4章 ダンジョンに挑む者達

第61話 京極尊と言う男

・・・攻略者・・・


それが俺の今やっていることの呼び名らしい。

俺には呼び名なんてどうでも良いことだからな。


数ヶ月前の認定試験に合格してから、週五日ほどをダンジョンで過ごしている。

目的があってやっていることだが、どうやら他人から見ると俺は「おかしい」と思われているようだ。


何がおかしいのか?

国がエネルギー資源として魔石を必要とし、それを民間委託しているだけだろう?

俺としては、何もおかしなことなど無いと思っている。

まあ確かに「モンスターを殺す」と言う行為が必要であると考えると忌避感があるのは分かるけど・・・


俺は幼少の時から、ある道場の様な場所に通っていた。

「様な場所」とは、別に看板などが出ている訳では無かったからだ。

子供の頃は身体が弱く、よく熱を出していた。

病気に勝てる体力を付けさせようと、親に連れられて行ったのが武術の師匠の所だった。


最初の内は、本当に体力作りがメインで、武術らしい修行などしなかった。

だが、爺はそんな俺に何か才能のような物を感じたようで、ある時試しにやらされた訓練の結果、直ぐに体力作りだけより武術として学ばないかと言われたのだ。

試しにやってみれば良いと親にも言われ、武術も始めたが、子供の頃はまだ良かった。

徐々に体力が付き、病気などもしなくなったことで、親も安心していたのを覚えている。


あの爺(じじい)は、見た目は好々爺としているが中身は別物で、鬼か悪魔だろうと今でも思っている。


当初の訓練が段々と激しくなり、大きく狂い始めたのは中学に入った頃からだろうか、武術の訓練が徐々に厳しい物に変わり始め生傷が増えだした。

俺は段々と爺に感化されていたのだろう、強くなることに楽しさを感じ始めていた。

そうして武術の訓練から、いつの間にか修行に変わっていたのだが、ある時、それに終わりが訪れる。

遂に、俺が爺に勝利してしまったのだ。


爺は、自分に勝った俺を嬉しそうに見ていたが、俺にとっては目標が無くなった喪失感が強かった。

爺は、それ以降俺に修行をつける事は無くなり、俺は一人で自己鍛錬を続ける事になった。

その爺も高校三年の時に病気で亡くなり、俺は他流派に出稽古に出掛けるようになる。


爺は亡くなる少し前に、こう言っていた。


「タケル、お前は生まれる時代を間違えたのかもしれん。が全盛の時ならばもっと名を馳せたのだろう。残念だ」


その言葉の意味は他流派に言って理解できた、他流派は温かったのだ。

爺は言っていた「本来の武とは、突き詰めれば他人を殺すための技のことだ」と。

現代では、武術は武道となり、寸止め、防具あり、急所攻めの禁止、と完全にスポーツと化していた。


俺には足りなかったのだ、実戦が・・・


俺の中には、そんな戦いを望むもう一人の自分が存在していたのだ。


現代の日本には、本当の戦いなど無い。

お互いの命を掛けるなど有り得ないからだ。

それでは何処に行けば本当の戦いが経験できるのか?

戦場?紛争地帯?

