第43話 緊急記者会見(2)

そんな記者達の心の声は総理には届かない。


一部の記者とネットでは「なんでこのタイミングで質問させてくれないんだよ馬鹿野郎!」と思っていたが、それも届きはしなかった。


この時、政府関係各所には既に大量の電話とメールが押し寄せており、業務ができない状況になっていた。

しかし、それら政府関係各所にも極秘で進められていた案件であるため、どれだけ問い合わせがあろうと、それに答えられる者など存在しない。

それが可能なのは一ヶ所だけ・・・〈分室〉のみである。


しかし、その〈分室〉が情報を取り扱っていたことすら極秘にされていたがため、一部の者達以外、その答えにすら辿り着けず右往左往するしかなかった。


つまり・・・記者会見は続く・・・のである。



「ここからが重要なのですが・・・」


続いて出た総理の言葉に、会見場に戦慄が走った。

『ここからが重要って?今までの話しでも相当だったのに、もっと重要な話があるって言うのかっ!』


日本中、いや、世界中が同じ感想を持ったかもしれない。


「今回、日本国民になったの御一人が現地ではと呼ばれる熟練者エキスパートでありまして、その方からことになったのであります。それは・・・従来の石油や核に頼らない・・・完全に無害な電力供給システム・・・であります」


この瞬間、世界中に激震が襲った!

世界中が、ドッカーン、である。


ここでもテレビにはタイミング良くテロップが表示された。


**** 異世界技術の完全に無害な電力供給システム ****


当然のことである。

地球上の生活インフラを支えているを完全に無害な状態で供給できるシステムなんて物は、現在の世界情勢を根底から破壊する威力があるからだ。

産油国は勿論、石油メジャーや、エネルギー産業、末端では田舎町にでも存在するガソリンスタンドまで影響を受けかねない。

爆弾発言なんて軽い物ではすまない言葉であった。


「総理!それは本当ですかっ?」


質問を許可されてもいないのに記者の一人が声を上げた。


「まだ質問は受け付けていませんが、良いでしょう。ええ、嘘ではありません。私の政治生命を賭けても良い、本当のことです」


総理が肯定した途端、会見場内はざわめきではすまない大荒れ状態になってしまった。

進行係が必死に「御静かにっ!」と叫んでいるが、誰もそれを聞いていない。


そこへ総理が御構い無しに話し始める。


「えー、そのシステムですが、基本はをベースにした物で、提供されたシステムの情報は全ての国家間で共有したいと考えております。その理由ですが・・・」


総理が騒がしい会見場内を無視して話し続けたことで静まり掛けていた場に「はぁあっ?」と言う複数の記者の疑問の声が上がった。

まるっきり「何を馬鹿なことを言ってんだコイツ」って感じである。


それもそのはず、自国に膨大な利益を生むであろう技術を世界中の国で共有しようと言うのだから、御人好しなんてものは通り越して鹿だと思うのも当然だろう。


勿論、テレビはタイミング良くテロップを表示した。


**** 完全に無害な電力供給システム技術を世界と共有 ****


「現在世界中で危惧されております環境問題。特に大気汚染に関しまして、このシステムの有効性を考えた場合、如何に早く世界中でシステムを稼動させるか?それが鍵になると考えたからであります。我が国の利益だけを考えるなら馬鹿なことでしょうが、地球全体を考えた場合、これは独占するべきでは無いと判断いたしました」


誰もが知っている。

現在地球上を襲う、異常気象の猛威!

大気汚染だけが原因では無いだろうが、それでも大きな要因であると理解している。

それを何とかするための決断。


会見場内は、しんっ!と静まりかえった。


これはテレビもタイミングが少々遅れてテロップが表示された。


**** 環境問題に対する総理の決断 ****



世界中の誰もが分かっている。


生活に必要だからとを使う。

そのほとんどが重油を燃やした火力発電に頼っていることを・・・


便利だからとを使う。

その燃料が石油から精製されたガソリンであり燃焼させて動力を得ていることを・・・


冬は寒いからと《ストーブ》を使う。

その熱源が灯油を燃やしていることを・・・


快適な生活を捨てることができず、黙認しているのが石油という燃料に頼った世界であり、それが大気を汚染していると・・・


今を生きる人間の大多数が知っているのに、それを暗黙の了解として生きてきた。

何故なら、それに変わるエネルギーが無かったからだ!


だが、今その選択肢が一つ増えた。


異世界の技術である、それを基にした無害な電力供給システム。

それが世界を変えると、誰でも予想することができたのだ。


そして一部の人間は別のことも予想できた。


特大級の問題・・・石油に携わる人々の反発・・・である。


それが予想できた人々は心の中で『世界が荒れる』と感じただろう。


「さて、誰でも知っていることですが、無から有は作り出せません。つまりこのシステムにも勿論、燃料になる物が必要です。それは何か?私が今持っている、この結晶体であります」


総理は記者の反応を無視して続けた。


「これはのモンスターを倒すことで得られると呼ばれる物です。これの構成物質はと呼ばれるエネルギーであり、それをシステムで電気に変換する訳ですが、ここで一つ問題があります」


総理が一度、会見場を見回してから言葉を続けた。


「そう、モンスターを倒さなければ手に入らないと言うことです」


それまでの内容が衝撃的過ぎて、誰もが気に留めていなかった、その一点。

モンスターと戦って、倒さなければ手に入らない。


おいおい、大問題じゃないか!である。


記者の誰かが「それはダンジョンに入ってモンスターと戦えと言うことでは?」と言った。

総理はその声に答えることはせず話を続ける。


「問題点が御理解いただけたようなので話を続けますが、システムの情報は共有させていただきますが、燃料となるは各国で御用意いただくことになります。現在そのための準備を進めておりますが、明日から特定機密としていましたシステムの情報とその燃料であるの情報を各国で共有いたします。その中にの収集方法なども詳しく記載しておりますので御確認下さい。日本国内に関しましては、明日より官邸のホームページから飛べる特設サイトを準備していますので、そちらで御確認下さい」


会見場内は静まりかえっている。


「さて、最後になりますが・・・」


静まりかえっていたがため「まだあるのかよ!」という独り言の様な声が割りと響いた。


流石に情報量が多過ぎたのか、テレビのテロップは間に合ってなかった。


まだ記者会見は終わらないようである・・・

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