第66話

「ただいまぁ~」


・・・誰もいないのか?

いや、そんなことある訳がないよな?

みんなで何かやってるのか?


塔の最上階に戻ってきたが、誰も姿を見せないって何?


「取り敢えず、師匠の部屋にでも行ってみるか」


とまあ、師匠の部屋にも師匠の姿は無く、次いで三人娘の部屋へ。

またまた、そこにも誰の姿も無い。


本格的に何かおかしいと思った俺は、最後の住人であるレティーの所に行くために下の階層に向かうことにした。

階段って方法もあるのだが、下の階層は他の階層よりも空間拡張率が大きく設定されているので天井が異常に高い。

下りるだけでヘトヘトになるから、俺達だけが使える転移陣を使用する。


俺が転移陣で下の階層に到着して、最初に耳に入ったのは三人娘の笑い声だった。


転移陣のある隠し部屋から出て外を見ると、目の前には椅子に座ってお茶を飲んでる師匠の背中。

その向こうには元の姿に戻ったレティーの背中に乗った三人娘が見えた。


「何だよ。誰の姿も見えないと思ったら、こんな所で遊んでたのか」

「戻ったんじゃな。気になったのなら、魔法陣で探せば良かろうに」


・・・確かにそうだけど・・・


「別に塔の中で危険がある訳じゃ無し、そこまでする必要は無いだろ」


実際、この世界の技術でどうこうできそうなのは核兵器ぐらいだし、それにも対策はしてあるから問題にはならない。

その他で問題があるとすれば、今塔のダンジョンに入ってる地球の人々だろうが、それもまだまだ下層にいるので問題になりようが無いのだ。


「で、どうじゃった?」

「話はしてきた、あと発破も掛けといた」


「ふむ、せめて中層くらいで活動してもらわんと魔石の流通が拡がらんのじゃ」

「だよな。今の推移だと予定より遅れ気味だしな」


「で、返事はどうじゃった?」

「取り敢えずダンジョン専用武器のオークションをするらしい」


「数はあるのじゃろう?普通に販売すれば良いのではないのかのう?」

「国同士の色々な力関係や何やらがあって、日本と同盟国が優先で、それ以外の国は後回しってのは変えられないみたいだ。それでオークションってこと」


つまり今までは自衛隊やA国軍関係者しか使っていなかったダンジョン専用武器をオークションに出すことで、他の国にも存在をアピールする。

当然他の国もダンジョン専用武器が欲しいから、日本に交渉してくるかオークションで高額落札するしかない。

少しでも他国に流れれば、日本としては俺の話を聞いたと言えるって訳だ。


だが、俺はそんな中途半端なことで納得する気は無い。

俺には国同士の力関係とか関係無いし、どっちかと言えば邪魔なだけだ。

俺には神様との約束の方が重要だから、早く魔石によるエネルギーの代替を進めたいのだ。

そのためにも早くダンジョン専用武器を世に広めなければ、到達階層が何時までも下層から進まないままになってしまう。


「・・・モリト、いっそのことお前がダンジョン専用武器を販売する店でも開いたらどうじゃ?」

「俺が?日本政府が許可しないだろ?」


師匠も無茶を言うな。

何て言って店を開くんだよ!

魔石の流通を増やすために必要だから武器を売るための店を開店します!とか言えってのか?


「許可などいらんじゃろ。儂がモリトに武器を売れと指示した。それで仕舞いじゃろう?」

「あっ!賢者の指示かっ!」


それなら文句は師匠に言えって言えば良いし、俺は指示通りにするだけだし、良いかも!

