第64話 新人チーム

「「「「お早う御座います!」」」」


元気な挨拶に振り返れば「あぁー、新人君達か!」と言葉が自然と漏れた。

先週末のチュートリアルを通過した四名がチームを組んだと聞いていたが、何とも元気の良いことだった。


「で、これからダンジョンに行くのか?」


随分軽装な彼等を見ながら職員として聞く。


「いいえ。予定表の申請について色々と聞こうかと思ってます」


リーダーらしき青年が答えるのを聞いて、なかなかやる気があるなと感心していた。


ダンジョンに入塔するための予定表の申請は彼等に課せられた義務であり〈入塔管理センター〉の一番の業務でもある。

何時、誰が、何処の階層に向けて、どんな日程で入塔するのか?

また、何時帰還予定なのか?

これを管理することで、色々なことができるのだ。


「良いことだ。予定表ってのは、単に予定を組めば良いって考えるやつが多いからな。しっかりと注意点を聞いておくと良い」

「ええ、昨日夕食の時に先輩に、そう聞きました」


ほう、先輩と交流して情報を聞きだしてるのか?

それとも、気の良いやつがいて、御節介をしたのか?

どっちでも良いが、彼等にとっては良いことだな。


「そうか、頑張れよ!」


声を掛けて職員として彼等を見送った。



俺達は、先週末にチュートリアルを通過したばかりの新人で同期だ。

何でかリーダーにされてしまった、俺が山下。

残り三人の内、男が横上で背の高い方の女性が滝さん、低い方が松戸さんだ。

四人とも同時期にチュートリアルを受け始め、二回目で合格した所為か仲間意識が芽生えて自然とチームを組むことになったんだ。


「で、山下。相談窓口に行くのか?」

「横上、そう言ってあったよな」


「いや、普通に受付で聞けば・・・」

「他の人の邪魔になるでしょ」

「逆に考えてみれば、迷惑に感じないかな?」


俺が言う前に滝さんと松戸さんが横上に突っ込みを入れた。


「ちょっと待ってくれよ。集中攻撃はヤメテくれ!」

「「されるようなことは言わないの!」」


うん。俺がリーダーをやるしかないな。

横上じゃあ心配だ。


「取り敢えず、一番の目的は予定申請の方法とかを聞くことなんだけど、その後は知らないことが多いし資料室で情報収集をしないか?」

「「「資料室?」」」


三人とも知らないみたいだな。


「資料室って言うのは、ダンジョンから帰還した人達に簡単な報告を出してもらって、それと一緒に職員が聞き取りした報告書を保管してある部屋のことだぞ」


そうダンジョンのことって、まだまだ知らないことだらけなんだって。

だから今一生懸命に情報を集めて保管し、俺達みたいな新人のために活かせる物にしようとしているらしい。


「山下君が言う通り、私達ってダンジョンのことチュートリアル以外何も知らないものね」

「そうかぁ?チュートリアルでも動物型のモンスターってこと以外聞かされなかったんだし問題な・・・」

「チュートリアルは死なないけど、ここから先は最悪死んじゃうんだよ!危機感を持たないとダメでしょ!」


そんな話をしながら向かったのが〈相談窓口〉で、センターに登録していなくても誰でも使える場所だった。


「すいません。相談と言うか予定表の申請について知りたいんですけど?」

「えっと、チュートリアルをクリアしたのかな?」


「ええ。で、四人でチームを組んだばかりで」

「なるほど。良いですよ。色々と注意することがありますから、少し長くなりますがお教えしましょう」


聞かされた注意点は、説明を聞けば納得できるが、初めてでそこまで考えられるか?と聞かれれば無理!と答えるくらいの内容だった。

単に「ダンジョンに入る予定を出せ」としか言われないが、それを管理するセンターの職員は予定表だけを見てはいなかったのだ。


そのため、事前に時間が掛かると言われた通り、優に三時間近く話を聞いたり、実際に予定表を書く練習までしたのだった。


「いやー、ここまで真剣に細かい所まで事前に確認してくれる人って少ないんですよ。私としてはチュートリアルを通過した人全員が受けて欲しいんですけど、上の方針でできないんですよね」

