第42話 緊急記者会見(1)
「首相官邸から中継です。本日急遽日本政府から緊急記者会見をを開くと通達がありました。しかし、何に対しての会見なのかは全く説明されることが無く、各報道機関が困惑している状態であります。この様な事態は初めてであり、官邸記者会見場内は騒然として・・・どうやら、総理がいらしたようです。現場と中継を繋ぎます!」
テレビには「総理大臣緊急記者会見」と、テロップが表示されている。
・・・総理は会見開始予告時間を5分遅れて姿を現した。
総理は壇上に上がると、演壇の手前で国旗の方を向いて敬礼し演壇へ。
その姿を捉えるカメラマン達から、フラッシュがパシバシと光った。
そして進行係が会見の開始を告げる。
「えー、それではただ今から内閣総理大臣の緊急記者会見を行います。本日は、事前にマスコミ各社に会見内容を告知致しておりませんが、政府からの重要な発表がございます。従いまして今日の会見は特に終了予定時間を設けておりません。その点、よろしくお願い申し上げます・・・では、総理から発言がございます。マスコミ各社の質疑応答は御話が全て終わったあとになりますので、よろしくお願い致します・・・では、総理、どうぞ」
総理は軽く頷くと、懐から原稿を取り出して演壇に据えた。
「本日、いくつかの重要かつ緊急な案件に関して、国民の皆様、そしてメディアを通して御覧になっている世界各国国民の皆様に御伝え致します・・・御伝えする内容は・・・我が国に関する重要な事案であると共に世界ひいては地球全体に影響のある重要な事案であります」
テレビでは総理の言葉に合わせてタイミング良くテロップが表示された。
**** 我が国及び世界中及び地球全体に影響のある重要な事案 ****
記者たちは少しざわつく。
会見内容が全く分からない状態で、世界中に影響のある重要な事案と言われれば、多少のざわつきも致し方ないだろう。
しかも、あまりに今までの日本政府の対応とは違うため、記者達もかなり緊張していた。
「・・・さて、まずは我が国の一大産業に発展しました「アニメ」や「ラノベ」と呼ばれる文化ですが、皆さんはどの程度御存知でしょうか?御恥ずかしながら、私はほとんど内容を知りませんでした」
突然の総理の、俗に言う「オタク文化」についての言及に記者達が驚く。
一体全体、今の緊急会見と何の関係性があるのか?全く持って理解が追い付かなかったからだ。
「・・・本来であれば我が国の代表を名乗る以上、そう言う方面にも知見を広げておくべきだったと今更ながらに後悔しております。と、突然この様な話題になったことを不思議に思っておられる方は多いでしょう。何故?今その話をするのか?それは勿論・・・今回の緊急会見に必要なことだからであります」
一斉に記者が首を傾げる。
「オタク文化」と「世界に影響のある重要案件」と「緊急記者会見」の三つに関係性を見出せなかったからだ。
この時ネット上では・・・
「異世界が発見されたんだ!」
「異世界人が発見されたんだろ!」
「ケモ耳少女か?」
「長耳美女だろ?」
「いやいやダンジョンだって!」
と、早くも正解に近付いている者達がいたが、会見場の記者達は知りようも無かった。
「・・・では、何が関係すると言うのか?分からない方が多いと思います・・・が、落ち着いて聞いて下さい。我が国は、本日この場を使いまして異世界人を保護し、特例で日本国民として迎え入れたことを報告させていただきます」
テレビではタイミング良くテロップが表示された。
**** 我が国で異世界人が日本国民として迎え入れられた ****
会見場は一瞬、総理が何を言ったのか理解できずに静まり返った後に「おおお~」とか「えええっ!」とか「異世界人だってぇぇ!」と、どよめきが走る。
まさか総理記者会見で、こんな厨二病な発言が飛び出すとは思ってもいなかったためだ。
「御静かに!御静かにお願いします!総理の会見はまだ途中です。御静かにしていただけないのなら強制的に退出していただきますよ!」
進行係の言葉に記者達は徐々に冷静さを取り戻し、会見場が静まっていった。
「信じ難い内容ですので動揺される方がいらっしゃるのも理解できますが、会見はまだ序盤です。まだ暫くは御付き合い下さい」
そんな総理の言葉に記者達は心の中で『これで序盤だって!』と声を揃えていた。
「まず異世界人方々についてですが、現状は安全のために情報や姿などを公開することはできません。ただし、今後安全などが確保されたと判断できましたら、政府のホームページ等で公開する可能性はあります」
この総理の言葉に残念そうな声と納得する声とが聞こえる。
「・・・では、どうやって異世界人だと判断できたのか?と言う部分ですが、まず全員が魔法を使えることが確認できました。これは一般的に言うマンガやアニメに出てくる魔法とほぼ同じと御考え下さい。更に一部の方は頭頂部に動物の様な耳を持っていたり、瞳の瞳孔が縦割れであったり、体表に鱗があったりと様々な地球人に無い特徴を持っておられました。また、話される言語が地球上のどの言語にも該当せず、話し合いをするために魔法による翻訳をする必要がありました」
既に記者達は情報の多さに頭がパンクしそうになっていた。
それもそのはずで、魔法、ケモ耳、縦割れ瞳孔、鱗肌、どれも信じ難い話であるためだ。
「・・・そのような特殊技能や特殊な身体的特徴などと、聞き取りしました「何故?どうやって?異世界からやって来たのか?」という内容を慎重に検討した結果、異世界からの難民移住者と断定し日本国民に迎えた次第であります。また「何故?どうやって?異世界からやって来たのか?」という内容につきましては、ここで御話しすると非常に長い話になりますので、後日、官邸ホームページにて情報を公開したいと考えております」
この説明に記者達はあからさまに「ほっ!」としていた。
「次に・・・」
一瞬「ほっ!」した記者達に緊張感が走り抜ける。
「次に」って言ったか?状態である。
「・・・この異世界人の方々は、御自分達の住んでいたある建物ごと日本にやって来られておりまして・・・」
記者達の顔はまさに「はっ?」って感じだ。
言いたいことは分かる「何がどうやったら住んでいた建物ごと異世界からやって来ることになるんだ?」ってことだろう。
後は「魔法か?魔法があるからできたのか?魔法って何だよっ!」って感じだろうか。
「その建物が所謂、俗にダンジョンとか迷宮と呼ばれる物だそうです。この建物内にはモンスターと呼ばれる怪物の生息も確認できておりますが、建物から出ることはできないとのことで、周辺への安全は確保されております。これは担当者が直接確認しており、全く持って安全であると太鼓判を押していますので御安心下さい。これらの特殊な技術ですが、これも魔法によるところでありまして、我々では現状解析できない物ではありますが、その特殊な発動条件などを考えますと、現状慌てて解析するのは難しいと専門家の方々からの意見もいただいております」
総理は慣れない上に馴染みの無い単語が多いために原稿から目が離せない。
それ故に気付けなかったが、記者達の顔を見ていれば色々と思う所があったかもしれない。
それほどキャパオーバーになっている記者達の顔は面白いことになっていた。
テレビではまたまたタイミング良くテロップが表示された。
**** 我が国に異世界人がダンジョンを持って来た ****
「えー続きまして・・・」
会見場の記者達は、唖然呆然という言葉すら当てはまらないぐらいに、何か狐につままれたような顔をして石化していた。
そして心の中で叫んでいた。
『続きましてって何だよっ!もう腹一杯だよっ!勘弁してくれ!』
・・・と・・・
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