第54話

「・・・最終確認は?」

「終わっています。そろそろ離陸した頃かと」


「そうか。日本では?」

「沖縄で自衛隊に引渡し、あっちで目的地まで輸送することになっています」


「全部か?」

「ええ全部です。人も物も・・・」


「予定日は・・・五日後だったな?」

「ええ。そう聞いていますが、あの映像は本物なんですか?」


「君も見たのかね?」

「はい。ハリウッドの最新作と言われれば納得しそうでした」


「・・・全職員向けのやつだろう?兵士用はもっと凄かったぞ」

「アレよりですか?それは見てみたいような、見たくないような・・・」


「止めた方が懸命だ。暗い所に行けなくなるぞ」

「・・・それは、全力で遠慮したいですね」



その日、USAのある空軍基地から大型輸送機が三機、太平洋方面へ飛んだのだった。



*** *** *** *** *** ***



「おい、ダメだ!もう一回やれっ!荒くれ者が集るんだぞ、そんな調子じゃあ揉めるぞっ!もう日数が無いんだ、しっかりやれっ!」

「はいっ!」


十五人ほどの職員が返事をしていた。


現在行われているのは、武器類の預かりと引渡しの訓練だった。

これは一番重要な部分であり、失敗は許されない。

職員の安全もだが、周囲にいる誰にも怪我をさせないために必要な重要業務だった。


時間があれば、もっと効率的な方法があるのだが、その準備には時間が掛かる。

そのため安全と時間を天秤に掛けた現在の保管方法を採用している。

最低二年は今の方法に頼る必要があるのだから、そりゃあシビアにもなるってものだろう。

二年後になれば、この場所は周囲を壁で囲った武装可能な特区になる予定なのだ。

そうなけば、この業務も長期でここを離れる時に簡単には持ち出せない武具類を預かる以外必要無くなる予定である。


「なあ、この武具保管所は上手く機能すると思うか?」

「正直、難しいだろうな。それでも現状できる方法では、これが最善だろう」


現場を確認監督している自衛隊からの派遣指導官が答えていた。


それを彼等の背後で観察していた御戸部は、ある話を思い出していた。

あれは二ヶ月ほど前、日本政府が諸外国の圧力を無視できなくなってダンジョンの解放を決定すると言う方針を涼木さんに告げた時のことだった。


「御戸部さん、それって銃刀法関連の問題があるでしょう?」

「ええ。重要かつ重大な問題で困ってます」


「やっぱり特区化するまでは待てないってことですよね。それで急に保管庫の設備を前倒しにしたんですね」

「気付いていましたか・・・そうです。でも、はっきり言って保管所のスペースが充分では無いんですよね。何十万と言う人が集まる可能性があるので・・・」


御戸部が言ったことは、保管所の最大の問題だった。

物を保管するには場所が必要だ。

それは馬鹿でも分かる単純なことだ。

それが何十万人分となれば、保管する場所もだが、それを管理する人員、それを預かったり引き渡したりする人員が必要で、それは数十人や数百人では不可能だ。

となれば、本格的に稼動し始めれば問題が表面化するのは時間の問題だ。


「提案がありますよ。まあ、私からでは無くて賢者からですが・・・聞きますか?」

「・・・非常に遠慮したい気分なのですが・・・一応、聞きます」


「ある道具、魔道具って言う物ですが・・・」

「それは、アノ電力システムのような?」


「根本原理は同じらしいです。御戸部さんもマンガやアニメの確認されているでしょう?その中に大量の物を保管できる袋とか箱とか空間とかがあるのを知りませんか?」

「・・・あぁあ~!あれですか?・・・って!あるんですかっ!」


「私も聞いただけですが・・・同じ物では無く、あくまで似た物ですが・・・あるみたいです」

「・・・それ、私以外に誰にも言ってませんよね?」


「勿論」

「良かったっ!それは極秘にして下さい。絶対ですよっ!今諸外国が知ったら大暴動が発生しますからね」


あの涼木さんとの会話を伝えた瞬間、上司はブッ倒れた。

あのゲームやマンガに出てきそうな〈アイテムボックス〉ッぽい情報は、劇薬だと上司も気付いたのだろう。


その後、気付いた上司達と様々なことを検討したが、最終的には「時期尚早」と言う結果になった。

今、これ以上の問題を抱える訳にはいかなかったからだ。

それでなくても問題が起きると分かっているのに、あんな爆弾抱えていられない。


あれば・・・便利だとは思うが、リスクが高過ぎだ!


ちなみに性能だけは確認したんだが・・・ファンタジーを感じたな。

40kgスーツケースが400t約一万倍になるって言うんだから・・・


本当に涼木さんと係わり出してから、頭が痛い問題が多いよ。

勘弁して欲しいな・・・



*** *** *** *** *** ***



「携帯型超小型核爆弾の試作は順調か?」


そう聞く男性がいた。


「主席、非常に厳しいと言わざる終えません」


白衣の男性が、そう答える。


「相手は人間では無い!モンスターだ!非人道的兵器の使用を躊躇う必要が無い。何としてでも形にするのだ!」


白衣の男性は、そう言う男性に逆らうという選択肢は無かった。


「分かりました。全力であたります」


そう答えて部屋を出て行く。

残った男性は一人で大画面のモニターを見ながら考え込んでいた。


現在、国内の状況は最悪と言って良い。

このままでは、自分の首どころか、国自体の存続も危うくなりそうだった。

それを回避できる可能性があるとすれば、ダンジョンの所有権を手に入れる以外に方法が無かったのだ。


「・・・何とかしなければ・・・経済破綻は目に見えている。我が国の力を世界に示すには、時間的な余裕が無い以上もうこれしか残っていないのだ・・・」


その独り言は、彼以外に聞く者のいない部屋に消えて行った。

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