第38話

目の前の男性は呆然とした表情のまま私に話し掛けてきた。


「・・・それは本当か?冗談じゃないのか?仮に冗談だとしたら、山元、俺はお前をぶん殴っても良いよな?」

「殴られるのは痛いので勘弁して下さいよ。あと信じられないかもしれないですけど、御戸部さんの後ろで聞いてましたから全部本当の話です」


静かな口調で言われると、余計に怖いんですよ。


「・・・どうしてなった?何が原因なんだ?」

「ですから。彼が懸念した内容を賢者が判断して出した答えだと・・・」


自分からは、それしか言えませんよ。

だって自分が言い出したことじゃありませんし。


「馬鹿かっ!賢者ってのは、賢い者って意味だろうが!そいつは賢者じゃなくて愚者の間違いじゃ無いのかっ!」

「そうは言いますけど、彼の懸念って当たってると思いますよ」


まあ想定が甘い気はするが、彼は官僚じゃなくて一般人だしそんなものでしょう。


「日本人の参加者が少ないってヤツか?」

「ええ。自分も聞かされてみて同じ感想を持ちましたから」


これは涼木さんの話を聞いていて素直に、そう思いましたから。


「確かに日本人の気質として、自分から危険に飛び込むって考えは少なそうだな」

「でしょう。なんだかんだと苦労して独占状態で公表しても、その後の供給が「全然足りません!」じゃあバッシングを受けるだけでしょう」


足りない=バッシングってのが割りと政府にとって痛い気がするんですよ。


「それはその通りだろうとは理解できるし、最終的に海外勢に魔石集めを許可するのは、まだ良い。何で所有権を譲るって話になるんだ!それが大問題だろうがっ!」

「それも言いましたよね。自分達が所有権を得れば!って考えるのは、そう言う国や石油メジャーだろうから、そう言う所からからの攻撃をさせないためだって」


この話は、かなり希望的な想定になっているとは思ってますけどね。


「俺が言いたいのはじゃ無い!「攻略は真剣にやらんと面白く無いじゃろう?面白くするためには、それなりの褒美が必要じゃからな」ってヤツの方だ!」

「あぁ、それは自分も思いましたが彼に言っても仕方ないですし、違う世界の住人にこっちの世界の感覚を押し付けるのも・・・」


それこそ自分じゃあ関与できない賢者の言葉ですからね。


「・・・世界の違いってのを、これほど理不尽に感じたのは初めてだ・・・」

「そこは激しく同感します。というか、自分、それを一番に聞かされている立場なんで、誰か代って貰えませんかね?そろそろ胃薬が効かなくなってきて」


被害が一番大きいのは間違い無く自分だと思うんですけど、本当に誰か交代してくれないかなぁ。


「俺も常用してるから無理だ。お前以外で御戸部のバディができると思うやつを誰か推薦してみろ?」

「・・・すいません。誰がやっても続きそうに無いです」


自分でも酷な現場だと思うんで、無理は言いませんよ。

それに最前線なのに危険が無いなんて、自分的には助かるんです。

だってねぇ、走り回ったり犯人捕まえたりって疲れるじゃないですか、肉体的に。

まあ、こっちは肉体的には疲れなくても、精神的に疲れますけど・・・


「だよな・・・で、本当に最上階には行けないのか?その保証は?」

「まず入り口が狭いので大型の兵器等は持ち込めません。次に〈魔素〉の関係で通常の兵器は三十階層あたりで威力が足りなくなるそうです。次に、五十階層辺りからは〈魔法〉が使えることが前提になるそうです。最後に、核兵器を中で使用された場合、それを無力化する研究をしているそうです。これは彼が賢者に説明して、その結果研究が開始されたと」


「核兵器って・・・マジか?それ」

「ええ、本当らしいです。ただ自分は気になって聞いたんですが、魔素が潤沢にある塔の中かその周辺でしか効果は見込めないようでした。確か・・・消費が激しいので距離が離れるほどに効果が期待できなくなる、だとか。これは他の魔法も同じみたいなので、そこからの予測みたいでしたけど」


「そ、そうか・・・しかし、その、今の話だけでは最上階に絶対に到達できないって証拠にはならないだろう?」

「えーっと、自分は正気です!と先に言っておきますが、賢者が言うには「儂が本気で魔法を使うのなら半日で日本を海に沈められるぞ」とか、つまりそれぐらいじゃないと塔の最上階には到達できないってことみたいです」


「・・・・・・・・・何処のそれは・・・・・・」

「・・・ですよね・・・自分も同じことを思いました・・・」


本当にそう思いますよ。

脅すにしても街とか都市とかのレベルじゃなくて日本て国丸ごとなんて自然災害より性質が悪いんだから・・・



*** *** *** *** *** ***



「・・・はぁあ~、冗談、では無いよな?」

「ええ、私も同じ反応をしましたから理解できますが・・・」


「なぁ、日本を海に沈めるとなると、どのくらいの戦力が必要になる?」

「・・・地球上の全ての兵器を使っても不可能かと・・・」


「・・・それは外には漏らせない情報だな。緘口令を敷いておいてくれ」

「既に関係者には」


「それにしても、そのレベルで守られた塔なら確かに所有権が何処かの国に移ることは無いのだろうが・・・我国は内にトンデモナイ爆弾を抱えることになったな」

「そこは考えようかと。我々が刺激しない限り暴発はしないでしょうから」


「そうは言うが、我国の戦力に数えることはできないだろう?」

「強過ぎる力を持てば人は狂います。背後にある、それだけでも充分に支えにはなるのでは?」


「はぁあ~、そう思うしか無いな。で、君は賢者の言い分を飲むのかね?」

「それが一番争いを生まないかと考えますが、正直、聞いた内容だけでは穴だらけですので、そこは部下達に頑張ってもらって穴埋めをせねばなりませんが」


「細かい所は任せるよ、君が上手く主導してくれ。私は素案が纏まった時点で動くとしよう」

「既に進めさせています。ところで、戦闘が可能な人員の方は?」


「色々柵のある人間が多くてね。影響の無い人選をしているが陸自から三名、海自から二名、SATから四名、民間から三名、計十二名を予定してるよ」

「民間人が三名も入るのですか?」


「その三人は特殊な人達だよ。SPや警察などに外部から指導教官として招かれてる方々だよ」

「・・・それはまた、良くその方達の了承が得られましたな」


「三人とも「面白そうだ」と言っていたみたいだね」

「・・・戦闘狂ですか?」


「私は穏やかな表情しか知らないが、そういう一面はあるのかもしれないね」

「では、いつ頃から?」


「正式には来月からだね。今は極秘裏に色々と調整中だよ」

「分かりました。できれば事前に資料だけでもいただけると助かります」


「・・・そうだね。来週にでもで届けさせるよ」

「よろしくお願いします、総理」

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