それは本当の戦いでは無い。

ただの殺し合いである。

銃や爆弾やミサイル、戦車や戦闘機、ただの大量殺人の現場ってだけだ。


それは、俺の求める本当の戦いでは無いんだ。


何の努力をしなくても引き金を引くだけで銃弾を発射できるとか、ボタンを押すだけとかの現代兵器など要らない。

自分の修めたを最大限に使える、そんな戦いがしたいのだ。


そんな自分の心を感じた時、爺の言葉を思い出した。

「生まれる時代を間違えたのかもしれん」

確かにそうかもしれないと納得できた。


そんなもう一人の自分を隠しながら、普通の生活を続けること数年。

突如、とんでもない情報が世間を騒がせた。

異世界人、賢者、ダンジョン、などと言うファンタジーワード全開の情報だった。


普通なら、何処の誰が出したフェイクニュースだと笑うところだ。

が、それは政府が出した情報であり、総理大臣が発表したとなると話が変わってくる。

信憑性が段違いだ。


最初は興味本位で調べ始めた。

余り興味の無かったファンタジーなどというジャンルだったが、調べれば俄然面白いと感じた。


何が面白い?って、大抵が武術、剣術、槍術などと魔法と言うファンタジー要素の融合だったからだ。

正直、俺にとっては魔法はどうでも良かった。

それよりも近代兵器の無い世界観とその中での実戦ってところが興味を引いたのだ。


そうしている内に、ある情報に行き当たった。


動画サイトでダンジョンの中の戦闘が見れる。


俺は大学の講義もそっちのけでその動画を調べた。

まあ調べるまでも無く、直ぐに見付かって動画を再生して衝撃を受けたのだ。


公式に発表されたのは「戦闘ゴーレムによるモンスターとの戦闘」だが、俺の見立てでは「あれは間違い無く人間」だった。

魔法と言うファンタジー要素が全開なので確証は無い。

そういうゴーレムが作れる可能性が無いとは良い切れない。


だが、何処をどう見ても人の動きだとしか思えなかった。


もし、俺が思うように、あれが人だとすると・・・

あれは俺の知らない武の領域に足を踏み入れた者の動きだった。


俺にはできない。

無理だ。

今のままでは届かない。

それほどのの高み。


直接見てみたい!

直接感じてみたい!

できうるならば・・・俺もあの領域に足を踏み入れたい!


どうすれば良い?

ダンジョンに行くか?

何処で会える?

どうすれば良いのか分からない。


「可能性があるとすれば、やはりダンジョンしかない!」


その答えに辿り着いてからは早かった。

認定試験の情報を入手して、それに応募。

上手く抽選に当たりダンジョンへ。

合格もできて、翌日にはダンジョンに入ってみた。


チュートリアルとは違い、ここからは実戦。

出て来たのは、ファンタジー定番のゴブリンらしき緑色の肌をした小鬼の様なモンスター。


人型の生物との命を掛けた実戦・・・

今までに感じたことも無い感覚が体の奥から湧き上がる。


持っているのは、短い剣。

短剣か?


何の躊躇も無く叫びながら飛び込んでくる。

技もフェイントも何も無い。


その姿に何と無く拍子抜けするが、そのままにはできない。

モンスターは俺の命を狙っているのだ。

俺は修行にしか使っていたかった刀を正面に構える。

そしてモンスターが俺の間合いに入った瞬間、刀を振り下ろした。


肉を斬る感覚が手に、腕に伝わってくる。


これが、本当の実戦。

これが、本当の命のやり取り。

これが、本当の意味での戦い。

これが、殺すと言うことなのか!


それを感じた瞬間、俺の中で何かが変わる気がした。

そして体の力が抜ける。


緊張していたのか、俺は?

それが実戦の影響なのか?


知らないことが、感覚が俺に押し寄せてくる。


そして感じた、これは変わる。

俺の中の色々なものが、絶対に変わる。

さっき感じた変化なんて微々たる物だろう。


この実戦を続ければ、もしかすればあの動画の人物に近づけるかもしれない。

いつかあの人物に会えるかもしれない。


そして、いつかあの人に教えを乞えるかもしれない。


そんな希望を感じた。


「俺の目標は、いつか「あの人」に会い、教えを乞うことだ!」



そんな風に感じてから数ヶ月。


まだまだ、「あの人」には会えていない。


まあ、会えたとしても今の俺の実力では、まだまだ動画の域に届いていないから無駄だろうが。


だけど、希望はある。

あれからも、まだ動画が投稿されているから「あの人」は、ここにいるんだ。


「絶対に弟子入りしてやるっ!」

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