されないしなぁ・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます