3章 ダンジョン公開
第52話
数ヶ月前まではただの山間の谷間に畑や田んぼだった場所に一般家屋とはほど遠い四角いコンクリート建築が建てられ、道路も舗装されたばかりで真新しい。
前の状態を知る人が見れば全く違う場所に迷い込んだと勘違いするかもしれない。
その道路の先には、こんな所に似つかわしくない大きな建物がある。
大きな看板には「賢者の塔ダンジョン入塔管理センタービル」と書かれていた。
そう、ここは賢者の塔に入れる唯一の場所であった元弱電工場へ続く一本道である。
世界中から人が集まるであろうことを見越して開発を進めてきたが、元々平地部分の少ない場所柄だったため簡易の宿泊施設を建てるだけで精一杯。
とても訪れるであろう全ての人をカバーできる収容人数を確保することはできない。
では、どうするのか?
現在急ピッチで周辺の山々が造成されていて、そこが全て宿泊や飲食関係で埋まる予定になっているらしい。
ちなみに開発が行われているのはここだけでは無い。
ここへ通じる駅や空港からのアクセスのための道路が拡張されたり、大手不動産会社が少し離れた場所の空き家や空き地を買い漁ってウィークリーアパートを建てたりと街全体が開発の荒波に晒されている。
流入してくる人も増えており、昨年の移住者の合計人数は百名ほどだったのが、現在移住手続きが追い付かず約一万人の処理待ちが出ている状況だ。
街だけでなく、国の方も忙しい。
他国から日本への移住希望者が一億人を超えているようで、現在全ての移住関係の業務は停止状態になっている。
ただでさえ〈新エネルギーシステム〉関係の業務だけで手一杯なのに、そんなことまでやっていられないってことらしい。
業務上に多忙であるのは何処の省庁も同じだが、肉体的な過酷さは自衛隊が一番だろう。
何せ、何処よりも早く世界中から熱望されている〈新エネルギーシステム〉の中核、魔石を試験収集させられているからだ。
つまり、毎日モンスターと戦っていると言うことである。
それも、今後のことを考えて銃火器を使わない方法での戦闘なのである。
近距離でモンスターと戦うことの恐怖や攻撃を受けた時の負傷など、考えるだけでも過酷だと思う。
だが、モンスターに有効な武具、少しづつ魔素に慣らすことで変わるであろう身体能力、そして塔の中限定だが〈魔法〉が使えるかもしれないと言う可能性、日本にしかない情報を知っているだけで希望があった。
肉体的には最高に過酷ではあるが、精神的には、まるで少年に戻ったようにワクワクしている自分を感じられたのだ。
賢者の塔ダンジョン入塔管理センタービルの中の大会議場。
「・・・それでは〈賢者の塔ダンジョン入塔管理センター〉の事前研修を始める。まず・・・」
今まさに新しい職場での研修が始まろうとしているところだった。
入塔管理センターとは、その言葉が示す通り「ダンジョンである賢者の塔に入る人を管理する」ための組織である。
何故か?
それはダンジョンが危険な場所だからである。
怪我は勿論、死亡する可能性も充分に存在する場所、それがダンジョンなのだ。
だから人の出入りを詳しく正確に管理する必要がある訳だ。
もう一つ理由があって、それはダンジョンには誰でも入ることができるが、魔石収集は誰もが可能な訳では無いからだ。
現在、賢者の塔ダンジョンは全部で250階層あり、その一番下の部分10階層分が
このチュートリアルを通過できた者が、それ以降の実際の戦闘を伴う魔石収集の許可が出るのだ。
その魔石収集許可者の管理、及び魔石収集に付随する利用料や税金の徴収なども行うことになる。
まあ、簡潔に言えばダンジョンに出入りする人、物、金を管理する場所である。
あっ!もう一つあった!
武器の保管所も兼ねているのだ。
勿論知っているだろうが、日本には〈銃刀法〉ってのがある。
武器などの保有を規制する法律である。
それによって、このダンジョンに来るまでの移動中に武器類を運ぶことができないと言う問題が起きる。
特に銃器の所持が認められている外国籍の人にとっては重大問題である。
その問題解決のために武器、銃器などを専用で運搬することになっており、その受け取りや保管などを行うのもこの場所なのだ。
実際に保管されているのは隣にある警察と自衛隊が常駐している建物内だが、それ以外の業務を行うことになっている。
そんな場所だからこそ職員の人選と研修には時間を掛けている。
この事前研修に参加してる二百名を超える職員は、実はまだ職員では無く職員候補なのだ。
現在職員候補は七百名ほどいて、その中から二百名弱を選出する予定で進められている。
この場所に来た二百名強の候補達は、候補の中でも優秀であろうと判断された者達であって決定では無いのだ。
他にも二ヶ所で同様の事前研修と言う名の職員選定試験が行われており、約一ヶ月後の事前研修終了時に真実が告げられて候補達から最終選定を行うことになっているのだ。
最終的に何人を残すのかは決まっていないので合格ラインに達した者達は全員採用になるのだが、それは今後も職員を増員する必要があると分かっているからだ。
何せ世界中から魔石収集のために人が押し寄せると確定しているのだから・・・
まだまだ準備は足りていない。
それでも日々世界中から問い合わせが殺到しており、圧力が増している。
日本政府も必死に対応しているが、それも何時まで持つものか分からない。
時期を見て、塔を解放する必要が出てくるだろう。
その時は・・・そう遠くないだろう・・・
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