第62話 オトメなチーム
女性職員が一人の人物を呼び止めた。
「あのー、権田さん?」
「やぁ~ねぇ、私は
振り返ってにじり寄る様にして裏声で反論するガタイの良い筋骨隆々な男性。
この入塔管理センターでも有名な収集者チーム〈フラワーガーデン〉のリーダー花園(権田) 可憐(剛蔵)なのだが、このチームは所属するメンバー全員がオネエという特殊なチームだったりする。
職員の彼女は、その妙な圧力に押されながらも更に反論した。
「そう言われますけど、本名は権田さんですよね?」
「確かに、本名はそうよ。でも、魂の名前は花園 可憐なのよっ!だからー、可憐って呼んで欲しいわ!」
筋骨隆々な身体をくねらせながら訴え掛けた。
そんな状況を見ていた別の職員が彼女に小声でアドバイスをする。
「権田さん、絶対に折れないから諦めた方が良いぞ」
それを聞いた彼女は、渋々呼び直すことにした。
「じゃあ、これからは可憐さんと呼びますね」
その顔は若干顔を引き攣っているように見えたが、誰もそのことに触れはしなかった。
「それで本日の御用は何ですか?」と気を取り直した彼女が問う。
「魔石の収集スケジュールの調整よ」と言われ『なるほど』と納得する。
見た目や行動は"超"がつくほど特殊だが、彼女?らの収集者としての実力は確かなのだ。
現在活動している日本国籍の魔石収集者は、凡そ二百名。
その二百名がそれぞれ三名から六名のチームを組んでいると言う。
チーム数にして約四十チームで〈フラワーガーデン〉は納品量第二位の実績を持っている。
一位は自衛隊を除隊して収集者に転向した六人組のチームである。
「それでスケジュール表はありますか?」
「これよ」
そう言って差し出したのはタブレットだった。
つい二ヶ月ほど前から導入された方法なのだが、
「・・・う~ん、特に問題は無いですね。このままで受理しますか?」
「そうね、お願い」
「では、IDの入力をお願いします」
「はいはい。っと、これで良いかしら?」
「・・・はい、受領しました。もし予定日までに変更があった場合は、十二時間前までに変更申請をお願いします」
「いつも通りね、分かったわ」
可憐がやっているのは、ダンジョンに入るための事前申請である。
何時?誰が?どの階層を目指して、どの位の期間ダンジョンに入るのか?
そう言う予定を申請しておくのだ。
職員がその内容を確認して、申請者に可能な内容であるか?を判断する訳である。
これは実力の伴わない人間が無謀なことをしないようにする抑止的な方法だ。
当然、可憐達は実力を認められたチームなので、よほど馬鹿げた予定を提出しない限り却下されることなど無い。
まあ、受理されて当たり前と言うことである。
「他に何か質問はありますか?」
「いいえ、特に無いわ。服部ちゃんが私達を無碍にしたりしないって信用してるし」
可憐の言葉に、彼女の頭の中では『服部ちゃん?ってセンター長のことよね?』と?が並ぶが、それを顔の出すのは憚られる。
何とか取り繕って「そうですか」と答えることで何とかその場を凌いでいた。
「じゃあ、手続きありがとうねぇ~」
そう言って後ろ手にヒラヒラと手を振りながらセンターを出て行く可憐を見送りつつ、彼女は『センター長とどういう関係なんだろう?』と突っ込んではいけない部分に疑問を感じていた。
「あーら可憐、どうかしたのー?」
車に戻って来た彼女(彼)に車内から声を掛けてきた人物は厚化粧でも髭の剃り跡を隠しきれていない、別のオネエだった。
「桜ちゃん!聞いてよ!可憐っていう魂の名前があるのに皆が本名で呼ぶのよ」
そう身体をくねらせながら答える可憐。
どうやらもう一人のオネエは桜と言うようだ。
「まぁ~、酷いわねー!なんだかんだ言って、未だに私達みたいな
どうやら彼女?達の間では、彼女?達の様な存在を
ちなみに、桜と呼ばれた方は花園(鬼瓦) 桜(闘吾)と言う魂のなまえがあるようだ。
ここで『あれっ?』っと思うことがあるだろう。
そう、花園と言う魂の名前の苗字が同じだということである。
彼等(彼女等?)はチーム全員が魂の姉妹?だと宣言しており、そのためチームの全員が同じ苗字を名乗っているのだ。
ちなみに可憐が長女、桜が次女、桃子が三女、
ここにはいない、桃子、藤香、キララも同じく色々と濃い感じの漢女(オトメ)達である。
可憐と桜は同い年だが、誕生日の関係で学年が一つ違いだった事で長女と次女になっているらしい。
「ところで可憐~?予定の受理はぁ~?」
「いつも通りよ。問題ナッシング~!」
