第33話

「モリトよ・・・これを・・・どうしたんじゃ?」

「作ったよ。師匠も会った、この世界の神様から教えてもらってだけど・・・」


俺はツクヨミ様から教えていただいた配分で作ったミスリル合金を師匠に渡したところだった。


「神よりの・・・知識じゃと・・・」

「知識と言っても、ミスリルの量を減らしても性質を維持できるってだけだぞ。ミスリルが無ければ意味無いし」


少々言い分けじみたことを口走ってしまった。


「馬鹿者っ!神にきちんと御礼をしたんじゃろうな!」

「えっ!してないけど・・・」


「相手が神で無かろうと、何かしてもらったら御礼を返すのが人としての当たり前じゃろうがっ!」


・・・確かに、そうだな!


「悪かったっ!師匠。きちんと御礼をしてくるよ。師匠は、それで問題無いか確認してくれるか?」

「儂も御礼に・・・」


師匠がまともに喋っている姿が想像できない。

ここは・・・


「いや、これは俺がしてもらったことだ!俺が御礼をしなければダメだろう」

「・・・そうじゃな、しっかりと御礼をするのじゃぞ」


良かった、引き下がってくれた。


「分かってる」


俺は人として当然であることをするための準備を始めたのだった。


えっと、スサノオ様はツマミになりそうな物と日本酒が良いかな?

後は、和菓子と・・・洋菓子も入れるか!

異文化交流もたまには良いんじゃないかな?


そうか!これからは連絡をする時に持って行けば良いかもな!



*** *** *** *** *** ***



「定時連絡です」

「あっ!御戸部さん」


「変わったことは特にありません。いつも通りですね」

「そうですか。あとどのくらいでしたっけ?」


「残り十日ほどですかね」

「分かりました。お気を付けて」


盗聴などをされても問題無いように、定時連絡はこのような内容しか話さない。

しかし、実際は不可聴音波での暗号通信が中に紛れ込まされているのだ。


専用機器によって分離された不可聴音波部分を暗号解析装置で分析することで本当の定時連絡内容が分かるようになっている。


「・・・っ!これは、早く報告しないと」


暗号内容を確認した担当者は、室長の所へ走り出した。

走りながら『定時連絡の度に走ってるな』と今までを振り返る。


『偶には走らなくていい、普通の報告が欲しい』とは思っていても絶対に口に出せないが・・・


「室長!定時連絡の報告です!」


いつものように駆け込んで来た通信担当者に皆の目が集まった。

その視線には『またかよ』と言う感情が読み取れる。


「で、また急ぎか?」

「と、思われます」


「はぁあ、いつものことか・・・」


各省庁から〈姥捨て山〉と呼ばれるここ、数ヶ月前に創設されたばかりの〈分室〉と呼ばれる良く分からない部署が入るビルでの、最近では日常になりつつある光景だった。



*** *** *** *** *** ***



「・・・どうぞ御供えですので」

「そうか?じゃあ貰っておくぞ」


いつも通りの方法でスサノオ様を呼び、用意した御礼を御供えとして渡す。


「くれぐれも、三貴神の皆様に御供えした物なので、独り占めはオススメしません」

「分かっとる、まだ死にたくないからな」


ちょっと心配だったので、軽く忠告したら「死」と言うトンデモワードが飛び出してきた。


「「弟とは、姉に勝てぬもの」と聞きます、くれぐれも御注意ください」

「身に沁みておるわっ!」


まあ余りしつこくするのも良くないので、今後の俺の方針を説明しておくことに・・・


「ところで、今後定期的に御供えしようと思っているのですが、何か皆様の御要望があれば次の機会にでも御教え下さい」

「おっ!そこまですることは無いぞ」


「いえ、俺自身はそれほど信仰心がある訳ではありませんけど、それでも実際に会ったことがある神様を無視する気にはなりませんから」

「そうか・・・分かった、姉様達にも聞いておこう」


・・・無事に終わった。

やっぱり、神様とのやり取りは精神的に疲れるな。


でも、今回の御礼はできたし、まずは目的達成だ。


さてと、じゃあ帰って師匠の研究の確認をして、明日からの御戸部さんとの話し合いや調査の予定確認をしないとな。

あと、空き時間にまた動画の撮影をしないと、そろそろ投稿用の動画のストックが無くなるな。


他にも皆への日本語の授業の準備も必要だし、食糧の買出しもそろそろだったよな。

何だかこう考えると、やることが多いな。


まあ、会社をやってた頃と比べれば、全然楽なんだけど・・・

もっと楽できると思ってたのに・・・今の俺にはスローライフは無理みたいだ・・・


さて何から片付けるか?って、師匠の研究が一番だな!


「師匠~!御礼してきたぞ。そっちはどうだ?」

「・・・上手くいっとるわっ!邪魔じゃから、終わるまで他の所に行っておれっ!」


そんな感じで入ったばかりの部屋から追い出された。

・・・まださっきのこと怒ってるのか?


まあ追い出された以上、ここにいてもどうにもならない。


「明日からの準備をするかぁ~」


俺は工場に向かって歩き出した。



*** *** *** *** *** ***



「・・・っ!ど、ど、ど、何処がっ!いつも通りだっ~ぁ!」


室長の怒鳴り声が響いた。


余りの大声に皆が耳を塞いでいたが、視線を動かすと既に通信担当者はいなくなっていた。

その場の全員が『逃げたな!』と思うが、室長の手前そんなことは口に出せない。


「通信担当は何処へ行ったっ!呼び戻せっ!」


クソッ!例え、塔の中限定とは言え、これは爆弾どころか核に匹敵するぞっ!

異世界の賢者と言うヤツは!何で物事を穏便に進めるってことができないんだ!


だいたい御戸部も御戸部だ!

こんな短い説明で、何を理解しろってんだ!


この世界で「魔法」が使える何てっ!


特殊な道具って書いてあるが、それを現代科学で複製できない確証が無いだろう?

それを勝手に進めてる何て・・・


これを俺はどうやって上に説明すれば良いんだ・・・


「胃が痛い・・・」

「室長、胃薬要りますか?」


「ああ、いつもの所にあるヤツ頼む・・・」


あぁそうだ、胃薬を買い足しておかないと・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る