それをやると、御戸部さんの仕事が大変かもしれないけど・・・


「そうだな、その方向で話をしてみるわっ!ちょっと準備に戻る・・・」

「「「モリトーー!」」」


ありゃ、見付かったか。


「ようっ!レティーと遊んでるのか?」

「「「そうっ!」」」


楽しそうで何よりだ。


「俺は仕事があるから戻るけど、気を付けて遊べよぉ!」

「「「は~い!」」」


「じゃあ、師匠行くよ」

「何か言い忘れておるじゃろ?」


「・・・良いアイデア助かったよ」

「うむ」


自慢げに「うむ」って、まあ師匠だしな・・・


さて、色々考えることができたな。



*** *** *** *** *** ***



「・・・・・・それ、冗談ですよね?」

「全然。本当に賢者からの指示ですよ」


俺の言葉に御戸部さんは少し俯いてプルプルと体を震わせている。

御戸部さん大丈夫なのか?


「うがぁぁぁぁーーーー!」


全然大丈夫じゃなかった!

御戸部さんがいきなり吼えたぞ。

取り敢えず落ち着かせないと。


「御戸部さん、御戸部さん!落ち着いて下さい。話は最後まで聞いて下さいよ!」

「・・・最後まで?」


「そうです!最後まで話を聞いて下さい」

「もっととんでもない話が出てくるんじゃないんですか?」


御戸部さんが全力で凄く疑ってくる。


「今伝えたのは賢者の指示です。私だってそれが色々と影響を与えるって分かりますから。なので少々交渉してきました」

「交渉?賢者と?何をです?」


交渉?何てしてないぞ。

俺が色々考えて案をまとめ、それを師匠に話して許可を貰っただけだ。


・ダンジョン専用武器を販売する店を開店し、武器を一般人にも販売すること。

これは賢者の指示なので、実質拒否できない決定事項として扱わないといけない。


・武器を販売するのは、工場を改装した店舗で行う。

これは現状新しく場所を確保するのは難しいだろうし、警備上半端な所では問題が起きるから。


・販売するのはダンジョン専用武器だが、販売する相手は入塔管理センターからの紹介状が必須とする。

ここが交渉結果で、紹介状を必要とすることで誰にでもは販売しないってことである。


・この店で販売する武器は、購入者専用武器になる。

本人を認識するので売ったりはできないし、勿論盗んだとしても使えない。

転売禁止にするための処置である。

これも交渉結果だな。


・紹介された者には、店が会員証を発行することで次回からも入店が可能になる。

これは入塔管理センターの業務を簡略化するための手段だ。

毎回紹介状を出させるのは手間だろうからな。


・会員は店のことを他人に話さないと言う守秘義務を契約してもらう。

破ると会員資格の剥奪である。


「・・・って感じで話を纏めたんですけど、どうです?何か見落としとかありますか?」

「・・・す、す、涼木さんっ!素晴らしいですっ!賢者と交渉して、ここまで話を纏めてくださるなんて!」


おいおい御戸部さん、興奮し過ぎだろ。


「ちょ、ちょっと待ってください。所詮は素人考えでやった交渉ですから穴があるかもしれません。御戸部さんの方から報告してもらって、修正が必要か確認して下さい」

「勿論ですっ!いやーしかし涼木さんが政府の意向を汲んでくださって助かりました」


「でも、これってたぶん一時的ですよ。賢者には「使用できない武器を買っても使えないでしょう?だから、許可制にしましょう」って言ったので、ある程度全体の技量が上がった時には「普通に一般販売しろ」って言われると思いますから」

「私も全体的な流れを理解している訳ではありませんが、それまでの時間的猶予ができたことが重要だと思います。その時間で対策や対処ができますからね」


御戸部さんは俺が偶然にやったと思っているようだが、俺は最初からそれを意図してやったからな。

日本に考えて動く時間を与えるが、それだけでは足りないんだ。

日本って国に一番足りないのは、決断力、今回のことは日本に決断をさせるための一歩でもある。

ここで弱気に出てたら、結局は時間があっても無くても同じだからな。

ダンジョン専用武器の情報公開をさせられるのか?それともそれを使って優位に話を進めるのか?

今までの様な弱腰外交じゃあ、毟り取られることになるぞ。


さあ、決断までの時間は少ないぞ。

折角のチャンスを棒に振らないでくれ。

俺の住む国でもあるんだから・・・頼むよ、マジで・・・

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