彼女?達の会話を聞いた通り掛かりの男性が、チラッと彼女?達を見て顔を青褪めさせながら走り去ったが、そんなハプニングなど気にもしないで、大型のバンに乗った二人は拠点にしている一軒家に向かって車を走らせる。
本来なら、もっと可愛い感じの車が良いらしいが、メンバー全員が身長百八十cmを越えていて、体格も筋骨隆々である彼女?らには、この位のサイズの車でなければ乗ることが難しいために諦めるしかなかった。
凡そ三十分ほどで、住宅地の外れにある大きな一軒家に到着する。
収集者として活動するために借りた借家ではあるが、既に数ヶ月を過ごしているので自宅のように感じている住み心地の良い家である。
新築して二年ほどで持ち主が海外に転勤になり、偶々大学の同期だった藤香が話を聞いて、知らない人間に貸すよりは漢女(オトメ)でも知り合いである藤香に貸したいと彼女?らの拠点になったのだ。
本当であればダンジョンの前に拠点が欲しかったところではあるが、解放直後に全員で暮らせるような物件は無かったのだ。
「ただいまー」と言う桜の声に、廊下の奥から三人の「おかえり~」と言う声が返ってきた。
ダイニングに入った二人はテーブルの上の料理を見て『ああー、今日はキララの料理当番の日ね』と思い出す。
オトメである彼女?らは下手な女性よりも家事スキルが高いのだが、中でもキララは料理が得意なのだ。
並べられた料理は、何処のレストランか?と思うような、とても美味しそうな見た目をしている。
「今日はイタリアンにしてみたの~」とキッチンに立つキララがフライパンを洗いながら声を掛ける。
『顔だけ見る分には、女顔なのよねー。身体を見なければ・・・』四人全員が同じことを思いながらキララを見た。
「サラダは~・・・で、メインはミラノ風コトレッタ(カツレツ)ですよ~」と四人が別のことを考えている間に夕食の説明が終わっていた。
「・・・って言うことでー、予定は受理されたわ」
「可憐ちゃん?桃子は質問があるんだけどぉ?今回の予定ってあんまりメリットが無いじゃないぃ、だのにそんなに急いで良かったのぉ?」
自分の事を名前で呼び、語尾が鼻に抜ける様な喋り方をするのは三女?の桃子である。
名前通りにピンク系の物が大好きで、部屋の内装から服装、果ては髪に至るまで全てピンクである。
その質問に『確かに詳しい説明はしていなかったかな?』と「食事をしながら話すわ」と答えた。
「まずね、今回の予定は、とーっても重要なのよ」と説明を始めた。
その内容は・・・
服部センター長から内密に依頼をされたものであること。
最初から引き渡し先が決まっているため、必ず予定通りに遂行できるチームにしか依頼できないこと。
内密の依頼であるため、通常の収集予定として進めなければならないこと。
表向きの報酬は無くて、通常の買取だけであること。
裏を返すと、表向きじゃない報酬があること。
それが一番重要で、ダンジョン用の新しい武器の優先購入件が五人分貰えること。
「ウソッ!ダンジョン用の武器って、あの競争率が百倍とか二百倍とかのでしょ」
「そうよ。頑張って交渉したんだからね、全員分!」
「「「「「流石は花園家の長女!」」」」」
五人の妹?達の賞賛を浴びて誇らしげな長女が一言。
「この依頼は絶対に成功させるわよっ!みんなよろしくねー」
それだけじゃ足りずに盛り盛りの付けマで『バチコンッ!』って音のしそうなウインクをした。
***登場人物***
権田 剛蔵 --- 攻略者チーム"フラワーガーデン"のリーダー。魂の名前は花園 可憐、32歳。身長二m近い筋骨隆々な身体に厚化粧、ハスキーな声でオネエ言葉を喋る。花園家?の長女?である。
鬼瓦 闘吾 --- 攻略者チーム"フラワーガーデン"のメンバー。魂の名前は花園 桜、32歳。花園家?の次女?である。
仲元 三郎 --- 攻略者チーム"フラワーガーデン"のメンバー。魂の名前は花園 桃子、29歳。花園家?の三女?である。
田中 大祐 --- 攻略者チーム"フラワーガーデン"のメンバー。魂の名前は花園 藤香、28歳。花園家?の四女?である。
池内 吉良 --- 攻略者チーム"フラワーガーデン"のメンバー。魂の名前は花園 キララ、24歳。花園家?の末妹?である。
フラワーガーデン --- ファンタジーなダンジョンなら性別を変えられる魔法あるかも?と、本物の女性になることを夢見る漢女(オトメ)達が結成したチーム。現在は上の階層に挑むための資金集めのために魔石収集をメインの仕事にしている。
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