第39話

「涼木さん!決まりましたよ」


御戸部さんの言葉の意味が理解できなかった俺は、つい素で「何が?」と聞き返してしまった。


「すいません。例の戦える人員ですよ。十二名が決まったそうで、来月からこっちに配属されます」


ああ、やっと決まったのか。

まあ守秘の関係で人選に時間が掛かったんだろうね。


「そうですか。で、その十二人は何処で生活されるんです?凄く言い辛いんですが、人の出入りが少ない所に突然大勢の人が出入りすると目立つんですけど・・・」

「・・・あのー、工場を使われて無いなら、借りたりできませんかね?」


まさかとは思うけど・・・


「滞在先を考えてなかった。人の出入りで目立つのを忘れていた。どっちです?」

「・・・後者です・・・」


うーん、工場に滞在されると俺の行動に制限がかかるよな。

それは正直に言って、困る。


だけど、出入りが目立つのも困るよな。

何か良い方法は無いかなぁ・・・


「・・・正直に言ってしまうと、工場で生活されるのは困ります。私は工場で生活してますし、その~プライベートが無くなるので」

「あぁあ~、そうでしたね。それは確かに御迷惑になりますね」


そうだよ!御戸部さんが来た時の方法を使えば!


「そこで別の提案です。前に御戸部さんが農家の格好で来たことがあるじゃないですか?あれの応用で、伐採業者の格好で通って来るのは、どうでしょう?」

「伐採業者?」


「ええ、私が山を持ってると知っている者は近隣に何人かいますし、人の出入りが目立っても「山の手入れをすることにしたんだ」って言えば、住民は納得するはずです」

「それは有効そうですが、実際に山の手入れがされてないとバレますよね?」


「そこは別途お願いしようと思ってたことなんですが、道を作りたいんですよ。塔までの」

「塔までの?今も行き来はでき・・・っ!そう言うことですかっ!」


気付いてくれたようだ。

実は、今の道って完全に獣道なんだよね。

今後人の行き来が増えるなら、きちんと整備したいと思ってたんだ。


俺が魔法でやるのも考えたんだけど「どうやって?」って言われるのが分かってたんで、すっかり後回しにしてたんだ。


「つまり、実際に作業する人間を数名とそれに便乗して十二名を運んで来させると言うことですね」

「ええ、お願いできますか?費用は払いますから・・・可能なら分割でお願いしたいですけど・・・」


「費用・・・確かに無償で、と言うのは不味いでしょうね。少々調整の時間を下さい。費用の件も確認してみますので」

「ええ、お願いします。塔が公開されれば入塔料を払って貰うつもりなので、そうなれば分割で払えますので」


そう入塔料!

塔に入る時にお金を払って貰い、それを師匠達と俺の生活費にするのだ。


「そんな話聞いてましたね。いくらぐらいにする予定なんですか?」

「下の方の体験階層は娯楽の意味もあるので少々高目にしようと思ってます。魔石を採りに来た人は、採った魔石の一部で払って貰おうかと」


「魔石で?」

「ええ、武器の製作に必要なので。最初はこっちで賢者に頼んで提供しないと武器の製造まで手が回りませんよね?」


極秘で進めてるから、武器の製造方法はまだ教えていないし、仮に教えても直ぐに始めることはできないだろう。

そうなると最初のうちは、誰かが作らなければならないが、できる人間がいないってことになる。

最初はこっちで作って販売し、後々製造できるようになれば、その段階で魔石を販売すれば良い。


採った魔石はエネルギーとして供給したいだろうから、何処かで武器用の魔石を回収する必要があるし、これが一番角が立たないはずだ。

魔石を採ってきた者達も、武器を作るために必要だと言えば、それほど文句は言わないだろう。

仮に文句を言うようなら、その人物には魔石を使った武器の販売をしなければ良い。


「それは考えていませんでしたが、武器も地球の技術で製造可能なんですか?」

「できるみたいですよ。ただ、昔ながらの人の手による鍛造になるようですが」


「それは機械生産はできないと?」

「それは判断できないんです。何せ、そう言う技術は無いようでして」


「なるほど。無い物の判断は、確かにできませんね」


そうなんだよな。

だいたい鍛造にしたって、機械鍛造と手作業の鍛造があるし、それで品質に違いがあるか?と聞かれると分からないのが現状なのだ。

それを圧延、型抜き、プレス加工された機械生産品の刃物とか判断できる訳が無い。


まあ鍛造と鋳造の性能の違いぐらいは判断できるので、機械生産も鋳造に近いとは言えなくは無いだろうけど・・・


「そんな訳で、製造方法はまた別に御教えするつもりですから、製造ができるようになったら、国で買い上げてもらうとか、何か方法を考えて欲しいですね」

「それは別途報告をしておきます」


「で、話は戻りますけど、その戦闘ができる人員について賢者からの支援とか受けられませんかね?」

「支援ってどんな?」


「そのぉ、戦闘ゴーレムの戦闘を直接見たりとか・・・」

「あぁあ!それ意味無いですよ。最初の内は全然っ目で追えないんで、まず見れません。私もカメラで撮影してスロー再生しないと何が起きたのかすら分かりませんでしたから。まずはある程度鍛えてからじゃないと無理だと思いますね」


「ちなみにどの位の能力が必要ですかね?」

「私が戦わないんで、はっきりしたことは言えないんですが、賢者が言ってたのは拳銃の弾を避けれるぐらいでしょうか?」


「はっ?拳銃の弾?避ける?」

「ええ、映画で見た銃撃戦を「儂の弱い魔法と似た速度」だって、あと「これぐらいなら戦闘ゴーレムは避けれる」と言ってたので」


「冗談じゃ無いのは分かるんですが、正気を疑うレベルの話ですね」

「さあ?私には何とも言い辛い話なので」


まあ、普通じゃ無いのは理解できるよ。

でも、それでも遅いんだよね。

能力強化系の魔法、例えば〈速度上昇〉を使うと、魔法の技量と肉体能力によってはマシンガンの弾を全部剣で斬れるようになったりするからなぁ。

まあ勿論〈速度上昇〉だけじゃ足りないから、他にも魔法を使わないと体に物凄い負担が掛かって逆に怪我をするんだけど。


ただ異世界と違って、この世界の人間は魔素を取り込んで魔力に変換することができないから、モンスターと戦っても劇的に強くなったりはできないんだよね。

魔素を効率良く体に取り込めないからってことみたいだけど。


この辺は検証するための検体数(御戸部さん達二人だけ)が少なくてデータが足りないから確証は無いんだけど。

現状分かっているのは」、十分の一~二十分の一くらいまで効率が落ちるってだけだ。


その点、俺は召喚された御陰か普通に魔素で強化されてるから、拳銃の弾ぐらいは摘んで止められる。

100m走だったら、たぶん四秒掛からないんじゃないかな?

勿論、魔法での強化ありでだけど。


それ以上は空気抵抗とかで生身だと無理だろうしね。


それにしても、初の戦闘人員が来るんだよな。

どんな人達だろう?

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