第65話 女性しかいないチーム

「ふーっ!無事に帰ってこれたわね」

見た目と違って少々荒っぽく言葉を吐くのはリーダーの翔子だ。

その後ろに続くのは四人、全員が女性と言う異色のチームである。


したなが翔子。

あずま良子。

むつ杏子。

わかつ亜希子。

よこだて美子。

以上の五人でチーム名が"コーズ"と言う。


英単語のCause(コーズ)を思い浮かべそうだが、五人とも名前の最後が子なので"子ーズ"だそうだ。

何とも単純と言うべきか、残念なネーミングセンスと言うべきか・・・

傍から見れば、名前の方より苗字の方が珍しくて気になるだろう。

全員が漢数字一文字って、珍しいにも程がある。

そっちを優先すべきじゃないかと思わなくもないが、どうやら彼女達は珍しい漢数字一文字の名前は、あまり好きでは無いようである。


実のところ、入塔管理センター内では彼女達を密かに"ナンバーガールズ"と呼んでいるとか(いないとか・・・)、知らぬは本人ばかりなりのようだ。


「あっ!皆さん!無事に帰って来られたんですね!」

「ええ!全員無事よ!」


受付の職員にリーダーの翔子が答えた。

続いて、他の四人も其々が帰還の挨拶をしながら受付を始める。


買取カウンターに向かった五人は買取担当の職員と素材の話を始めるが、その話題の中心は「三十階層に到達したチームがあるのか?」ということに尽きた。

現在、転移陣があると分かっているのが十五階層、三十階層、四十階層で、一般人で三十階層に到達しているのは一人だけ。

つまり単独行動している京極だけだった。

他の収集者達は、別に三十階層に行かなければならない訳では無いが、彼が持ち帰った魔物石の価格を聞けば三十階層の転移陣だけは使えるようにしたいと思っても不思議では無い。

何せ、魔石一個で三万円だと言うのだから、ゴブリンの魔石一個千五百円と比べれば二十倍である。

それも転移陣が使えるなら、一瞬でそこに行けるのだ。

行かないって選択肢は無いだろう。


「で、どこか到達したの?」

「三十階層以降の魔石の納品は一般だと京極さんだけですね」


「京極さんって、今どこら辺なの?」

「えっと、詳しくは言えませんが、公開されている到達階層は三十三ですね。って、これ二十六階層の魔石ですか?」


買い取り査定をしながら話をしていた職員が驚く。


「正解!今日は階層を更新したのよ。慎重に行く心算だから三十階層は少し先ね」

「昨日、二十七階層の魔石が二チームから納品されてるから三番手ね」


「京極さんは別格としても、前に二チームもいるのかー」

「京極さんはソロだし、到達階層が五つは離れてるからなかなか追い付けないしね」


「どうやったら、ソロでそこまでできるんだか」

「今、自分で言ってたでしょう"別格"って」


両手を肩口に挙げながら呟く翔子に、職員の言葉が正確な自打球のように返った。

それを聞けば全員が揃って笑うしかなかった。



素材の買取査定が終わり、振込みの手続きをしてカウンターを離れる彼女達は、受付の職員の声に振り返った。


「警備隊の御戸部さんですね?センター長に御用ですか?」

「ええ、時間があれば面会をと・・・」


「少々お待ち下さい、今確認しますので」

「ああ、それと彼も同席すると伝えて下さい」

「はい」


警備隊は分かる。

あの制服のマークは、ここにいる者なら誰でも知っているだろう。

だが、その横にいる一般人が何者か気になった。


「ねえ、警備隊の人の横のアレ、誰なの?」

「翔子さん、私達職員には守秘義務と言う物があるんですよ」


「・・・あぁー、個人情報保護?」

「それです。勝手に誰それですとか言ってたら、直ぐに首になっちゃいます」


翔子も流石にそれ以上聞けるとは思えなかった。


「良いわよ。無理を言って悪かったわ」

「理解してくれて良かったわ。じゃあ、これが査定額よ」


差し出されたタブレットの画面を五人で覗き込む。


「あら、最高額!」

「良いね」

「文句は無いわ」

「右に同じ」

「分かった。じゃあこれでお願い。いつも通り・・・」

「六等分してそれぞれとチーム資金に入金ね」


そのままタブレットにIDを入力して返すと、五人で窓口を離れる。


「よろしくね!」と離れ際に手を振って行くのが翔子のいつもだった。


センターから共同で借りているマンションに向かう。

最初はワンルームを別々に借りていたのだが、何をするにも不便だった。

そこで情報を集めたところ、建築中のマンションが六人チーム用の部屋を何部屋か用意しているらしいと聞き、まだ予約どころか外壁さえできて無い時から唾を付けて置いたのだ。

