第68話 トップチーム

第一位とか、トップとか、言われているようだが、それは所詮はひとが勝手に呼んでいるだけだ。

確かに民間のチームの中では最前線で活動しているだろうが、軍や自衛隊を考えると、そう凄いことでは無いだろう。

たった一人、例外中の例外である彼こそが本当の〈第一位〉と呼ばれるべきじゃないだろうか、そう京極尊こそが。


まあ、そうは思っても俺も仲間も負けていると思ってはいない。

今はまだ、と言うだけで、この先の未来は確定していないからだ。

俺達のチームは絶対に追い付き、追い越し、本当の意味での民間〈第一位〉になると心に誓っているからな。


「天道さん。申請が終わりましたよ」

「ありがとう」


「ところで、チーム名って考えましたか?」

「それなんだが、やっぱり必要か?」


困った顔で聞き返す、天道と呼ばれた男は元自衛官だけで構成された収集チームのリーダーである。


「今直ぐでは無いですが、もしもを考えると正式にチーム名を決めてチーム登録をしておいた方が安心ですよ」


ここは入塔管理センターの受付で、職員が今言っているのは「運悪く死亡者が出た時の措置」の話だった。


ダンジョンは危険な場所であり、死と隣り合わせなのだ。

そう言う危険な場所なので、正式な固定チームと仮のチームでは扱いも変わる。

その中で一番違うのがチームの誰かが死亡した時の扱いだ。


全滅ならチームの資産を人数割りにするだけなのだが、生き残りがいた時の扱いが全く違うのだ。

仮のチームの場合は死亡した者の物は持ち帰った者が、持ち帰った物の評価額の二割を受け取る権利があるが、それだけだ。

しかしこれが正式なチームだと、チーム内で全員合意の上で書類を用意した場合だけ生き残った人間の総取りになる。

ただし、最近導入された特殊型生命保険にチームで加入していて、チームの支出で保険料が払われており遺族が保険金の受取人である場合に適用される。


つまり悪質な保険金殺人が起きないように配慮されているのだ。

勿論、全滅も含め死亡事故が発生した場合は、相応の調査が入ることになっている。

それもかなり厳しくて結構な期間に亘って調査されることになるのだ。


こういう問題が発生する可能性を考慮して、仮のチームより正式な固定チーム(チーム名とメンバーの登録)を推奨している。


もしかすると上司に説得するよう催促されていたのかもしれない。


少し悪いことをしたかな?

しかし、俺達の方にも色々と事情があったんだが・・・流石にこれ以上引き伸ばすのは・・・無理だろうな。


「・・・分かった、正式な登録に向けてチーム名を考えてくるよ」

「ありがとうございます。トップチームの一つが何時までも仮のチームだと、余り良く思われないので助かります」


職員は本気で安心したような表情だ。


入塔予定が受理されたことで次の予定は確定したのだが、帰り際に職員から思わぬ爆弾を手渡されてしまった。


「急かすようで申し訳無いんですが、ダンジョンに入る前に登録を済ませて下さいね」


余りに良い笑顔で告げられて「もう少し時間をくれ」とは言い出せなかった。

だが、これから起こることを考えると頭が痛くなるな。

みんな協力してくれるだろうか?


「みんな行くぞっ!」

「隊長!終わりましたか」


隊長って?と思うだろう?

色々な事情で自衛官を退役し、予備自衛官補として実家の家業を継いでいたのだが、自衛官時代の部下達が揃って退役したことや賢者の塔のダンジョンなど色々なことがあり、今は元部下達五人とチームを組んで収集者をしているのだ。

