第31話

「室長!定期連絡がありました。が、内容が少々・・・」

「おいっ!途中で話を止めるな!」


「・・・こちらを・・・」


連絡官が渡してきた定期連絡の書類を受け取る。

その内容に目を通した途端、眩暈が襲ってきた。


「・・・これは・・・確認したのか?」

「まだです。連絡を受けて直ぐにこちらに報告に来ましたので」


「情報担当に確認をさせろっ!最優先だ!」


大きな声で指示を出してから、もう一度連絡内容を確認する。


『戦闘に長けた、それも達人級の人物の協力が無ければ武器の有用性の確認は困難。可能なら下記に記載のアドレスの動画と同等の動きが可能な者が望ましい』


ったく、何で超極秘であるの動画がネット上に投稿されているんだ!

いや・・・書いてあるから理由は分かるんだが・・・それにしたって、他に方法があるだろうに!


「おいっ!全担当長を呼べっ!緊急会議だ!」

「は、はいっ!直ぐに連絡します!」


取り敢えず、動画の内容を確認して、それから戦闘ができる・・・この場合自衛隊か?防衛省に伝手つてがあるやつがいたかな?

はぁ~あ、ただでさえ問題だらけなのに追加するなよ・・・



*** *** *** *** *** *** 



「ガッンッ!」


3mmほどの薄い鉄板を突き抜けて、人差し指の先ほどの尖がった物が生えている。


「御戸部さん、これが〈一角兎ホーン・ラビット〉ですよ」

「いやいや、涼木さん!これ鉄板を貫通してるじゃないですかっ!」


「だから言ったでしょ。モンスターは普通じゃ無いんですって」

「・・・正直、これほどとは思ってませんでした」


俺達がいるのは、塔の十六階。

体験版が終了して、最初に本当の意味での戦いを経験するはずの場所だ。

そこのモンスターは〈一角兎〉5cmぐらいの角が生えた牙のある肉食兎である。


ジグザグに走るので、なかなか狙いを定めるのが難しく、兎らしい俊敏な動きで獲物に素早く突進し額の角で一突きだ。

足などなら動きは鈍るくらいで何とかなるかもしれないが、急所にでも喰らえば、それで終わりって可能性もありえる。


「見ての通り3mm厚の鉄板なら簡単に貫通します。これで魔石で強化が必要だって言った意味が分かるでしょう?」

「分かるでしょ?じゃ無いですよ!何で今回は賢者様の補助が無いんですか!」


「補助してもらったら、本当の怖さは体験できないでしょう?それじゃあ、正確な評価はできませんよね?」

「そんなの、怪我するより良いでしょう!」


「えっ!だって武器の確認で死ぬかもしれなかったのは良かったんですよね?じゃあ怪我ぐらいですむなら問題無いんじゃないんですか?」

「それは・・・無理だって言いませんでしたっけ?」


「・・・聞いたかも?」

「そんなっ!忘れてたんですか!もう分かりましたから、帰りましょうっ!山元っ!映像は撮れてるよな?」

「問題無いですっ!俺も早く帰りたいですっ!」


「・・・仕方無いですね。じゃあ帰りましょうか」

「「良かったぁ~」」


これで少しはモンスターの怖さが身に沁みたかな?

安易な考えだと、マジで死人の山になるからな。

ここで、しっかりと心に刻み込んでもらっとかないと・・・



*** *** *** *** *** ***



「で、室長。これ本物なんですか?」

「御戸部の連絡通りだと、そうなるな・・・」


「と言われても、私達のような戦いと無縁の人間では正確な判断できませんね」

「だな。と言って、戦いを専門にしている所は自衛隊になる訳で・・・」


「そうなんだ、今回の組織に自衛隊、と言うか防衛省は入っていないんだ」

「そりゃあ難しいですよ。あそこは一定数アチラさん寄りの人間がいますから、主に武器なんかの繋がりで・・・」


「・・・そうは言っても、何とかしてこの動画の検証はしないと何も進まんぞ?」

「あの~、部下から提案があったのですか・・・」


「どんな内容だ?」

「この動画、リアルか?フェイクか?の議論がされているんですが、その延長で本物の武術家に検証の協力を仰ぐのはどうでしょう?」


「何と言って協力を仰ぐつもりなんだ?」

「内容としては「ネット上で話題になっている動画なのですが、もしこれが本当に実在するなら危険なモンスターが存在することになるため真偽を明らかにしたい。ついては戦闘の専門家である皆さんの意見を聞かせてもらえないだろうか?」と言う感じです」


「どう思う?」

「自衛隊に協力を要請できない以上、それが最善ではありそうですが・・・もう少し詰めないといけませんね」

「自衛隊を完全に排除はできないでしょう?将来的に絶対に協力は必要ですし、今から問題の無い人選は進めるべきかと」

「既に動画がネットにある以上、外部に極秘で検証の協力を仰ぐのは問題無いでしょう。ただ、コメントなどで視聴者が暴走しないようにコントロールする必要があるのでは?」


「・・・分かった。最終決定では無いが、この提案を主軸に動くことにしてみよう。君達は、それぞれの部署で今の問題点や改善点、他に注意するべき点が無いかの検討を進めてくれ。取り敢えず、三日後に再度、会議を行うからな!」

「「「「はいっ!」」」」


言われてみれば、塔の中で魔石を得るためにモンスターを倒さなければならないなら戦闘は避けられない。

まだ今なら、そっちにも手を伸ばせるか?

早い内に検討を進めておけば、後で慌てずにすむだろうし、逆に言えば、これが公表ギリギリで分かっていたら色々詰んでいたかもしれんしな・・・


それにしても、いつまでこの情報を守り続けられるか?

人選はかなり厳しくしているが、それでも完全に穴を塞ぐことは難しいのも事実・・・

できれば正式な公表まで守り切って、中途半端な状況での他国の介入は避けたいところだ。


まあ、最大の難関は〈国会〉だろうが・・・

総理は一体どうやって法案を認めさせる気なんだろうか?

特に情報漏洩を考えれば、法案提出後、即決定でなければ不味いだろうしな。


国益を担う議員が他国に対して尻尾を振るなどバカとしか言いようが無いんだが、どうしても利権が絡むと一定数の親他国派が生まれるからな・・・

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