第32話

師匠に依頼していた〈塔内限定魔法発動具〉はどうなったかな?

そんなことを思い出したのは、十日ほど御戸部さんの相手をして「明日は休日にします」と言われた後だった。


「師匠、どう?」

「モリト、素材の関係でなかなか難しいのう」


「どんな感じな訳?」

「レティーの鱗をベースにせんと上手くいかんようじゃ」


「・・・それは、ちょっと素材として過剰じゃないか?」

「儂もそう思うんじゃが、外で使えんように制限するためにも割と良い素材が必要でのう。ミスリルがあれば良いんじゃが、この世界では手に入らんのじゃろう?そうなると上位互換で生え変わりである程度数量が確保できるレティーの鱗しか選択肢が無いんじゃ」


そう言われてしまうと反対するのは難しい。

だが、人型のレティーを見ていても普通にしか見えないが、彼女の本当の姿はドラゴンである。

その鱗となれば、特殊な方法以外で加工することもできない最上級に近い金属系の素材である。

とても地球上で加工できる者などいないだろうが、それを外に出すことに躊躇いがあることは理解してもらえるのではないだろうか。


「・・・ミスリルか・・・俺の方でも合金化でミスリルの量を減らしながら、機能を付加できないか調べてみるよ」

「そうじゃな、そっちは頼むのじゃ。儂は魔法の構築と動作確認だけでも、まだまだ時間が必要じゃからな」


「了解!じゃあまた後で」


さて、合金化を請け負ったは良いが、無数に存在する組み合わせをテストできるほどミスリルの在庫は無いし・・・何か良い案は無いかな?


基本的な合金の知識も無い俺に、有効なアイデアや画期的な方法が思い浮かぶ訳も無く、できるのはネットで情報や資料を漁るぐらいだった。

それにしたって、ファンタジー金属の代名詞であるミスリルなんて物を取り扱った情報などある訳も無い。

だから、一番近いであろう銀の合金を調べるのがやっとって言う有様だった。


数日後。


「ピロンッ!」


ん?メールの着信音?

誰からだ?


パソコンの画面上に表示された、新着メールの知らせをチェックしてみる。

最近は俺にメールしてくるのなんて、ボットの商品紹介メールや登録してるネットショップの案内ぐらいしか無いので着信音の設定から外してる。

つまり、今着信したメールはそう言うメールでは無い訳だ。


「えーっと・・・送信者名、ツクヨミノミコト・・・はぁああっ!」


何で!神様がメールなんてしてんの!

何で突然直接連絡なんてしてきたんだ?

理由は?

もしかして!俺何かやっちゃいけないことしたのか?


かなり恐々とメールを開いてみる。


『スサノオノミコトに連絡してちょうだい』


内容は、それだけだった。

いやいや、全く意味が分からないし安心できない!

どう考えても怖いだろ、これ!

何を言われるかも分からないのに、連絡しろって・・・嫌~ぁ~!


と言って、無視できるはずも無く・・・

何だか背中に嫌~な汗が・・・


「行くしか選択肢が無いよな・・・」


車に向かう俺は、足取りも気分の重く・・・としていた・・・



前回と同じく、二礼四拍手一礼の合図を送る。

だが、何を言われるか分からないって状況で打つ拍手に力が入る訳も無く、「パンッ!」とは鳴らず「パスンっ」って感じだった。


「おお、来たか!・・・どうした?そんなに暗い雰囲気で?」

「スサノオ様、今回の急な呼び出しは?」


「そうだった!ツクヨミ姉様からの伝言だ。モリトが求めている合金の配分を教えろと言われておる。良いか?心して聞くが良い」


ほぇ?どういうこと?

俺何か不味いことをしたんじゃないのか?


「おいっ!ボーっとするな!一度しか言えんのだぞ!」

「す、少し、少しだけ待って下さい!」


スサノオ様の声で一時的だが正気に戻って、ポケットから手帳を取り出した。

スマホのメモ機能でも良かったかもしれないが、電子機器ほど情報漏洩し易い物は無い。

今はアナログな方が安全なのだ。


「・・・ミスリルを100%ととした場合の配合率は以上だ。あとは1600℃以上で焼成すれば望む合金になるだろう」

「・・・はい、ありがとうございました」


「で、何で雰囲気が暗かったんだ?」

「それは・・・」


答えない訳にはいかず、俺の思い込みだったと説明すると「はっはっはっはっはっ、それはそれは勘違いするにしても盛大に間違った勘違いをしたな」と笑われた。


「盛大に間違った勘違い、ですか?」

「そうだぞ!ツクヨミ姉様は間違ったと思ったら、回りくどく連絡などせん!直ぐに召喚されるか、でなければ即決で神罰が落ちておるわ!」


・・・弁明も猶予も無いのか・・・もっと怖いじゃん!

でも・・・勘違いで・・・良かった・・・


行きと違って、帰りは心も軽かった。

だが、驚いたのは帰ってからだった。


またもやメールが届いていたのだ。


内容は『20文字の制限があった、すまない』だそうで、神様の世界にも色々とあると分かったのだった。


それにしても、まさかツクヨミ様から謝罪されるとは思わなかったが、俺の不安だった気持ちも分かってもらえたようで、終わり良ければ全て良しかな。


さてさて、師匠に報告する前に合金の配合をテストしてみないとな!

やるぞー!



*** *** *** *** *** ***



「痛ってーっ!」

「五月蝿いわ、スサっ!」


「ツキ姉ぇが殴るからだろうがっ!」

「スサが余計なことを言うからでしょう!」


何やら姉弟喧嘩が発生しているようだった。


「モリトが変な勘違いしてたから訂正しといただろうが!」

「その内容がおかしいんでしょう!何で「即決で神罰が落ちる」のよ!」


「あっ!聞いてたのかよ!」

「当たり前でしょう!伝言を正しく伝えるか気になってたんだから!」


弟の不要な発言に、姉が怒っているようだった。

何処の世界でも、姉弟喧嘩で弟が姉に勝てるはずが無いのだった・・・

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