「何故です?」


「ダンジョンは自己責任だからですね。入ると決めるのも、それが命懸けなのも、そのための準備すら全部自己責任。だから予定表について調べたり、注意点を確認したり、却下されるのも自己責任ってことなんです」

「上手く行くのも、行かないのもってことですか」


「そうです。実際問題、ダンジョンの中で自分を守れるのは自分だけですし、危機感を持つのも持たないのも自分が決めることですからね」

「良く分かりました。長い時間ありがとうございました。ところで、もう一つ聞きたいことがあるんですが、資料室って使えますか?」


「使えますよ。余り使う人がいないんで、勿体無いんですけど・・・ね」

「ぜひ、使いたいんです!」


思わず喰い気味に返事をして利用方法を聞くが、通常の図書館などと変わらなかった。

「ついでです」と言われて資料室まで案内をしてもらったのだが、受付などからは見えない場所にあるため聞かなければ分からないだろう。


「ここにあるのは複製ですが、くれぐれも資料の取り扱いには注意してください」


そう注意をして職員の男性が去る。

残った俺達は資料室の中で、資料を調べることにしたのだが・・・


部屋の中は沢山の本棚と幾つかのテーブルにイス、部屋の片隅にコピー機があるが、コンビニにあるタイプのコイン投入型みたいだった。

凄く沢山の本棚が並んでるけど資料は少なく、本棚がガラガラだった。

そういうコメントをすれば「仕方ないよー、始まってから数ヶ月にしかならないんだよ」と松戸さんの指摘を受ける。


「そうだよなー。ここの本棚が全部埋まるのって何時になるんだろうな?」

「そんな事より、とりあえず八階層までの情報を集めようよ!最初の攻略は八階層までの予定なんだし」


滝さんが責付せっつかれた。

確かに時間は有限だしと、皆で手分けして資料を確認する。


「どう?何か資料あった?」

「コッチの資料が低階層のヤツみたいだぞ。簡易の地図やモンスターの資料なんかもある」

「私の方には無いみたいだよ。山下君の方を調べようよ」


そんな感じで、俺が調べていた本棚に全員集合。

割と整理されているようで、統一性の無い資料の内容から、聞き取り資料がそのまま保管されていることに気付いた。


「これって聞き取った人が違うから、内容に統一性が無いんだろうね」


そんなボヤキを入れつつ、必要そうな部分のメモを取る。


「うーん、やっぱり低階層のモンスターって聞いてた通りみたいだな」

「そんなに強そうじゃないよね。ゴブリン」

「でも、人型のモンスターって殺すのに勇気が要るって言うよ。気は抜けないでしょ」


そんな話をしている三人とは別に、俺は見ていた資料に集中していた。

それは京極さんが攻略した時の聞き取り資料だと思う。

聞き取り資料には名前とかは記載されないけど、日付がある。

その日付が、どう見ても第一回のチュートリアルの日付だったのだ。

当時は、一般人でダンジョンに入ったのは京極さんだけだったはずなので、間違いようが無いだろう。


「山下君?随分集中してるみたいだけど、そんなに為になる資料なの?」

「これ、たぶん日付から見ると京極さんの初帰還時の聞き取り資料みたいなんだ」


「凄いじゃない!」「俺にも見せろよ!」「私も見たい!」と全員が寄って来る。


そんな皆と資料を読み始めたのだが、他の聞き取り資料より詳しくて、とても為になるものだった。

結局、京極さんの資料が「一番良い!」という結果と、その御蔭で入手できた情報を手に資料室を出る。


「えーっと、時間は?昼食を摂るには少し遅いか?」


横上の言葉で頭の中が昼食のメニュー一色になった。

そりゃあそうだ、腹が減ってるんだから仕方無いんだ。


俺はみんなを急がせて、近くのファストフード店に向かうため、入塔管理センターを出るのだった。


丁度その時センターに入って来た、女性五人組とすれ違った。


『女性だけのチームって珍しいな』と一瞬だけ思ったが、それくらいでは空腹には勝てなかった。

さあ、しっかり食べてから予定を考えないとな!




「手に資料らしい紙の束を持ってたね。最近の新人にしちゃあ、前途有望な四人だな」と四人の新人を見送る五人の女性達がいた。

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