先週完成したそのマンションに引越ししたばかりだったりする。


「ねえ、帰っても食料は無いし、何か買ってから帰らない?」

「んー確かに疲れてるし、良いんじゃない。みんなは?」


誰も反対などするはずもなく、マンションの近くのテイクアウトが可能なレストランに向かう。

みなが適当に料理を注文し、出来上がりを待つことになる。


「ねぇ翔子、フラワーガーデンって強いわよね?」

「何よ急に?」


「ちょっと不思議に思って、私の勘だけど、あのチームなら京極さんに追い付けそうだと思うんだけど・・・」

「あぁそう言う疑問ね。チームの一人、一番下が荒事を苦手にしてるんだって。で、ゆっくり慣らしながら戦闘スタイル探り探りでやっているみたいだからね。まあ、実力は・・・あの体格だし、慣れれば一気に階層を更新していくんじゃないかな?」


実はリーダーである翔子は同性愛者、所謂いわゆるLGBTQってことだ。

なのでフラワーガーデンの様な特殊な人達と分かり合え、とても仲良くしているのだ。

そんな関係で内輪の情報を見聞きしていたりする。


それにしても、フラワーガーデンのメンバーが、あのガタイで荒事を苦手にしているとは、まったく予想外にも程があると言うものだ。



*** *** *** *** *** *** 



吹き抜けの二階部分、部屋の窓から一階の様子を見ていた二人の人物がいた。

「服部、涼木さんが来ていたようだが?」

「ああー、ダンジョン専用武器の件だったよ」


ふむ、と考え込んだ麻生田大臣と問うた。


「そこに〈彼の人物〉の意思は反映されていると思うか?」

「勿論だろう。涼木さんは〈彼の人物〉の言葉を伝える窓口なんだから」


それに彼は空かさず答えた。


「そうか・・・で、〈彼の人物〉の介入はあると思うか?」

「正直に言って、分からん。俺は直接言葉を交わした事も無いんだ、判断ができん」


更に考え込む麻生田。


「介入されると何か不味いのか?」

「外国勢にな、武器の件を追求される可能性があるだろう?」


「我が国にもその技術を!ってか?」

「碌に対価も用意できない癖に、利益だけは得ようとするヤツラだからな」


「そうは言うが、そもそも日本は対価を支払ってたか?」

「・・・鋭意努力中だ。分かるだろう?」


麻生田の表情は苦虫を噛み潰した様だった。

何かしら忸怩たる思いがあるのだろうと服部は表情から汲み取ったのだった。



*** *** *** *** *** ***



ピロッ!とスマホにメッセージの着信を知らせる音がした。

「誰かしら?」

「あっ!」と送信者の名前を見て少し喜ぶ翔子。


「あら?彼女かしら?」


翔子の少し嬉しそうな表情を見て良子が聞いた。


「正解!それも飛びっきりの情報付き!」

「何?情報って?」


「ダンジョン専用武器のことよ。オークションの開催が決まったみたい。それも一般人向けのがねっ!」

「わぁお!本当なのっ?」


四人が同じように驚き、直ぐに喜ぶ。


「ええ。まだ日時は決まってないみたいだけど、魔石の収集のためには必要だって判断みたいよ」

「今の彼女って職員だっけ?」


「そうよ、とっても可愛いのよ!」

「はい、はい。ノロケはいらないわよ。それより、しっかり教えてよ」


「って言っても、今はそれぐらいしか情報が無いみたいよ」

「・・・それだけでも情報があるのと無いのじゃ雲泥の差かもね」


オークションとなれば、それまでに用意できる資金で変わるだろうことは誰にでも分かる。

いつ開催されるかは分からないが、開催されることを知っている私達は他人より早く資金の準備を始められると言うことだ。

それだけでも有利になる可能性がある。


「これは今後の予定を見直す必要があるかもね」

「「「「賛成!」」」」


「良子、頼んで良いかしら?」

「翔子は、どうするの?」


「良い情報をくれた子猫ちゃんに御褒美をあげないとねっ!」


良い笑顔でそう言う翔子が部屋を出て行く後姿を見ながら四人ともが同じ感想を抱いていた。


『『『『良いリーダーなんだけど・・・女癖が悪いよね。あれさえなければ、ねぇ』』』』

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