そんな経緯から皆から隊長と呼ばれている。

「もう自衛官じゃないから止めろ」と言っているんだが、慣れた呼び方が良いと言って誰も変えてくれなかった。


「申請は終わった。問題無く受理されたが・・・別の問題ができた」

「問題無くって言ったのに、問題ですか?」


「ああ、そうだ。取り敢えず、いつもの中華でメシを食いながら話そう」

「腹は減ってるんで助かりますが、その問題、レストランで話しても大丈夫なんで?」


「ああ、別に隠しておくようなもんじゃないからな」


徒歩で十五分ほどの全国チェーンのチャイニーズレストランに入って、それぞれに食べたい物を注文する。


「で、さっき問題って言ってたのは何です?」


注文が終わったところでサブをしてくれている篠田が聞いてきた。


「篠田、俺達のチームにとって大問題だ。センターから正式なチーム登録をしてくれと頼まれた」

「なっ!嘘でしょ?」


「嘘じゃない。上から指示が下りてるらしい」

「・・・そんな」


「マジかよ」

「やべぇぞ」

「大問題だな」

「不可能だろ」


他の者達も口々に呟いている。


何でこんなことで全員が戦々恐々としているのか?

それは・・・俺達全員に共通する致命的な欠点が影響している。


俺達全員が「致命的にネーミングセンスが無い」ことだった!


「俺達にとって最大の問題が発生したな。リミットは次のダンジョン攻略の前までだ、やるしかないぞ」

「俺達にできると思うのか?隊長」

「そうだ!自衛隊は番号かコードだったから問題無かっただけだ」

「俺は未だに娘に犬の名前のことで笑われてるんだぞ」

「そんなのまだ可愛いもんじゃないか!俺なんて嫁さんにビンタされたんぞ」

「それはお前が酷い名前を息子に付けようとしたからだろうが!」


とてもチェーン店の店内で楽しそうに話している雰囲気では無い。

もっと殺伐とした感じである。


だが、そこに少し離れた席の男性が声を掛けてきた。


「あの、聞く気は無かったんですが話しが聞こえてきて」

「すまないな。楽しい食事時を邪魔したようだ」


その男性に苦情を言われると思ったのか、天道が謝罪をする。


「いや、邪魔って訳じゃなくて。その・・・チームの名前ってあなた達が考えないといけない物なんですか?誰かに考えてもらって、みなさんが納得すればそれで良いのでは?」


天道達六人は鳩が豆鉄砲を喰らったように驚いた顔で固まってしまった。


彼等は凝り固まった考えと苦手意識から、別の人間に命名してもらうと言う考えに行き着かなかったことを今更ながらに理解したのだ。


「「「「「「それだ!」」」」」」


彼等六人の大きな声にレストラン内の人々の目が集中した。


「お客様、余り騒がれるのは・・・」

「「「「「「すいませんでした」」」」」」


六人は謝罪も綺麗にハモっていた。

彼等は、心の中に蟠っていた錘が溶けていくような、そんな心の軽さを感じていた。



数日後。


入塔管理センターの受付には、これからダンジョンに入るための手続きをするため天道達が集っていた。


「あっ!天道さん、予定通りこれからですか?」

「ああ。それでダンジョンに行く前にの手続きをしたくてね」


「正式な固定チームの登録ですね!」

「名前はコレだ。メンバーは知っての通りこの六名だ」


「お預かりします」


天道の差し出した書類を受け取る職員。


「・・・チーム名は・・・天道組?ですか」

「そうだよ。娘が考えてくれたんだ」


職員はどう反応すれば良いか悩んだ。

何故なら、彼は頭の隅で『なんかヤクザの組みたいな名前なんだけど、これで良いの?』と思っていたからだった。


どうやら天道の残念なネーミングセンスは娘にも遺伝したようだった。



・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・


収集チーム「天道組」のメンバー


天道---元自衛官で部隊の隊長だった。現在、自衛官時代の部下達五名とチームを組んで収集者として活動している。

篠田---元自衛官で部隊の副隊長だった。現在も収集者として天道とチームを組んで彼の補佐をしている。

村田・清水・米本・斉藤---元自衛官で天道の部隊の隊員だった。現在は天道とチームを組んで収集者として活動している。


全員が残念なネーミングセンスをしていることをコンプレックスに思っている。

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