第41話

御戸部さんに極秘に連絡をしてから十四ヶ月、一年以上が過ぎた。

良くここまで秘密を守り通せたものである。


来週、日数的にはあと数日後には、政府から公式に発表されることになると連絡がきた。

完全に情報を遮断していた時よりも、特定の場所に情報を流すようになってからの方が、ものごとの進み方が加速していたように感じた。


まあ色々水面下で動きが活発化している間、俺は戦闘訓練してる人達と交流してるだけで、御戸部さんから報告を聞くだけだったけど。

そういう動きの中で色々と提案やら要望やらは来ていたので、その調整なんかでバタバタはしたなぁ。


あとは、世界が「」に掛かってる。

受け入れるのか?反発するのか?排除するのか?または他の何かか?


どんな反応をされたとしても、それはそれ、俺達はその後も生活を続けるしかないのだ。

生きるって、結局そう言うことだろうしな。



さて、あれから色々あった。

連絡されて対応したことも多いが、それは対応するまでに時間的余裕があったので問題では無い。


一番驚いた大問題は、御忍びである日突然やってきた総理大臣だろう。

会社の事務所で最近良く来る御方からのメールをチェックしていた時だった、玄関の呼び出しブザーに「誰が来たのだろう?」と出てみて吃驚!

SPに護衛された総理が会社の前に立っていた衝撃と言ったら、危うく心臓が停止しそうだった。


突然やって来たのは、偶々隣の県に来たが天候の具合で予定がキャンセルになり、空いた時間を上手く使った結果らしい。

俺としては、何が上手く使ったことになるのか?疑問ではあった。


一時間程滞在して、映像と書類でしか見たことの無かったダンジョンを視察?して帰って行ったのだが、帰り際に「これからもよろしく頼みます」とお願いされてしまった。

流石に『俺の都合で国を利用してます』と本当のことは言えないので「はい」とだけ返事をしただけで終わらせたよ。


他には、ここで変わったことが色々ある。

まず、俺の土地に入ってくるための周辺の土地が買収され、回り回って国の持ち物になっていた。

元々俺の工場がある持ち山は、県道から脇道に入ったドン詰まりあるのだが、その脇道や県道に面した所にあった田畑などが俺の知らない間に買収され、気付いた時には造成が始まっていた。

後で報告を聞いたのだが、どうやら買収した土地に塔に来た者達用の宿泊場所やら色々な施設を建てる予定らしい。


確かにここは市街地からは離れているし、公共交通機関はバスのみで、それも一時間に一本あれば良い方である。

塔を公開すればバスは増えるだろうが、確かに片道三十分はバスに乗らなくては市街地に行けないのは不便だろう。

と言って、大きな駐車場がある訳ではないので、自家用車で来られても困る。

俺も、そういうインフラ関係までは頭に無かったので、報告をされて「あっ!」と驚いたものだ。


勿論、塔の入口までの道もできがっているし、工場よりも大きな建物も建っている。

何でそんな大きな物が建ったのか?

最初は俺が入場料や入場料代わりの魔石の回収などをする予定だったのだが、それだと税金関係などで面倒になると言われ、結果、国営の専門施設ができあがったのだ。

つい一週間ほど前に完成したばかりの地上三階地下二階建てだ。

何故か、御戸部さんが施設内を案内してくれた。


他に宿泊施設として、何軒ものカプセルホテルが完成しているし手荷物預かり所もある。

通常の部屋がある宿泊施設も建設中だし、ウィークリーで借りれるマンションのような物の建設も予定されているらしい。


俺の持ち山の周囲は高さ2mほどの壁と幅3mほどの堀で囲まれ監視小屋までできているし、工場の裏手にはちょっとありえないサイズの交番まである。

工場自体も、交番や施設、壁などに囲まれていて、周囲から見えないようにされている感じ。


県道に面した場所は普通なら絶対にありえない立地の場所なのに、コンビニと大手ファミレスチェーンのレストランが三軒、運送会社の宅配荷物預かり所まである。

そうそう、車一台が通れる程度だった道は片側一車線に拡張され、その両側に道路幅より広い歩道ができている。

建設用に必要だったからってのもあるが、どうやら塔で怪我した人の救急搬送用にも必要だと言うことだった。


前は俺の工場以外田畑しか無かった場所がえらい変わりようだ。

御戸部さんが言うには、周辺の山も買収が予定されていて、もっと開発されるだろうってことだった。

一体、何処まで開発されて、何ができることになるのか?全く予想ができない。


あっ!ちなみに俺は工場で生活してるから知ってるけど、周辺住民は「何か大掛かりな工事をしてる」程度にしか知らない。

県道沿いは高い足場にシートが張られて中が見えないようにされているからだ。


国としての公式な発表は来週だが、塔自体の運営開始は施設がある程度揃ってからってことみたいだ。

最初からそんなに大量の人が来たりしないと思っているのだが、どうやら政府はそう思っていない様子だった。



そうそう!周辺で建設が始まった頃、政府から一度打診されたことがあった。


「涼木さんの土地建物を国で買い取らせて欲しい」ってね。


これは俺も予想してたし、遅かったなと思うくらいで驚きもしなかった。

まあ、想定はしてたので答えも決めていた。


「そう言われるかな?とは思ってたので賢者にも確認したんですけど、今後も窓口は私以外に頼む気は無いそうです」


まあ、そんな答えで納得する訳も無く、しつこく食い下がってきたが、どこから見ていたのか師匠が〈火炎球〉の魔法を一発落として一言「儂の恩人に何をしておるのじゃっ!」と言った途端、話に来てた人が悲鳴を上げながら走って逃げててた。

これには流石に驚いたみたいで、御戸部さんが即効で事情を聞き取りに来たな。


まあ話せる内容は、あったことをそのままだったし困りはしなかったんだけど、何故だか「賢者は俺に凄く感謝していて恩人扱いしてるから、下手に手を出すと危険!」みたいな話になってたのには驚いた。

その御陰か、その後は重要人物扱いになってて、山とか土地の賃料も破格の金額を提示されたし、御戸部さんが専属の警備に抜擢されたりしてた。


あと、俺に御機嫌伺いを頼んできたから「異世界じゃこっちの世界の食品みたいに品種改良とか、食べるためだけに育てた動物や魚なんかは無いらしいので、その辺を手土産にしたら?」って言ったら、軽バン一杯の色んな食品が届いてビックリした。


勿論、師匠の所に運んで皆で食べたんだが、余りの美味さに凄い御機嫌になった。

それをそのまま伝えたら、あからさまに、ほっ!っとしてたね。


そんなこんなで、俺の周辺も色々と様変わりしたりしてるが、本番が迫ってきたって雰囲気はビンビンと感じる。


世界が、どう動き出すやら?

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