第34話

「何やら、総理の肝いりで作った「分室」とか言う所がコソコソと動き回っているようだけど、何をしているのかしら?」

「さて?私にはさっぱり分かりませんが、何か気になることでもありましたか?」


「あら!惚けなくても、最近総理と仲良く話し合いをしていると聞いてますわよ」

「それはそれは、良い耳をお持ちのようで。しかし、私が話をさせていただいているのは今後の政策の話でして、その「分室」ですか?その辺のことは、トンと知りませんなぁ」


「あらあら、それは私の見当違いだったかしら?あなたなら色々と知ってると思っていたのだけど・・・」

「私も常々そうありたいとは思っていますが、これがなかなかでして、困ったものですよ」


「そうですのね。では、もし耳に入るようでしたら、私にも教えていただきたいわ」

「そうですな。もし耳に入ればお教えできるように気を配りましょう」


化け女狐と化け狸の化かし合いは、こうして終了した。



「大臣?」

「んっ?あぁ、彼女か?あれは鎌を掛けてきただけだよ。情報の欠片も知りはしないよ」


「ですが「分室」の名前が出てますし・・・」

「いいよ、放って置きなさい。彼女程度が情報を取れるほど甘い管理はしてないからね。だいたい私は君にも話してないし、私がアノ話をするのは総理だけだからね。君も知らないことを話すことはできないだろう?」


「知っていても話したりはしませんが、確かに知らないことは話したくとも話せませんね」

「まあ、そういうことだよ。だからこそ、知る人間を少なく限定しているんだからね。ただ、これからは一層気を配る必要がありそうだけど・・・」


「どうしてですか?」

「彼女は面倒でね。平気で横紙破りをするのさ」


「では、「分室」の人間に直接?」

「やるかもしれないねぇ。少し注意するように連絡した方が良いかもね。あぁ、本当に面倒な人だよ」


そう言った大臣は、公安宛てにメッセージを送信する。

実は、分室に通じる電話と言うのは全て公安を通ることになっているのだ。

それ以外の連絡方法は、専用のスマホから専用のスマホへの二回線のみ。

分室の中から外に電話は掛けれるが、外から分室に電話は掛けれないのだ。


じゃあ、公安に掛かった分室宛の電話はどうなるか?


公安で伝言として紙に文字として書き出され、ある方法で紙のまま届けられている。

他にも色々な方法で徹底して情報を制限しているのだ。


そのために余計に、その秘密の部分が気になる人間が現れ始めた、のかもしれない。



*** *** *** *** *** ***



「モリト、検証は終了じゃ」

「で、できたってことで良いのか?」


師匠のことだからかなり細部まで確認したに違いないが、確認は必要だろう。


「ああ、できたのじゃ。ただ、大きな魔法は使えんのじゃがな」

「・・・ミスリルの配分が少ない、ってことだろ?」


何となくは分かっていたが、やっぱりな!って感覚だな。


「分かっておったんじゃな」

「まあ、師匠の弟子だしな。で、どのくらいまで使えるんだ?」


「三級は使えるが、四級は無理じゃな」

「そうかぁ、となると安定的に使えるのは五十階ぐらいまでだな」


当分の間は、問題にはならないだろうな。

五十階以上に到達できるのなんて、数年後だろうし・・・


「今現在、この塔の中で作れるミスリルは年間に500gほどじゃ。四級以上が使える魔道具はいくつ作れそうじゃ?」

「今の配合だと、一つ5gってところだな。仮に10gだとすれば500gだから五十個ってことになるけど、試作ってことで7gと10gを作ってみるから確認して欲しいな」


少なくても良いならできるだけミスリルは温存したいしな。


「その辺りは急ぐ訳でも無いんじゃ。ゆっくりやればよかろうが、管理はどうするんじゃ?」

「魔石の小さいのを組み込んで、自動回収機能を付けるつもりだ」


これは魔道具を作ってもらう話をした時から考えていた、外には持ち出させないための方法だ。


「塔からは絶対に持ち出させないと言うことじゃな」

「ああ、もし場所や環境によって一瞬でも魔法が使えたら大事になるからな」


世界中全ての場所で検証確認ができていれば問題無いが、そんなことは現実的に不可能。

特に俺が懸念しているのは、過去には地球上でも魔法が使えていたことだ。

超古代文明とか、古代文明とか言われる遺跡では、現代科学では製造方法が分からないような〈オーパーツ〉ってのがある。

もし仮に、これらがもし魔法で作られた物だとしたら?

遺跡に、この魔道具を持って行ったら「あっ!使えちゃった!」とかなりそうで怖いのだ。

そう言うトラブルを未然に防ぐなら、完全に持ち出せないようにするしか方法が無かった。


「使えんと言っとるのに使えてしまったでは不味いのじゃな」

「それもあるけど、ミスリルを検査とか調査とかされたくないのが一番だな。俺も色々と情報を頭に入れてるけど、全部を知ることはできないし、現代科学が何処までできるか?正確に知ってる訳じゃないからなぁ」


そう、もう一つの懸念事項が素材の解析だ。

分子、原子、素粒子と現代科学ではドンドンと色々な物質の解析が進められている。

そこに今までは知られていなかった〈魔素〉と言う物を教えることになる。

魔素は地球上には少ないと説明しているが、科学者と言うやつは、そんな極小物質でも確認したがるもので、ミスリルなんて見せた日には絶対に素材を解析しようとするだろう。

そういう興味を引かれるであろう物を外に出せば絶対に問題が起きると、俺は確信してる。

だから、徹底的に外には出さない方向で対策を考えている。


「まあ、外とのやり取りはモリトに任せるしかないんじゃ、頑張ってもらうしかないのう。さて、儂はそろそろ日本語の授業の準備をするのじゃ」

「任された以上頑張るんだが、面倒で面倒で・・・。それと、あの達ににも言っておいて欲しいんだけど、次の授業は・・・」


突然話の方向が変わったが、まあ良い。

俺は師匠に次の日本語の授業についての説明をすることにした。

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