第53話

明けましておめでとうございます!

今年も主人公と仲間達の生活は続きます。

作者である私共々、主人公達をよろしくお願いいたします。


*** *** *** *** *** *** 


三つの建物があるのだが、今は複数の大型トラックから数十人の人員にて搬入作業がされている。

搬入されているのは、事務用品や机、椅子やカウンターなどの備品たちだ。

二日前に内外装が終わったばかりの部屋が複数あり、急ピッチで作業をしている。


その作業を少し離れた場所で見ている二人の男性がいる。

ダンジョン入塔管理センター理事長の麻生田と、ダンジョン入塔管理センター長の服部だった。

麻生田はネットなどで一時期「閣下」と呼ばれたこともある人物で、オタク文化にも明るい。

服部は元内閣官房副長官の一人で、麻生田の大学時代の同期でもあった。

今回の緊急の組閣で、麻生田が自分の所に引き抜いてきた人物であり、隠れオタでもある。


服部は「異世界対策担当大臣殿」と麻生田のもう一つの役職名で呼ぶ。


「長いだろう?いつも通りで良いぞ。で?」

「本当に一ヵ月後に第一回認定試験をやるのか?」と聞く服部は心配そうな表情をしていた。


面倒そうな表情で麻生田は答える。


「やって貰わねばならんな」

「何故そこまで急ぐ?」


「諸外国が五月蝿せーんだ。面倒な事極まりねー」と言外に「馬鹿共」が付きそうな感じで答えた。

「・・・苦労してるな。で、外交絡みか?」


「どっちかと言えば圧力だな。輸出入に制限をチラつかせてるな」

「かぁー!マジで面倒な!ってか、それじゃあ一回目の試験は外国向けか?」


「いや、七日に分ける。初日を国内向け、後を外国向けで四日間、残り二日を再度国内向けだな。ただ、認定試験にも口出ししててな、送り出すのは精鋭ばかりだから試験などいらんとか、この国の試験など当てにならんとかな」と麻生田は完全に呆れが入った物言いだ。


「で、普通に試験をやって、合格者は出るのか?」と試験内容を思い出しながら服部が問う。

「正直言って分からん。ファンタジー映画バリの映像を見せられ、話を聞き、それを俺の所の特殊技能者達に検討させた結果なんだが、通常の人間が可能なレベルの試験じゃないという意見で一致してるな」


「特殊技能者って、オタなだけだろう?が、それほど合格は厳しいのか?」

「生物を殺すってのは厳しいって話だな。実際問題、警察や自衛隊なんかでも聞くことがあるが、人を殺すとトラウマになり易い。身体的にアレだけ人に近いと確実に影響を受けるだろうな」



ここで重要なのが「第一回認定試験」という言葉だろう。

賢者の塔を解放するにあたり、通常はチュートリアルである十階層をクリアすれば誰でも魔石収集ができる許可証が発行されるのだが、解放直後は今後の業務方針を固めるための試験期間としてランダムに選出した希望者を認定試験と言う形で管理することにしたのだ。

最初から全員を無差別に参加させると思わぬ事故が発生する可能性があるから、当然と言えば当然の処置だろう。


それが一ヵ月後に始まる「第一回~第七回認定試験」なのだ。


本来の予定であれば半年ほど先で予定されていたのだが、諸外国からの非常に強い圧力に負けた形になってしまった。

流石に様々な資源を輸入に頼っている日本では「輸出量を考えさせてくれ」と言われると弱いのだ。


結果としては負けた形ではあるが、ここまで引き伸ばせただけでも「良くやった」と言えるかもしれない。



「それじゃあ、日本人にも厳しいんじゃないのか?」

「厳しいなんてもんじゃ無いらしい。既に試験的に魔石収集をしてる自衛官にトラウマを訴えている者が出てるからな」


「十階まで制御できてるんだから、それ以上の階層でも制御は・・・できないか。最上階が特典になってたな」

「その通りだ。それに更に制御しようにも追加で五階層ほどが限界らしいぞ。それ以上は元々のダンジョンの機能的に無理らしいからな」


「モンスターの強さとか、種類は変更できないのか?」

「それをするのは可能らしいが、全体的なエネルギーの総量は変更できないらしい。下の階層でモンスターを弱くすると、上の階層では今以上に強力になるそうだ。あと種類は変更するために、時間が掛かるらしい」


「どのくらいだ?」

「三ヶ月ほどって話。その後魔石が採れるようになるまでに一ヶ月、計四ヶ月だな」


「流石に四ヶ月の延長は不可能だろうな」

「ああ、だから試験だ」


「・・・アレもやるのか?」

「テストはするらしいぞ。先発は、USAだが」



そうである。

認定試験には、もう一つの狙いがあるのだ。

それは、人型のモンスターを殺せるか?と言うことである。


現代人は基本的に「人を殺す」と言うことを〈禁忌〉としている。

それが長い間脳内に刷り込まれてきたのだ。


人を殺すことは悪い、別にそれは正しいことである。

ただ現代人は、人と人型モンスターが区分できないのだ。


何故か?と言えば、人型の生物は人しかいないからだろう。

人しかいないから、人型をしていれば全て〈人〉に感じてしまうのだ。


人では無いのに〈人〉と深層意識で感じてしまい、それがトラウマを植え付ける。

無意識下での心因性であり、取り除くことの難しい問題である。


そんな問題を克服し、乗り越えられる者を探すのが目的なのだった。



「USAか、銃社会だから日本人よりは適性が高そうだな」

「殺人事件の発生数が段違いだからな。だが、テストが上手くいくと更生はできんだろうが・・・」


「・・・隔靴掻痒かっかそうようか・・・」



・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ 


・隔靴掻痒とは?


 かゆい所に手が届かないように、はがゆくもどかしいこと。思うようにいかず、じれったいこと。

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