第48話

「さあ、出発だぞ」


御戸部さんが用意してくれたデカイ四駆のSUVに乗って、出掛けるところだった。


「まずは北のショッピングモールでしたよね」

「です。彼女達の服を買うのでJUに行きたくて」


「了解です。こちらアルファ、目的地変更無し、これより出発する」

『ベータ了解。ガンマ了解。デルタ了解。リーダー了解』


・・・えらく厳重な警備体制じゃないか?

御戸部さん、いったい何人動員したんだよ!

まさかショッピングモールの中が全部警備員とか、無いよな。



御戸部は助手席で後部席の方をチラ見して思う『涼木さん、顔に出過ぎ。流石にそれは無い。良いところ二割だ』と。


出発直後から何か起きる、などと言うことも無く、無事にショッピングモールに到着したが、凡そ30分の間興奮したようにキャイキャイと話す三人の子供達が賑やかだった。


「本当に馬がいないのに走るんだね!」

「鉄でできてるから重いのにね」

「馬車より早いよ!」


「車が一杯走ってる!」

「何で車輪が二つしか無いのに走れるの?」


自転車の原理って何て説明すれば良かったっけ?


「ねえ、街だよね?何で壁が無いの?」


あぁ、この世界にモンスターはいないからなぁ。

街を壁で護ってたのなんて中世のヨーロッパとかじゃないか?


「誰も武器を持ってないわね」


いやいや、武器持ってたら銃刀法違反で捕まるって!


「ねえ、あそこに見えるのって凄く高くない?お城かな?」

「あっちにも高いのが建ってるよ」


残念!この街に城は無いんだぞ。


「大きい橋!」

「ねえ、家の上に道があるよ!」


高架道路のことか!

あっちの世界と比べると不思議な光景かもな。


「ピカピカ光って文字が動いてる!」


それは電光掲示板だな。

俺の工場でも生産してたことがある。

あれはバス用だったっけ?

他にも、LED照明とかもあったな。


「凄い!前に見たお城より高い!」


それはただのマンションだぞ。

最近この街にも十階を超える高い建物が増えたよな。

昔、俺が子供の頃なんか、七階建てとか八階建てが一番高かったのに、今じゃあ十階建てとか普通で、十五階建てとかそれ以上のが建ち始めたもんな。

子供の時とは雰囲気も変わってきたもんだ。


「あそこ見て!長いのが走ってる。あれって汽車?」


いやいや、あれは電車だな。

汽車とは違うんだが・・・

そんなの説明しても、違いなんて分からないだろうしな。

あっ!でもあれって、あのシステムって言うか魔道具が行き渡れば、みんな電車に変わるんだろうな。


「上!上!飛んでる。何か飛んでるよ!ワイバーンじゃないかな?危なくない?」


おいおい、この世界にワイバーンはいないぞ!

一番デカイのは一部の鷹とか鷲だからな。

であれは、小型セスナだろうな。

鳥ですら無かった訳だが・・・


もし仮にレティーが元の姿に戻って空を飛んだらどうなるんだろう?


いや、碌なことにならない気がする。

変な想像は止めよう!


本当に賑やかだ。

人によっては騒がしいって思うレベルかも。

ちょっと注意が必要かもな。


「おいおい、少し落ち着いて欲しいな。そんなに騒ぐと目立つぞ」

「「「・・・ゴメンなさい」」」


「怒ってる訳じゃないんだ。でも、小さい子供みたいだったぞ」

「小さくないっ!」

「そんなこと無いっ!」

「それは言い過ぎっ!」


小さな子供と一緒にされるのは嫌だろうなぁ。


「はいはい。珍しいのは分かるし、楽しいんだろうけど、疲れるぞ。色々行くのに最初からそんなに疲れてたら、全部は行けなくなるかもな」

「「「・・・頑張って静かにする」」」


「いやいや、頑張るって・・・頑張る方向が違うだろ?って、着いたみたいだぞ。最初の場所」


俺は見えてきた目的地を指差した。


「あれ?」

「大きい!」

「うわぁ!」


「あの大きな建物の中には、小さな店が沢山入ってるんだ。そこに大きな服屋があるから、そこで三人の服を買うぞ」

「服高いよね」

「三人分も買って大丈夫?」

「これ、まだ着れるよ」


「任せとけ、一杯買っても大丈夫だぞ。御戸部さん、お願いしてた女性の方って?」

「大丈夫ですよ。一人ずつ付けれるようにしてますし、既に現着してるはずです」


良かった。

俺に女の子向けの服のセンスなんて期待されても困るから、御戸部さんに女性の護衛官を頼んでいたのだ。

特に下着とかは絶対に無理だしな。


「助かります」

「分かってますよ。女性の買い物ってのは、男には苦行ですから・・・」


御戸部さんも女性で苦労した経験があるようだ。

思わず共感しちゃったな、俺はもっぱら三人娘達とだが・・・


そういえば、学生時代に短期間付き合った彼女はいたけど、長くは続かなかったんだよな。


人付き合いは苦手じゃないし、友人もいた。

友人の中には同姓も異性もいたし、女性と付き合うことに抵抗も無かった。

なのに何故だか「彼女」となると長くは続かなかった。

最短で二ヶ月、最長で半年だったか?


今思えば、何で長続きしなかったんだろう?


そんなことを考えているうちにエレベータが目的の階に停まった。


「さあ、行こうか」

「「「うん!」」」


三人は元気だなぁ・・・


JUの前には、三人の女性が立っている。

たぶん私服姿だが彼女達が御戸部さんが手配してくれた人達だろう。


「おーい!」


御戸部さんが三人の女性を呼んだ。

予想した通りだった様だ。


「涼木さん、彼女達が・・・」

「涼木です。今日はをお願いします。女の子用の服なんて縁が無い物で・・・」


三人の中の一人が代表して「御任せ下さい!」って良い顔で請け負ってくれた。


六人が離れて行くのを見送って、御戸部さんに問う。


「時間足りますかね?」

「昼食の予定とかは伝えてありますけど・・・たぶんギリギリでしょう」


「やっぱりですか?」

「小さくても女ですからね。付き添い兼アドバイザーも便乗しそうですし・・・」


二人で選んで溜息を吐いた。

二人とも心の中で同じことを考えていたと思う。


『女性の買い物って何であれほど長いのか?』


この時俺が思い出したのは、学生時代に彼女の買い物に付いて行った時のことだ。

バレッタって言う髪留めを買いに行ったのだが、一つを買うのに三時間ほど掛かった。


バレッタを買うと決めているのに、他の物を見たり「これと、こっち、どっちが似合う?」と聞かれたり、女性用の小物を売っている店内で男一人が三時間、何の拷問だよ!って思ってたなぁ。


懐かしくも苦い思い出だな。


チラッと見た時計は9:17。

予定時間まで三時間以上あるが、予約したレストランに間に合えば良いんだが・・・

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