第57話

ダンジョン解放時に行われた認定試験は順調に消化された。

が、問題が無かった訳では無い。


事前に危惧していた通り、生き物を殺すことができない人間が思った以上に多かったのだ。

特に先進国の人間はその傾向が強く、逆に発展途上国の人間は平気だった。


これは日常生活の中で動物を絞めたりする機会があるかどうかが影響しているようであった。

極端な話し、先進国の人間は肉や魚を買ってくる以外の方法で入手する機会など余り無いからだろう。



*** *** *** *** *** ***



「やっぱり日本人は脱落者が多いな」

「ふむ。聞かされてはおったが、これほどとは思わんかったのじゃが」


「そうか?俺はゼロじゃ無いことに驚いてるけどな」

「しかし十五分の一程度しか通過しとらんのじゃぞ」


「俺の予想だと百人に一人くらいだと思ってたんだよな」

「それはまた極端過ぎじゃろう?」


「そうでも無いと思うんだよな。俺だって異世界に行くまでは動物やモンスターなんて殺したこと無かったからな」

「・・・そんな話を聞いた覚えが・・・あったかのう?」


ちぇっ!弟子の事なのに憶えてないのかよっ!


「何かの命を奪うことを嫌うような教育をしてるから、当然と言えば当然のことだと思うぞ」

「なるほどじゃな。儂が知るのは、らねばられるじゃからな」


「その辺は国の治安が良いか?どうか?に掛かってると思うし、日本は島国だから争いが少ないってのも影響するだろうな」

「儂が知る東の島国〈東島王国〉も確かに穏やかな気質の者が多かったのじゃ」


それって、異世界の国の話だな。

俺や師匠がいたのって南西の方だったから、俺は東の方のことは直接は知らないんだよな。

何せ大陸の中央から北に掛けて、面倒この上ない〈帝国〉があったせいで、反対側の東には行き難かったんだ。

まあ、今はそんなことどうでも良いか!


「しかし、案の定というか銃器は大変だな」

「消耗品が多く重いというのは、それだけでダンジョンには厳しいじゃろうな」


「だよな。その上に食糧や水なんて用意してたら物資の量が半端無いしな」

「それ以外にも薬や・・・ポーションは存在せんかった、じゃないかのう?」


「ああぁあ~!忘~れ~て~た~!」


そうだよ!ポーションだよ!

何で忘れてたかなぁ、俺!


・・・そうだった!塔の外に持ち出せないようにしたくて、色々考えてる内に・・・行き詰ったんだったな。


あれは、ダンジョンを解放するなら!って思った時に武器とかと一緒に思い付いたんだ。

だけど、同時にポーションを外に出すと色々と不味いと思ったんだ。


ただでさえエネルギー関連で世界中に喧嘩を売ってるところに、薬関係でまで問題なんか起こせない。

となれはポーションは使えない。


だがダンジョン内ではポーションが使用できないと困る。

つまり使わないといけないけど使えないって矛盾を抱えることになったのだ。


で考えたのはダンジョンの外に持ち出せないって案だったのだが・・・実現するには問題が多くて途中で挫折したのだ。

そのまま保留してる内にダンジョンが解放されちゃって、今まで忘れたままだったって訳だ。


「師匠、ポーション必要だよな?」

「必要じゃな、間違い無く」


「でも、塔の外に持ち出させたくないんだ」

「方法を考えるしか無いじゃろう」


「でも問題だらけで・・・」

「じゃろうな。じゃが、考えんことには、解決方法は思い付けんと思うんじゃが?」


確かに現実逃避してても、良い方法なんて思い付けるはずがない。


「分かったよ。もう一度考え直してみる」


そう言って俺は再度ポーションをダンジョンで使用できるようにするための方法を検討することにしたのだった。



*** *** *** *** *** ***



ぶるっ!


突然背中に寒気が走った。

おいおい、まさか風邪を引いたとか無いよな?

この多忙な時に、そんなことで休んでる暇は無いぞ。


「御戸部さん、どうかしましたか?」

「いや、ちょっと悪寒がな・・・」


「えっ!風邪ですか?」

「いや、たぶん違う。どっちかって言うと嫌な予感だと思う」


そういえば、この手の悪寒を感じた記憶があるんだよ。

確かあれは・・・このダンジョン絡みだったはず。


「嫌な予感って、また何か突拍子もない問題が浮上したりですか?」

「変なフラグを立てるんじゃない!次何かあったら、お前に担当させるぞっ!」


「や、やめて下さいよ!俺には無理ですって」

「知るかっ!俺の苦労を知るには良い機会だぞ。良い感じに担当を任せてやるからな!」


「ぎゃー、イジメだー」

「バカヤロウ!これは部下を思う上司からの愛の鞭だ!」


そんな馬鹿な会話をしているが、俺の勘が嫌ぁな気配を感じ取っていた。

・・・絶対に涼しげな顔をして涼木さんが爆弾を抱えてくる・・・そんな予感がする。


そろそろ本気でヤバいかも?

病院で見てもらった方が良いかな?胃の具合・・・

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