第69話

入塔管理センター、特別会議室。


そこには大勢の人々が集められていた。

男、女、漢女、若者、中年、色々な人々がいるが、その全てに共通することが一つだけ。

全員がダンジョンに出入りしている〈収集者〉であると言うことだった。


そんな会議室のドアが開いた。


「急な呼び出しに応じてくれてありがとう。私は・・・知らない人間はいなかったな。改めて、服部だ。ここのセンター長をしている」


そう言って自らが大きなテーブルを囲むように配置された椅子に座った。


「どうぞ座ってくれ。でだ、今回の要件だが、君達はダンジョン専用武器と言う物を聞いたことはあるか?」


その言葉に室内がザワつく。


「その様子だと、みな知っているようだな。もし知らなくても、知っているものとして話を進めさせてもらう。今から一ヶ月後、ここにいる者のみでダンジョン専用武器のオークションを行う予定だ。知っての通り現在は流通量が少なく、最前線である自衛隊の攻略者チームに優先させていたのだが、それでは魔石の収集量が増えないと言う問題があって、一部だけだが優秀な収集者である君達に売り出すことにした」


ざわめきがさらに大きくなる。


「ただし、一つだけ問題がある!」


その一言で、室内が静まった。

そして、男性の一人が聞いた。


「問題とは?」

「それは武器の現物が無いことだ。今回オークションをするのは、正確に言うとダンジョン専用武器をになる」


「作る?それって自分専用ってことか?」

「その通り。武器の種類、長さ、重さ、重心などを聞き取りして製作することになる」


服部センター長は、本当にこれで良いのか?まだ心の何処かに不安感があった。

この内容を提案されたのは二週間ほど前だった。

涼木さんからの提案で「販売店舗を作るなら絶対に必要になることなので、今回の分からやりませんか?」と言われたのだ。

戦闘をする者に聞いたところ、そう言う違いは確実に影響を及ぼすらしい。

それを聞いてしまうと、命懸けの仕事をしている彼等には絶対に必要だと判断した。

しかし、その聞き取りをするのが涼木さん本人だと言われたのが、彼の心に不安感を感じさせていた。


理由は勿論、彼が唯一、賢者と交渉できる人物だからだ。

実際に今回のダンジョン専用武器の件で事前に賢者との交渉を成功させている実績がある。

だが、その特殊な立ち位置が他国にバレると非常に面倒なことになる可能性が高い。

今までは目立たせないようにしていたが、店舗を構える以上、人前に出ることになる。

それは何かの拍子に彼のことが知られてしまう危険性に直結するのだ。


「・・・センター長、一つ質問させてくれ」

「勿論だよ、天道くん」


「くん呼びは止めてくれと言ったよな?・・・武器を作るって話だが、職人が作るのか?」

「作るのは職人だが、聞き取りは別の人間だ」


「職人は、そう言うのを嫌うと聞いたことがあるんだが?」

「今回の職人は極端な人見知りなんだ。慣れるのに、最低でも数ヶ月単位の時間が必要になるんだ。それでも良ければ、直接でも構わないが」


まだ日本国内の鍛冶屋が量産に成功していない状態なので、今回の武器は賢者が用意することになっている。

それを教える訳にはいかないので、事前に決めていたストーリに沿って説明をしたのだ。


「そう言うことなら、謹んで遠慮しておくよ」

「遠慮することは無いぞ。できれば、あと何人か意思疎通ができる人間を増やしたいと思っていたんだ」


「だから、遠慮するって言っただろう!」

「ああ、分かってる。単なる冗談だ。本題に戻るが、オークションの内容だ。武器の数は・・・」


「数は・・・まさか一つとか言わないよな」

「流石にそれは無い。実を言えば、今回選抜した人数の全員分用意できる。だが、それは同じ物ならばと言う但し書きが付く」


「意味が理解し辛いんだが?どういう意味だ」

「素材の総量、製作時間、そういう諸々を考慮すると、どうしても時間差が発生する。つまりオークションで競ってもらうのは、製造の順番ってことだ」


武器自体の値段は既に種類ごとに決定済みで、これは選んだ武器に対して後で支払うことになる。

オークションの真の意味は言った通り時間の優先度にいくら出すか?と言うことだ。

まあ、簡単に言えば、早く欲しければオークションで高額を払えば良いと言うことである。


「そう言う主旨のオークションなのか、なるほどね。全員分が用意できるからって条件なら確かに次に重要なのは時間だな」

「理解できたようで何よりだ。で、みんなはこの形式で問題無いかな?」


「実際のオークションのように競るの?」

「いいや、自分の払える額を書き込んでもらい、その金額順で順番が決まる。仮に同額だった場合は、その時点で二度目の金額提示をしてもらう形だ」


この順番を決める方法以外に、みなが納得しそうな順番決めの方法は思い付かなかった。

最初はって案もあったのだが、それでは運の要素が強過ぎると反対が多かったのだ。


「自分が出しても良いと思える金額か?その後に武器代を払うとなれば、そのことも考慮しないといけない訳だな」

「代表的な武器の代金はオークション直前に教えることになるから、その場で記入する金額を判断してもらう」


「俺は、それで良い。他の者は?」


その質問に反対する者はいなかった。


「良かった。では説明は以上だ。それから勿論のことだが、この情報はここにいる者以外に話さないでくれ。自分も欲しいと言って殺到されても、それに見合う製造能力は素材も時間も足りないんだ」

「みんな理解しているだろう。じゃあ、これで終わりだな」


天道が代表してみなが無言で頷くのを確認して終了を宣言したのだった。



誰もいなくなった室内に残っていた服部はポケットからスマホを取り出して誰かを呼び出す。


「もしもし。センター長の服部です。今、電話は良いかな?」

「ええ、構いませんが、今は・・・オークションの説明会の時間では?」


「今、終わったところです。みなに理解してもらえたようで、問題無く終わりましたよ」

「それは良かったです。提案した甲斐がありました」


どうやら今回のオークションは電話の向こうの人物が提案したようだった。


「で、本当にこんな形で良かったんですか?もっとお金を得ることもできるのに・・・」

「良いんですよ。現状、賢者も生活に困っている訳では無いですし、早く魔石の流通が拡がった方が彼の希望に適いますから」


「しかし、今回は色々と涼木さんに助けていただきました。本当に助かりました」

「何だか賢者が性急過ぎる気がして、少しでも時間が稼げれば?と思っただけですから」


「それでも、それが政府に対応する時間を作ってくれたことに変わりは無いんです」

「そう言ってもらえるなら・・・少し擽ったいですが」


どうやら服部の電話の相手はモリトのようだった。


「ところでセンター長、量産の方はどんな感じで?」

「それを、賢者が気にしていますか?」


「というか、今回の物と量産品では武器自体の能力が違ってくるので、それが後々問題にならないか?と心配してる感じです」

「そこまで性能に差が出るんですか?」


「差が出るらしいですよ。その割合は正確には分からないですが」


何がどれだけ違うのか分からないが、後々問題になるのは不味いな。

事前に問題になりそうな内容を確認しておくしかない。


これはまた会議の日々が続きそうだ。

どれだけ掛かることか?予想がつかないな。

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