第79話

我は、レティリシア・ロンドバルムス・ベルクリア・フィレンバルム・スカラフォーディウムである。

種族はドラゴン、年齢は1425歳、性別は雌、友にはレティーと呼ばれておる。


そんな最強種であるドラゴンの我は現在、何故か友人二人によって教育を受けさせられておる。

その理由は「この世界の神に会うため」だと言われたのだが、何故に神に会うために教育を受けねばならんのだ?


我が納得のいかん顔をしておったからか、我の友人の弟子、もう一人の友人であるモリトが説明を始めた。


「レティー、この世界とあちらの世界、全く違うってことは理解してるよな?」

「勿論。我は馬鹿では無いぞ。それぐらい理解しておる」


「世界が違えば神様も違う。神としての性質も、性格も、格も、強さも、全部違うんだ。その辺りのことを細かく説明すると長くなるから、簡単に纏めると、この世界の魔素は異常に多いよな」

「であるな。来たばかりの時は魔素酔いで辛かったわ」


「生物が体内に魔力を沢山持てば持つほど強いってのも分かるよな?」

「勿論。我が良い例である」


これがドラゴンの悪い所なんだよな。

ちょっと傲慢って言うか、自信過剰って言うか、自分より強い存在を知らないってのは、こういう弊害があるんだよ。


「なあ、レティー。レティーを創造した神って存在は強いと思わないか?」

「そもそも神はあの世界に存在したのか?」


それ、無神論者的な考えなんだけど。

そんなんじゃ神様に敬意なんて持たないだろうなぁ、はぁ。


「俺も師匠も、この世界の神と会ったことがある。はっきり言って師匠が百人いたって勝てないぐらい強かった。それもそうだろ?この魔素が溢れる世界を造った存在なんだ、それだけでその身に内包された魔力がどれほどか理解できるんじゃないか?」

「それは・・・我は会ったことが無いのだから、神を信じろと言われても無理であろう」


レティー、お前完全に信じる気が無いよな。

これは難題だな、どうやって信じさせるか?


「レティー、儂もモリトと同じことを思っとるんじゃが、それも信用できんと言うのじゃな」

「そ、そ、それは・・・我はお主のことは信じておるが・・・」


おっと、流石に師匠の言葉は重みが違うみたいだ。


「レティー、この世界の神を敬わねば最悪、お主は元の世界に送り返されかねんのじゃ。その危険性が理解できとらんのじゃ」

「なっ!そ、そ、そんなことが!」


「あり得るな。機嫌を損ねたらだけど」

「モリト!どうすれば良い!」


「神様の方が強いと認めれば良いだけだぞ」

「それだけなのか?」


「だってドラゴンって強さの上下で態度が変わるだろ?」

「確かに。では・・・本当に強いのだな?」


「ああ、マジで手も足も出ないくらいに強い」

「・・・それって、腕試ししたり・・・」


「死にたいのか?だったら止めないけど、三人娘が悲しむぞ」

「うっ!・・・分かった、認める。認めるぞ!」


良かった、何とか説得が完了だ!


後は本番で、それなりにしてくれれば・・・何とかなるはず。


「師匠、今晩行ってくるよ」

「儂も行くのじゃ」


「って、三人でか?」

「フォローできる人間が多い方が助かるじゃろ?」


「それはそうだが、苦手だったろ、神様」

「苦手と言うよりは恐れ多いのじゃ」


「大丈夫なのか?無理は・・・」

「友のためじゃ、無理をする時じゃろう」


なるほどね。

そう言われたら、断れないな。


「了解。時間になったら声を掛けるよ」




そろそろ良い時間かな?

確認した時計の針は深夜三時を指していた。


この時間ならあんな辺鄙な場所に人なんていないだろう。

さて、二人を呼びに行くか。


・・・・・・


・・・・


・・


「スサノオ様、御召しに従いまかり越しました」

「硬い!もっと普通に喋れんのか?」


「いつも言っておりますが、無理です」

「そうかよっ!・・・で、そっちが例のドラゴンか?」


「ええ、そうです」

「それに賢者も来てるんだな。三人か・・・良かろう。行くぞ!」


そう聞こえた瞬間、視界が真っ白になった。


徐々に色を取り戻す視界。

それによって周囲の状況も理解できるようになった。


これは、前に話し合いをした会議室みたいな部屋か?


「見える様になったかしら?」

「その御声はアマテラス様ではありませんか?」


「良く憶えてたわね。見えるのなら椅子に座りなさい」

「もう少しお待ち下さい。まだはっきりとは見えないもので・・・」

「モリト、こっちだ」


そう言って俺の手を掴んだのは、レティーか?

俺はその手に導かれるまま移動し、手で椅子を確認できた。


「そこの初めて会うあなたがドラゴンなのですね?」


この声はツクヨミ様だな。


「いかにも。我はドラゴンのレティリシア・ロンドバルムス・ベルクリア・フィレンバルム・スカラフォーディウムと言う」


ちょっとつっけんどん過ぎないか?

いや、ドラゴンだしありか?


ほぼ視界が元に戻ったのでレティーの顔を見てみた。

・・・マジ?凄く緊張してるみたいに見える。

もしかして、神様の強さが理解できた、とかかな?


「そう。ドラゴン、あなたこの世界の空を飛びたい?」


えぇーーー!そんなにストレートは質問なのか?


「飛べるなら、飛びたい」


こっちもドストレートだし!


「姉様。嘘は無いかと」

「そう。この世界にはこの世界のルールがあります。もし空を飛びたいなら、モリトに許可を貰いなさい。モリトが飛んでも良いと許可を出したのなら、私達は何も言いません」


「えぇえぇーーーー!少し御待ち下さい。私に決定権を御与えになるのですか?」

「今の世界の常識に合わせた知識が必要でしょう?あなたが適任だと思いますが、違いますか?」


ツクヨミ様の物凄い正論に言葉を失った。

確かに、この中でそれに適任なのは俺しかいない。

それは分かるし理解もできる。

だが・・・


「あぁ~、私達の許可じゃないことで慌ててるのではありませんか?」

「そ、それです!私は皆様の許可をいただこうと思っていたのですが、急に許可を出すのが私だと言われて・・・」


「既にこちらの処理は終わり、許可は出ているのです。しかしそれには条件が付いていまして」

「その条件が、私の許可だと?」


「厳密には、ドラゴンが故意にこの世界に大きな影響を与えないことです」

「存在することが分かるだけで、世界に大きな影響を与えると思いますが?」


「この場合は「故意に影響を与えない」つまり、故意に何かをして影響を与えることを禁止しています。例えば、気に入らないからと街を焼き払ったり、飛行中の旅客機に攻撃したり、高速で海に飛び込んで津波を発生させたりと言った行為のことです。存在していることは「故意で」は無いので問題ありません」


つまり、マトモな理由も無いのに暴れるな!ってことか。

それは納得できた。

そうなると、俺がやるのはこの世界の常識を教えることか!


「それさえ守られるなら、この世界での生活は許します。ただし破った場合は・・・分かりますね?」


チャンスは一度切りってことだろうな。

うぉおー、俺の責任重大じゃん!

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