第78話

いつもとは違う気持ちで、いつもと同じ様に、いつも通りの方法でスサノオ様を呼び、用意した供物を渡すのだ。

目の前にはきちんと並べられた供物と今回の頼み事の詳細を書き出した書類が置いてある。


「何だぁ?いつもの御供えとは違うみたいだが?」

「ええ、実は御願いがありまして、そのための供物です。一緒に置いてあります書類に詳細が書いてありますが、三貴神の皆様で御検討いただき御許可を頂けないかと・・・」


そう言って書類の存在を知らせておく。


「これか?・・・これは儂がどうこう言える物では無いな。聞いてはみるが・・・内容的に許可が出るとは限らんぞ」

「それは理解しております。ただ、詳しく見て頂ければ御理解いただけますが、現在の問題に対し魔石の普及を予定通りに進めるための対策ですので、そこも考慮していただければ」


ザッとしか見ていないだろうスサノオ様に注意を促しておく。


「ふむ、分かった。この手のことは儂の管轄外だし姉様達に言っておこう」

「よろしくお願いいたします」


「で、その願いのためにコレか?」

「ええ、スサノオ様には珍しい栗の焼酎を、アマテラス様とツクヨミ様には美味しさを追求した高級果物を用意しました」


「栗?栗で酒を作っただと!」

「ええ、珍しいと思いますが?」


「よしっ!分かった。結果はメールで知らせる!」


俺がその言葉に返事をする前に消えたスサノオ様。

・・・そんなにソレが呑みたかったのか?


少し呆れそうになるが、それは不敬と言うものか。

まあ、無事に頼み事は終わった。

しかし、神様とのやり取りは何度やっても精神的に疲れるな。



*** *** *** *** *** ***



最近、涼木さんが忙しそうだ。

何をやっているかは分からないし、教えてもくれないだろう。

いくら俺が魔法契約をしているからと言って、全てを話す義務がある訳じゃないから。


それにしても何がそんなに忙しいのか?

政府と賢者の仲介役をしてるとは聞いていたが、それでこれほど忙しくなるものだろうか?

それとも、まだ公表されてない何かがあるのか?

それの調整で忙しいとか?


それはそれで何があるのか気になるなあ。


でも忙しそうなのは涼木さんだけで、センターの職員とかは普通なんだよな。


あっ!そうなると政府とかは関係無くて、賢者の方の何かか?

何か仕事を頼まれたとか?


う~ん、どっちでも気になるな。


周囲からは「京極君は強いんだね」とか「ソロでそこまでできるって凄い」とか言われるが、涼木さんと比べると足元にも及ばないんだよな。

指示されてる目的の階層までまだまだ時間が掛かりそうだし。

と言って、急いでも良いことは無いってのも分かってる。


何せ命は一つしかないんだから。

地道に頑張って、目標を達成しないと直接指導も受けられないんだ。

慎重に頑張ろう!



*** *** *** *** *** ***



「御戸部さん」


背後から呼ばれて振り返る。


「これは、服部センター長ではありませんか?何か御用ですか?」


俺を呼んだ人物を知って挨拶をした。


「いえ、用と言う訳では無いんですが、何か気になってるようなので、どうしたのか?と思いまして」

「・・・実は、涼木さんがバタバタと忙しそうにしてるので、少し心配で・・・」


俺の言葉に、服部センター長の顔色が変わる。


「冗談・・・って訳じゃあ無いですよね?」

「本当のことです。微妙に嫌な予感みたいな感覚もありまして・・・」


「私達の中で一番付き合いが長い御戸部さんが言うと、何かありそうで怖いんですが・・・」

「私が何か言わなくても、爆弾が落ちる時は落ちますよ」


「「・・・・・・」」


自分で言って、それが本当だった時のことを考えると言葉が出なくなった。


「・・・では、近々何か起きると?」

「可能性は高いかと・・・」


「一応、政府側には「何か動きがあるかもしれない」と連絡して置きましょう」

「私の方は、話が付き次第直ぐに連絡を入れます」


そんな言葉を交わして別れた二人は、それぞれが胃の辺りを摩っていたのだった。



*** *** *** *** *** ***



「あっ!来た」


俺はPCの画面に出た「新着メール」に反応した。

早速開いたメールには、いつも通り二十文字と言う制限の中で簡潔に内容が書かれている。


「一度ドラゴンに会いたいから連れて来なさい」


・・・マジですか?

そう言えば師匠だけしか会ってなかったよな。

レティーを三貴神に会わせるの?

それって、大丈夫だろうか?


「これは師匠を交えて話し合いが必要かも?」


俺は大急ぎで塔に転移するために走り出した。

我道を行くドラゴンを神様に会わせる前にやることがある!

絶対に不敬を働かせる訳にはいかないのだ。


「師匠!緊急事態だ!」

「何事じゃ?」


「レティーに神様から呼び出しが掛かった!」

「な、な、何じゃとーーー!大事ではないかっ!」


「だから緊急事態だって言ってるだろっ!」

「ど、ど、どうするのじゃ!」


「それを相談に来たんだよ!」

「・・・そうじゃったか」


そう言った二人で顔を突き合わせて相談を始めた。


問題になりそうなのは、あちらの世界では神と言う存在にレティーが会ったことが無かったことだろう。

ドラゴンと言う存在は、神を除けば世界の頂点だ。

それに文句を言う者など存在しなかった。

故に、ドラゴンは自身より強い者は、同種のドラゴンの中にしかおらず、種族を下に見る者も多かったのだ。

レティーはその点に関して下に見る様なことはしないが、やはり何処かしら弱者に対するような行動や言動がある。

つまり自分の方が強いと言う感覚がある訳だ。


その辺りが自分の種族より強い者に会ったことが無いために起きている事実であり、それが神と会った時にどう転ぶか分からない点である。

そして、その「どう転ぶか分からない」のが一番の問題なのだ。


「まさか神様に喧嘩を売ったりしないよな?」

「・・・正直分からんのじゃ。あれも、強き者と戦うのが好きじゃからなぁ」


「そうなのか?」

「そうじゃった、儂との出会いは話しておらんかったのじゃ。儂がこのダンジョンを攻略した頃じゃ。強き者がおると聞いたレティーが儂に戦いを挑みに来たんじゃ。二日ほどやり合って引き分けたんじゃが、それで友となったのじゃ。あの頃は儂もまだまだ若かったのじゃ」


・・・マンガかよ!

「昨日の敵は今日の友」とか「強敵と書いて友と読む」じゃないんだから、そう言うのはいらないんだけど!


くそっ!マジでヤバイじゃないか!


「モリトよ。儂が話して聞かせるのじゃ。儂の言うことなら、レティーも無視したりせんじゃろ」

「・・・俺も付き合うよ。この世界の神様のことは俺の方が良く知ってるし、説明するのに必要かもしれないだろ」


「なら、二人でレティーを説得し教育するのじゃ、良いな?」

「ああ、問題を起こさないようにしっかりと言い聞かせよう」


人の言うことを聞かないことで有名なドラゴンを躾けると言う高難度ミッションが始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る