第40話

「あのぅ~、これ本気で検討しないとダメなんですかねぇ?」

「矛盾しまくりな・・・」


様々な愚痴ともとれる言葉が聞こえる。


「最後まで読んだか?」


言いたいことは分かるので、注意だけする。


「・・・懸念があることは理解しましたし、その対策って点でも理解はできます。でも、何で最初から・・・」

「他も池内と同じ意見か?もしそうなら、全員に説教せねばならんのだが?」


「同じ意見ではありませんが、情報の完全封鎖でスタートしたのが突然の方向転換だとは感じています」

「・・・良いか?これらの意見を出してくれているのは、官僚でも公務員でも学者でも無い一般人だぞ。それも突然降って湧いたように「異世界人」と「地球人」との交渉をさせられている一般人だ。何で、彼が気付いて意見してくる程度のことをお前らは気付かないんだ?私から言わせれば、私も含めてお前らから何も意見が出てこない方が問題だと思えるんだがな?」


「「「・・・・・・・・・」」」

「ただ命じられたことをやるだけなら、お前等じゃなくても良いんだが?」


上の命令や指示に従うだけのヤツは、ここには配属されていない。

何故なら、そう言うヤツは既に誰かしらの権力者の傘下に入っているからだ。

ここに配属される=そういう派閥のようなものとは無縁と判断されていると言うことになる。

そういう人間は、それぞれの省庁などで自分の意見を言うから煙たがられて派閥に入れなかったって可能性が高い。

国家公務員になってる時点で、それなりの能力は認められているのだから「できない」ってことは無いはずなのだ。


今の「分室」に求められているのは、既存の価値観と異世界の物を組み合わせるという、今までに例の無いことをやらなければならない。

かく言う私も目先のことに気を取られて世界に目を向けることができていなかったと反省をしたのだ。


「良いか、やることの基本は変わらない!極秘で進めなければ横槍が惨いことになる。だが、特定の一部にだけ情報を流し、我々が情報公開した時の反発を減らす!出す情報の内容や、その相手、方法など検討しなければならないことは多いし集めなければいけない情報も多い。また、届けられた意見は納得のできる物だが穴も多い。このままで進めるには情勢や背景などに配慮が足りない。穴を埋めつつ、しかし情報公開時に反発や反動が少なくなるように各種の調整が必要になる。良いかっ!能力の出し惜しみはするなっ!お前等の力を見せてくれっ!」


さっきまでと違い、彼等の目に「やる気」が見えるような気がした。

私の言葉に発奮したのなら嬉しいのだが・・・そういう私も私のやることをやりつつ色々と考えねば・・・



*** *** *** *** *** ***



都内某所、とある大使館。


「突然の訪問申し訳無い。御迷惑ではありませんでしたかな?」

「何を言われます。総理の訪問となれば何を置いても喜ばしいことです」


「同盟国大使のあなたには、いつも助けられていますから、そう言ってもらえるとありがたい」

「いやいや、助けられているのは私も同じですからな。・・・ところで、突然の訪問理由が世間話だけ、では無いのでしょう?」


「ええ、勿論。ただ・・・少々問題のある内容でして・・・」と総理は言葉を切って、周囲の秘書官などに視線を向けた。


「内密での話・・・と言うことですな、分かりました。私達だけにしてくれ」と大使は人払いをした。


室内に自分の秘書を含めて三人だけになったところで総理は口を開いた。


「大統領は商業系からの出馬だと記憶しているのですが、間違いないでしょうか?」

「ええ、その程度誰でも知っていることでしょう?」


「大統領選では石油メジャー関係からの反発があったとか?」

「ええ、彼等は商業系とは折り合いが悪いので大統領のみならず私を含めて、かなり苦戦を強いられましたな」


「そうですか。石油メジャー・・・邪魔ではありませんか?」

「なっ!二人だけだから良いですが、それは危険な発言ですよ、総理」


「分かっています。しかし、昨今の環境問題などを鑑みますと、脱炭素は石油メジャーが存在する限り厳しいのでは?」

「それは・・・確かに強烈な反発があるのは確かです。いくら再生可能エネルギー方向に舵を切ろうとしても下院、上院のどちらかで潰されるか差し戻されるかで、苦しい状況ではあります。しかし今更その話題を出す意味が理解しかねるのですが?」


