第46話

「「「待てぇ~!」」」


俺は今三人の人物に追われていた。


「今日こそ捕まえる!」

「逃がさない!」

「逃げても無駄!」


各種魔法で身体能力を上昇させ、通常では考えられない速度で走りながら逃げる。

だが、追って来る声との距離は離れない。


過去の逃走劇を思い出すが、今回は不味い。

ここまでやるとは思っていなかった。


一対三と数は圧倒的に不利。

状況的に見て、速度で振り切るのも難しそうだ。


「これは・・・やられたかもな・・・」


そうは思っても、諦めると言う選択肢は無い。

何か打開策は無いか?と頭を働かせる。


このままのルートはバレているだろう。

なら、どうやって相手の裏をかく?


そう考えた瞬間、目前の扉が開く。

その影から三人が飛び出して来た。


やられた!


まさか、俺の知らないルートを開拓してるとは・・・


「やったぁっ!」

「捕まえたぁっ!」

「初勝利っ!」


三人娘が飛び上がって喜んでいる。


何をしていたか?って、鬼ごっこだな。

三人が鬼で、俺が逃げる役。


今までの俺の連勝記録も今日で途切れてしまったけど・・・



頭の上に耳がある獣人けものびと族のが二人と少しだけ耳が尖った妖人あやかしびと族のが一人。

丸っこい耳の栗鼠リスの獣人がソフィリア、通称ソフィー。

三角耳の猫の獣人がアマンダ、通称アン。

妖人がリズベッタ、通称リズ。


三人とも種族が違うが、姉妹である。

三人とも親を亡くし、引き取られた先で姉妹として生活していたのだ。

師匠が保護した時も「姉妹だから三人一緒で!」って言われたらしい。


彼女達を保護した話は・・・長くなるから、また今度。


そんな彼女達と俺は「賭け」をしていた。

子供と何をしてるんだ!って思うだろうが、賭けの内容は「お出掛け」だ。


この世界に来てから、彼女達は塔の外に出ていない。

余りに前の世界と何もかもが違うからだ。

それでも彼女達は俺の世界を直接見たいと言った。

子供なのだ、好奇心も興味もあるだろう。

至極当然な反応だと思う。

だが、前の世界ほどでは無いにしても、この世界にだって危険はある。


だから、そんな彼女達と俺といくつかの約束をした。

まず、この世界のことを学ぶこと。

やって良いこと、やってはいけないこと、言って良いこと、言ってはいけないこと。

そんな基本的なことから、この世界の常識的な考えや非常識な考え。

知らなければトラブルになることなど山のようにある。


そんな勉強と一緒に約束したのが、例の賭けだった。


じゃあ賭けの内容が、何故鬼ごっこか?

彼女達が逃げれるようにするためだ。


何から?

悪意からだな。


今回はお出掛けするに当たって、幻影魔法を使う予定である。

彼女達には特異な部位があるので、それを誤魔化すためだ。


それでも心配事は無くなりはしない。

世の中、何が起こるか分からないから。


何か問題が起きて逃げないといけなくなった時、普通の子供では逃げ切れない。

だが!今の彼女達ならアスリートからだって逃げ切れると断言できる。

それぐらい真剣に彼女達を鍛えた。

子供が楽しんで鍛えられるように考えた結果が鬼ごっこだっただけってことだ。


「負けたぁ~」

「「「勝ったぁ~」」」


「勉強は?」

「「「合格したぁ~」」」


つまり彼女達は俺との約束を守ったってことだ。

となると、俺も約束を守らないと。


「分かった。師匠に外出許可を取ろう。その後に予定を立てるか・・・行きたい所や見たい所はあるか?」

「「「モリトに任せるぅ~」」」


はぁあ、俺が女の子三人を連れて出掛けることになるとはねぇ。


「分かったよ。約束は守る。日程が決まったら教えるから、それまではいつも通りにしてるんだぞ!」

「「「は~いぃ」」」


彼女達が御機嫌に部屋に戻って行くのを見送ってから、師匠の所へ向かう。

勿論、約束を守るために彼女達の外出許可を取るためだった。



「・・・ってことで、負けた。だから、外出してくるよ」

「割と早かったのじゃな」


「あぁ、俺があの出力で逃げて捕まえられるなら、地球の一般的な大人に全力で追われても余裕で逃げれる」

「二割弱だったかのう?」


「ああ。装飾品で防御もしてるし、問題は無いはずだ」

「ならば、許可するしかないじゃろうな」


「師匠、完全に安全だとは言い切れないけど、ここはあっちより格段に安全だ。そこまで心配する必要は無いと思うぞ」


俺の言葉の通り、勉強は俺が言いだしたことだが、鬼ごっこは師匠が言いだしたことだ。

うちの師匠は孫の様な歳の彼女達を、本当の孫のように思ってる。

だから、凄い孫馬鹿を発揮することがあるんだ。


今回のもそれの延長みたいなもんだ。


まあ、約束を守った彼女達を外出させないとかは言えない。

孫馬鹿師匠は彼女達に嫌われるのが一番辛いらしいから・・・


「さて、許可は出たし、何処に行くか考えるか!」


俺は工場に戻って、知り合いに連絡をとることにした。

前に工場で働いてたおばちゃんの一人だ。

確か、孫が七人いたはずで、色々知ってる情報通な井戸端会議大好きおばちゃんの八芝やしばさん。

七人中四人が女の子だって言ってたから、その辺の情報も持っていると思ったんだ!


「何か言い情報が聞けるかな?」


・・・・・・おばちゃんの話って・・・終わらない・・・


長い長い世間話の後に、やっと聞き出した情報は結構あった。

可愛い服、美味しいケーキ、可愛い小物、綺麗な場所。

一度に全部は無理だけど、服と美味しい物は良いかもな。


そういう情報さえあれば、ネットで似た情報なんかも調べ易い。

俺は色々とチェックして情報を集めた。


「あっ!御戸部さんに外出のことを連絡しとかないと不味いな」


現在、専属護衛になってる御戸部さんに内緒で出掛ける訳にはいかないことを思い出した。

そうなると、彼女達とも顔合わせさせないといけないな。


「連絡してみるか?」


御戸部さん専用のスマホを出して掛けてみる。


「どうかしましたか?」

「ちょっと相談がありまして、工場に来れませんか?」


「今は特に用も無いので、直ぐに行けますよ」

「じゃあ、すいませんがお願いします」



十分ほどでやって来た御戸部さんが要件を聞いてきた。


「で、相談って何ですか?」

「ええ、異世界人の子供達三名が外出したいみたいでして、賢者が許可したんですが、私が案内役になったんです。御戸部さんは護衛ですし、話はしとかないと不味いでしょう?なので、外出時の護衛をお願いします」


「・・・はぁああ!何言ってんですかぁっ!」


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