第45話 緊急記者会見(4)
総理による最後の爆弾が投下され、記者会見場内は死屍累々の有様だった。
だが今日の記者会見、総理には容赦する気など無かった。
「私から御伝えすることは以上となります」
「それではこれより質疑応答の時間となります。質問方法は通常通りで・・・」
進行係が質疑応答の説明をしている。
総理は一気に喋ったことで乾いてしまった喉を演台の水で潤していた。
このタイミングでテレビは遅れて溜まったテロップを表示した。
**** エネルギー源の魔石を確保するのに問題あり ****
**** 魔石を入手するにはモンスターと戦う必要あり ****
**** 魔石は各国で供給してもらうことを要望 ****
**** ダンジョンを全て攻略すると所有権が得られる ****
視聴者達は思う。
テロップは溜めて出すもんじゃ無い!
タイミング良く、その場で出さないと意味が無いだろ!
・・・でも、少しだけ遅れた理由は分かる。
みんな驚いたもんな・・・
「総理、準備はよろしいですか?」
不意に進行係から声が掛かる。
それを片手で制し、更に一口水を飲んだ。
今日は、これからが本番であり一番長く掛かると分かっていたからだった。
総理が予測していた、というか誰でも予測できるだろうが、質疑の内容は多岐にわたった。
・どうやって異世界から来たのか?
・何で地球だったのか?
・何故日本だったのか?
・将来的にまた何処かに移動することはあるのか?
・ダンジョンとは何か?
・賢者とはどういう存在なのか?
・魔法とは何なのか?
・魔法の理論とはどんなものか?
・魔法は地球人も使えるのか?
・地球人は魔法を使えないと言うが、その証拠は?
・過去、地球上にも奇跡と呼ばれる現象が記録されているが、それは魔法では無いのか?
・もし仮に地球人で魔法が使える者がいた場合、どうするのか?
・賢者に魔法が使える以上、それで何か問題を起こす可能性は?
・魔法が使えないのに、本当に魔法技術のシステムは動かせるのか?
・どんな魔法があるのか?
・魔石をどうやって市場に供給するのか?
・モンスターの姿は?
・モンスターを倒すとは、具体的にどういうことなのか?
・戦闘をすると言うが、モンスターの強さは?
・自衛隊が対応するのか?公的機関を創設するのか?自衛隊が対応する場合は、不戦ではなくなるのではないか?
・民間に委託するとは、どういうことか?
・民間人をモンスターと戦わせるのか?
・怪我や死亡などの心配はあるのか?
・その場合の保証はどうなるのか?
・だいたい何故民間人がやらねばならないのか?
・民間人に武器などを持たせるのか?
・その場合、それが犯罪に繋がる可能性は?
・本当にモンスターはダンジョンの外に出ないのか?
・もしモンスターがダンジョンの外に出た時はどうなるのか?
・何事にも絶対はありえないが、モンスターが外に出ないと、どうやって保証するのか?
などなど、流石に時間制限が無いと言っても四時間を越える質疑応答は長過ぎる。
そろそろ終了しようとしたところで、少々今までと違う質問が飛んできた。
「新東日本新聞の
この質問、実は総理達も考えてはいた。
ただ、今回の質疑応答で質問はされないだろうと考えていたのだ。
何故なら、魔法で何が可能なのか誰も知らないからである。
「非常に興味深い質問ですが、それについて御答えする情報を持っておりません。と言うのも、私達政府の人間もその可能性を考えたことがあるのです。しかし、異世界には核爆弾も放射能汚染も存在しなかった。つまり彼等は放射能がどういうモノなのか全く知識が無かったのです。知らないモノに何ができるでしょう?私達が今魔法とは何か?分からないのと同じで、異世界人の彼等には放射能が何か分からないのです。もしかすれば将来的に可能になるかもしれませんが、現在その質問に答えることはできません」
「文明の発展事態が違うのか!なら兵器などの開発もされてないだろうし、核なんて知らないのも当然と言えば当然かも知れませんね。総理、ありがとうございました」
「申し訳ありませんが、流石に四時間を越える長丁場で総理もお疲れです。これにて質疑応答を終了したいと思いますがよろしいでしょうか?」
進行係の言葉に、記者達は無言で答えた。
「それでは総理による緊急記者会見を終了いたします。皆様お疲れ様でした」
進行係の言葉で長い長い緊急記者会見は、やっと終わった。
今回はタイミング良くテロップが表示された。
**** 緊急記者会見、歴代最長記録更新! ****
いちいち会見時間の記録を取ってるのかよっ!
「総理、お疲れ様でした」
「君もお疲れ様だな。用意してくれた想定問答集、読んだ時には何を書いてあるのか理解不能な部分はあったが非常に役に立ったよ。ありがとう」
「お役に立てたのなら〈分室〉の部下達の御陰です。皆いい歳になのに、アニメやマンガ、ラノベにネット小説なんて物を空き時間に見たりして知識を集めていましたから」
「そうか。良くやってくれたと褒めておいてくれ」
「ええ。それを聞けば、皆喜ぶでしょう。・・・で、今後は予定通り、ですか?」
「ああ、そうだ。あの内容を公表した以上、集まるぞ世界中からな」
「そうですね。有象無象が群れを成してやって来るでしょう」
「絶対に彼の身柄の安全だけは厳守するんだぞ。今現在、唯一賢者と直接交渉できるのは彼だけなんだからな」
「ええ、分かっています。彼がその立場にあることは最重要秘匿情報ですから」
「少なくとも、賢者が塔の周辺なら魔法が使えることは分かっているんだ。それがどれだけの範囲で使用可能なのか?分からない以上、あの時の様なことは二度と起きてはならん。それだけは避けねば、何時日本に飛び火するか分からんからな」
*** *** *** *** *** ***
「・・・そう、これが総理の隠し事だったのね。やられたわ」
「どういたしますか?」
「どうって?分かり切っているでしょう?新しい支持者を探すしかないじゃない。これ以上エネルギー産業系に頼っていても未来は無いんだもの」
「では、どこに?」
「それをあなた達が調べてくるのでしょう?有望そうな企業を選んでちょうだい。次の選挙のためにも早目にね」
「早速、調べてみます」
*** *** *** *** *** ***
「師匠、会見、見・・・てたか」
「当たり前じゃろう。儂等の未来が掛かっとるのだからな」
「で、本気で攻略者に所有権を譲るのか?」
「無理なのは分かっとるじゃろう?」
「そりゃあ、確かに現状ならな。でも、魔法を使える人間が出てくる可能性はゼロじゃないだろ?」
「独学で魔法を使う程度で、この塔の攻略など無理じゃわい」
う~ん、確かに俺を基準に考えても、超絶難しいとは思う。
だけど俺は天才とかじゃない。
そりゃあ魔法の才能はあったが、それは主に魔力量の話で、魔法を使う才能の方じゃない。
そっちの才能がズバ抜けたヤツがいた場合、勝てるか?と聞かれても素直に頷くことはできない。
だからこそ、その可能性を排除はできないと思うのだ。
少なくとも俺だけは、それを忘れてはならないだろう。
何せ地球上の人口は60億人を軽く超えていて、世界中から人が集まるのだから・・・
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