「・・・我国で、石油に代るエネルギーの開発が進んでいます」

「なっ!本当ですかっ!そのような情報は聞いたことがありませんが・・・まさか極秘裏に?」


「そうですね、詳細はまだ機密扱いなので申せませんが。何も燃やさず、何も排出せず、それでいて大量の電気を作り出せるでしょう」

「そんな夢の様な技術が、本当に?」


「その有用性があり過ぎる技術であるがために、石油関連の国や企業などから猛攻撃を受けるのは必定。しかし、同盟国の大統領に何も言わない訳にはいかない。なので突然の訪問をさせていただいたのです」

「・・・と言うことは、スパイを警戒しておられる・・・その上で大統領に話しても問題無いと?」


「ええ。ですが充分に御注意を。何処にどんな者がいるか分かりません。情報の取り扱いは細心の注意が必要でしょう」

「それは心得ていますが、何か懸念でも?」


「少々。そちらの中央情報局も動いているらしいと耳にしまして・・・」

「なっ!」


本日何度目になるか?大使の驚く姿が見える。


「それは本当ですか?確かに、あそこは優秀ですが・・・」

「私も昨夜聞かされたところですが、間違い無いようですよ」


「す、直ぐに止めましょう。総理の言葉が確かなら、下手な所から情報が漏れると大惨事になりかねない」

「私の言葉だけでは信用はできない、と?・・・冗談です。証拠が無ければ信じられないのは私も一緒です。言葉など、いくらでも言いたいように言えますから。なので一度官邸にいらしてください。面白い物が見られますから」


「既に現物を御持ちだと言うのですかっ?」

「試作品ではありますが・・・詳細はその時にでも。できれば大統領にも同席していただけると守秘が、ね」


「少々調整は必要でしょうが、内々に話を通してみましょう」

「よろしくお願いします。我国一国で抱えるには、少々大き過ぎるモノですので・・・」



総理が帰った後の室内で、大使が一人考え込んでいた。

考え込んでいるのは勿論、今さっきまでいた総理が落として行った超特大級の爆弾についてだった。


「大使、総理は何を?」

「すまないな、少し頭を整理したいから一人にしてくれ」


「それほどの問題ですか?」

「例え秘書官の君でも言えることと言えないことがあるのは分かるだろう?それにまだ私自身が聞いた内容を自分で整理できていないんだ。頼むから一人にしてくれ」


心配して来た自身の秘書官すら遠避け、もう一度話を思い出す。


石油メジャーは我国で強い力を持っている。

やつらは力も金もコネもある。

それを使って、少しでも自分達の利益になるように暗躍するのだ。


特に昨今の中東情勢は石油メジャーの陰謀が渦巻いている。

知っている者は知っている暗黙の了解な話である。


あいつらの力の源は、世界のエネルギーを支える石油があるから成り立っている。

その状況を覆せる画期的な発電を可能にすると言う言葉。


真っ先に頭に浮かんだのは「核融合」だったが、燃やさず排出せずと言われると違うのではないか?と考えてしまった。


ならば何か?

その疑問の答えは無い。

そんな情報も上がってきていない。

全くの情報無し、寝耳に水である。


ありえるのだろうか?

情報の守秘に疎いこの国が我国に気付かれないように、そのような重要な研究をしていたと?


いや、考え辛い。

ならば、国が主導した研究ではない可能性は、どうだ?


最近になって報告されたために、この国も情報を知らなかった。

だから我国も情報を得ることができていなかった。


それならば、我国の諜報機関が動き始めている理由にも合致しそうである。


「この線が可能性として高そうだな。しかし、本気でそれを使うとするならば・・・相当慎重にことを進めねば、戦争にもなりかねない案件であることは間違い無さそうだ」


彼は心の中で「早急に一度本国に戻って大統領と直接話をしなければ・・・」と、そのための諸々に考えを向けていた。

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