第67話

「何で、今なんだっ!」


それはこの場にいる全員が思っていることだった。


唯一の窓口であるが、機転を利かせて時間的な猶予をもぎ取ってくれたが、この賢者の行動には根本的な問題が残っている。

それは「ダンジョン専用武器の製法を世界に公表していないこと」なのだ。


今はまだ日本と同盟国であるA国だけで製造方法を秘匿している状態で、それがダンジョンで先頭を行くための力になっている。

しかし、この技術が他国に知られれば・・・どんな問題が起きるかくらい簡単に想像できる。


では、どうするか?


「オークションは開催するしかない。それは決定事項だ。逆らってダンジョンを閉鎖でもされては目も当てられん」

「ですが、それでは武器のことが世界中に知られてしまいます」


「それも問題だが、それよりも何故、賢者が武器のことに介入してきたか?それが重要かもしれんぞ」


「早く最上階に来て欲しい?ってのは・・・ありえないか」

「冗談に費やしてる時間は無いんだよ」


「魔石の普及を早めたいって言うのは?世界の魔石への依存度を上げれば、自分達の居場所が確保できるから、とか?」

「無いとは言えんかもしれんが、それでは弱い気もするな」


「では戦える者をダンジョンに入らせて全滅させる。すると世界の軍事力が低下。賢者が楽に世界を手中にできる」

「馬鹿馬鹿しい!日本を二・三日で沈められると豪語する相手だぞ。そんな手間の掛かることをせんでも、魔法で攻撃すれば誰も防ぎようが無いだろう」


「えぇいっ!理由など後で時間がある時に考えれば良い!今は武器の件を今後どう対応していくかだっ!時間が無いんだぞ」


総理の声に会議室内が静まり返る。


「武器の件が他国に知れ渡るのは確定事項でしょう。オークションは絶対に開催せねばなりませんからね。とするならば武器の件を、どう世界に伝えるか?が鍵でしょうか?」


みながその言葉の意味を考え始めた。


「ダンジョンで発見された?とか」

「なら、他の国が誰も発見できてないのが、おかしいってことになるだろう」


「なら、我が国で開発したなら?」

「間違い無く世界中の国から、たかられるな」


「確かに集られるだろう。だが、そこでどうするか?が問題ではないかな?」

「どうするとは?」


「良い例を挙げるなら国連でしょうか。金は出せ、だが常任にはせん。口は出すな。こんな弱腰外交では集られて毟り取られるだけでしょう?」

「それは・・・だが、ここで強行に出たとしても他国との関係に軋轢が生まれるでしょう」


「何を今更。良いですか、私は今までの外交方針を転換するチャンスだと考えています。理由は単純、世界に知られた新しいエネルギーは日本でしか手に入らないんですよ。ガタガタと文句を言うなら、日本への入国を制限すると言ってやれば良いんですから」

「それは余りにも強硬手段過ぎるっ!」


「勿論分かっています。今のは、あくまでも最終手段です。だが、確かに効果がある方法であると思うでしょう?」

「確かに効果はあるだろう。だが、それでは戦争に発展する可能性が高いだろう」


「でしょうね。だから、どうする?と聞いているのです」


そう会議室内に問うたのは、麻生田異世界担当大臣兼ダンジョン入塔管理センター名誉会長であった。

彼は以前外務大臣を経験したこともあり、当時はなかなかに鷹派な外交をしたことでも有名だった。


彼の言葉に、そこにいる者達は苦い思いを思い出していた。

今まで日本は色々な国からいい様に金蔓扱いされるが発言権は無い、と言う残念な思いをしてきたのだ。


「・・・確かに、今の状況なら強気に出れる。それは間違い無い。だが、強気過ぎて戦争になるのは避けねばならん」

「戦争は不味いですな、それだけは本気で避けなければ」


「では、そのための道筋と方法を考えましょう。もう「弱腰外交」と言う汚名は返上せねばならんからな!」



*** *** *** *** *** ***



「・・・ところで御戸部さん?」

「何ですか、涼木さん」


「工場を店舗用に改築しないといけないんですが、手続きとかって必要でしょう?場所が場所ですし・・・」

「・・・確かに、今の場所だと勝手に改築の手配はできませんなぁ」


「その辺の手配の取っ掛かりをお願いしても良いですか?」

「ええ、勿論です。各部署に連絡して手配できるようにしましょう。あっ!ついでに、もっと快適に生活できるようにしたら、どうです?」


「・・・良いアイデアですね。今のままでも生活はできますが、流石にシャワーだけの生活は少々・・・」

「確かに、日本人には風呂が必要ですな」


そんな感じでモリトの工場の改築の話も進み始めていた。

その後も御戸部と改築の件を話して、後日何人か人を集めて話をすることになった。



数日後、集った人達と改築の話をした。


工場のセキュリティーは問題無い。

周囲は高い塀に囲まれているし、出入りできるのは警察の分署(最初は派出所だったが規模が大きくなって分署になった)を通り抜ける必要がある。


だから改築と言っても、住環境の改善と店舗としての内装などだけだ。

少し時間が掛かりそうなのは水周りだろう。

小さな簡易キッチンを普通の物にするのと風呂の設置、後は客用のトイレの増設が必要なのだ。


改築費用は俺が自分で出すつもりだったのだが、国のダンジョン政策にも関係するので、一部を国が補助金と言う名目で出してくれるらしい。


「良いんですか?税金を使っても?」

「良いんですよ、国の方針としてダンジョンから魔石を収集すると言う目的に適っていますからね」


そう言う方向での話か。

なら、まあ良いか。


「分かりました。では、お願いします」

「ええ。では、こちらの図面のコピーをいただきますね。この図面を基に内装の変更と改築案を作成します。一週間ほどで、いくつかの案を用意しますので、それを見ていただいて最終的な案を纏めていきましょう」


打ち合わせに来た人達が帰って行く中、残った俺と御戸部さんは互いに顔を見合わせる。


「何か、あっと言う間でしたね」

「ええ。私は欲しい設備を聞かれて答えただけでしたよ」


「でも、そんなものじゃないんですか?」

「さあ、家って自分で建てたことが無いんで・・・」


「あれ?この工場で生活を始められる前は、別にお住まいでしたよね?」

「あぁ、あそこはマンションでしたから、間取りとか内装とか最初から決まっていましたし」


実際、俺が自分で家を建てるなら?と考えたことなど無かったので、本当に「こんなのがあったら良いな」とかで要望を口にしただけだったのだ。


「しかし、その割には風呂場は拘ってた気がしますが?」

「そうですか?前のマンションの風呂が余り大きくなかったのと、最近はシャワーのみだったので、大きい風呂に入りたかったってだけの話なんですが」


「良いじゃないですか、大きな風呂!私も体が伸ばせる大きな風呂なんて銭湯とか温泉、後は流行のスパですか?あれぐらいしか知りませんからね。自宅にあるってのは羨ましいですよ」


そう、俺が要望した風呂は大人三人ほどが体を伸ばせる大きな物を頼んでいたのだ。

大き過ぎると思うだろ?俺もそう思う。

維持費も掛かるだろうし現実的では無いんだけど、工場を全て魔石を使用したエネルギーシステムに変更するので光熱費が必要無くなるし、ちょとした贅沢って割り切ったのだ。


しかし・・・政府はどうするか?決まったんだろうか?

俺の所に費用を出すってことは、武器の存在を他国に教える気になったってことか?


まあ、間接的に誘導するぐらいで直接口出しする気は無いけど・・・

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